池井戸潤 『MIST』

MIST (双葉文庫)

MIST (双葉文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

標高五百メートル、のどかで風光明媚な高原の町・紫野で、一人の経営者が遺体となって発見された。自殺か、他殺か。難航する捜査を嘲笑うように、第二、第三の事件が続けざまに起きる。その遺体はみな、鋭く喉を掻き切られ、殺人犯の存在を雄弁に物語っていた。“霧”のようにつかめぬ犯人に、紫野でただ一人の警察官・上松五郎が挑む。東京の事件との奇妙な符合に気づく五郎。そして見えてきた驚くべき真相とは―。

駐在所の警官・上松五郎を主人公として、のどかな高原の町・紫野*1を舞台に田舎町にふさわしくない残忍な連続殺人事件を扱っています。
時代設定としては90年代のインターネットが普及し始めた頃*2でしょうか。
そもそも5年前に東京都中野にて、パソコン通信を通じて自殺願望を持つ者が交流まるサイトのつながりで次々と首を刃物で切られて殺される事件があり、解明されないまま紫野で似たような殺人が発生したのです。
最初の犠牲となったのは、工場の経営に苦しんでいたという経営者。
二番目に町を訪れていろいろと探っていた新聞記者。
三番目に町に別荘を持つ金融会社の社長。
最初の経営者は実際に自殺を行って死にきれなかったところをとどめを刺したあたりが5年前の事件を彷彿させるし、新聞記者は犯人に近づいたためか?
そして金融会社社長は途中まで容疑者とされていた人物でした。
恐ろしいほど手際が良すぎて証拠を残さない犯人像に警察の捜査は進まみません。
何人も殺人を犯しながら、今もなお平然と日常生活を送っているのか?


犯人と目されていた人物が殺されたり、一件落着と思わせておいて、実は……という流れがミステリというよりホラーサスペンスといえましょうか。
田舎町ならではの人間関係とか独特の雰囲気作りは決して悪くはありません。
ただ、最後の方で真犯人の動機があまりに弱すぎて納得いきませんでした。
犯人の過去の回想で、少年時代に初めて手を下したことがきっかけらしいと受け取れるのですが、実はそれすら本当かどうかわからない。まさにタイトルのミスト(霧)を思わせる曖昧模糊とした読後感でした。
それに主人公を除く主要な人物が不倫ばかりなのが気にかかりました。
事件に直接な関係ないけど、ちょくちょく登場する洋品店経営の夫婦がダブル不倫中。
ヒロイン的な立場の女性教師が先輩教師と不倫中で、その先輩も妻が職場の男性と不倫中に自動車事故に遭った過去がある。
大人の恋愛=不倫ではないですよね。
女性教師に懸想している主人公が職業的な立場と本人が純情なのもあって、まともに口説くことさえできないのが微笑ましく見えるほどでした。
ラストも悪くない幕切れではあるものの、途中の伏線が曖昧なまま強引に締めた感じがしなくもなかったです。*3

*1:東京から離れていて、西にあるという位置関係から長野県か岐阜県を思い浮かべた

*2:接続に電話線を使用している

*3:最後の最後に現れた真犯人が唐突すぎて…