13期・30冊目 『エチュード』

エチュード (中公文庫)

エチュード (中公文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

渋谷・新宿で相次いで発生した無差別殺傷事件。警察は衆人環視のなか、別人を現行犯逮捕するという失態を繰り返してしまう―。警視庁捜査一課・碓氷弘一は警察庁心理調査官・藤森紗英を相棒に事件の真相に迫る。

渋谷駅前のすぐ近くに交番がある人ゴミの中で無差別殺傷事件が発生。
駆け付けた警官たちは男性が返り血を浴びた犯人を取り押さえて、すぐ近くに刃物が落ちていたことから難なく容疑者を確保。
協力者がすぐに姿を消してい、取り押さえられた犯人は「俺じゃない」と犯行を否認したものの、死亡者一人、怪我人二人を出した事件はあっけなく収束するかと思われました。
数日後、今度は新宿の雑踏でそっくり再現したかのような事件が発生。
容疑者を取り押さえた協力者がいたことだけでなく、警官が取り押さえるまでの過程や死傷者数までそっくり同じという状況に現場に居合わせた警視庁捜査一課・碓氷弘一は疑問を抱きます。
ちょうど捜査に協力することになった警察庁心理調査官・藤森紗英の意見を入れて、真犯人がたまたま似たような服装の別人を捕まえて「犯人だ!」と叫んで”すりかえ”を行ったトリックを暴こうと動き始めます。
偶然でも模倣犯でもなく、同一犯人の仕業であるならばもう一度犯行を行うのではないかと検討したところで、最初の事件と同じ渋谷で発生。
今度は協力者を無事確保できたと思いきや、協力者自身がすりかえられた可能性が出てきて・・・。


本来ならば大勢の目撃者がいそうな人ゴミの中での通り魔事件で人間の心理の隙をついた”すりかえ”のトリック。
それも一般人よりも観察力に優れている警察官相手に行い得たというのが盲点で、ぐいぐいと惹き込まれましたね。
平凡な刑事が優秀な美人心理調査官と組んで捜査にあたるわけですが、男社会でリアリスト集団である警察では女性への風当たりが強い上に手品じみた心理トリックなどで騙されるわけがないと信じ込んでいるわけで。
主人公の碓氷弘一は特別優秀でもないですが、ベテランゆえに人の機微を読むのに長けていて、藤森紗英のサポート役として見事に貢献しているのを感じました。
ただし、彼女のプロファイリング自体は仮説を重ねただけの強引さがうかがえて*1、ご都合主義というか、犯人割り出しが強引すぎると思いましたね。
最後があっさりしていたのはしょうがないとしても、罠に嵌められて困惑する真犯人の様子が目に浮かんできてニヤリとさせられました。

*1:エチュード」という単語から音楽系の学生だったというのは根拠が弱すぎる。