13期・17冊目 『砂の王宮』

砂の王宮 (集英社文庫)

砂の王宮 (集英社文庫)

内容紹介

【内容】
戦後、神戸三宮の闇市で薬屋を営んでいた塙太吉は、進駐軍の将校相手に御用聞きをしている深町信介と出会う。薬を大量に売り捌くという深町の提案に乗った塙は、膨大な儲けを手にする。
昭和32年、門真にスーパーマーケット「誠実屋」を開業。その後、格安の牛肉を店頭に並べることに成功し、業績は劇的に向上した。
東京への進出計画も順調に進むが、不動産王・久島栄太郎に弱みを握られ、さらに意図せず深町の死に関わってしまい、塙は絶体絶命の危機に陥る。

戦後間もなく、日本中が困窮を極めて闇市で物資を売り買いされていた時代。
海軍から復員した塙太吉は家業である薬局で手っ取り早く稼ぐために伝手を辿って進駐軍横流し物資を扱うことで大きな儲けを出すことに成功しました。
誰もが生きていくことに必死だった世間とは隔絶した煌びやかな進駐軍のパーティの片隅にて、将校相手に御用聞きをしていた元商社マンの深町信介という男と出会い、意気投合した二人はコンビを組んで将来を見据えたビジネスを展開していくことになるのでした。
深町が見聞した知識からアイデアを提供し、塙が事業に取り入れるといった関係が続き、やがて今までの商売の常識を打ち破るスーパーマーケット「誠実屋」を開店するに至るのでした。
地元商店街との対決など、数々の試練を乗り越えて店舗を増やしていく「誠実屋」ですが、時が経つにつれて後追いのライバルのスーパーとの競争も激化し、業績は頭打ちします。
そこでまたしても深町の仲介によって、オーストラリアの若牛を沖縄経由で仕入れて格安で売るという手法で爆発的に売上を伸ばし、やがて東京進出へと乗り出します。
そこで深町から紹介されたのが不動産王・久島栄太郎。
彼によってうってつけの土地や事務所まで用意してもらうことになり、その時は良いビジネス相手と組めたものだと思ったのですが、後になって巧妙な罠が仕掛けられたことに気づくのでした。


闇市から脱却し、画期的なビジネスを確立させて財を築いたある商人の立志伝という体裁を取りつつも、ビジネスパートナーの死や後を継ぐ血脈の対照的な生き様など、複雑な要素が絡んだエンターテイメントとして仕上がっています。
この話って、もしかしたらあのチェーン店がモデルとなっているのかなとか思いながら読みましたね。
いくら斬新な手法で注目を集めたとしても、いつまでも生涯が順調にいくわけがなく、主人公が壁にぶち当たりながらも必死にアイデアを絞ったり仲間と協力して乗り越えていくさまは読んでいてワクワクします。
どんどん世の中が変わっていく高度成長期という時期であることも関係しているのでしょう。
一転して、塙の晩年に当たる時期はリニア計画の噂だけを根拠に巨大店舗に固執して精彩に欠いた感じがしました。
塙が認めなかった長男の認識の方が時代を先取りしていた気がします。その人格にはおおいに問題があるにしても。
どちらにしてもネット販売を始めとして今後の小売りの形を小説として発表して、数年後に読むと現実感が湧かなかったりするから難しいですね。