11期・22冊目 『暗い越流』

暗い越流

暗い越流

内容(「BOOK」データベースより)

5年前、通りかかった犬に吠えられ飼い主と口論になった末に逆上し車で暴走、死者5名、重軽傷者23名という事件を引き起こした最低の死刑囚・磯崎保にファンレターが届いた。その差出人・山本優子の素性を調べるよう依頼された「私」は、彼女が5年前の嵐の晩に失踪し、行方が知れないことをつきとめる。優子の家を訪ねた「私」は、山本家と磯崎家が目と鼻の先であることに気づいた。折しも超大型台風の上陸が迫っていた…(「暗い越流」)。第66回日本推理作家協会賞“短編部門”受賞作「暗い越流」を収録。短編ミステリーの醍醐味と、著者らしいビターな読み味を堪能できる傑作集!!

「蠅男」
探偵の葉村晶は依頼人より、廃屋と化した実家から何年も前に自殺した親の遺骨を取ってくるという奇妙な依頼を受ける。
そこは入った者が気分が悪くなるなど怪奇現象が噂されるミステリースポット。
すっかり荒れ果てた屋内を探索していた晶は地下室を発見した際に突然現れた蠅男に突き落とされてしまう。


「暗い越流」
凶悪犯罪を起こしながらも何もかも人のせいにしようとする往生際の悪い死刑囚・磯崎保に届いたファンレター。果たしてその意図は?
差出人・山本優子の素性を調査していた主人公は当の山本家と磯崎家が目と鼻の先であることがわかる。
そして山本優子本人は5年前の嵐の晩に家を出たまま行方がわからなくなっていた。


「幸せの家」
ナチュラルな暮らしがテーマの雑誌の編集長が突然失踪し、死体として発見された。
彼女は極めて有能な編集長であったが、裏では人の弱みを握ってあくどいこともしていたらしい。
ということは誰かに襲われてしまったのか?果たして犯人は・・・?

「狂酔」
アルコール中毒者の告白。
子供の頃に誘拐された過去、ある少女の妊娠と出産、父親の自殺。
それらは教会の児童施設「聖母の庭」を通して繋がっていたのであった。


「道楽者の金庫」
広大な屋敷を持つ資産家が無くなり、遺産整理の手伝いに駆り出された探偵の葉村晶。
資産家はこけしの収集家でもあったが、その中の一つに金庫を開ける鍵が記されているという。
そのこけしを探すために福島にある別荘に赴くが、探している最中にこけしが飾られている棚が倒れてきて・・・。



最初と最後の一作は探偵・葉村晶のシリーズのようです。
どちらもミステリ要素は少なくて、ちょっと二時間もののサスペンスドラマのような軽い内容に思えました。ただし葉村晶が受ける災難にはかなり同情してしまいます。
「道楽者の金庫」に登場する古書店は実在のモデルがあるそうですが、古典ミステリファンにはたまらないのでしょうね。
やはり表題作が一番良かったですね。
最低最悪の死刑囚に届いたというファンレターという出だしからして興味をそそります。
ファンレターを出した女性の正体を探るうちにわかっていった彼女の状況。
本気で正しいことをしたと思っている本来の意味での確信犯の怖さを感じます。
そして何度も書かれる母から主人公への連絡。
それがゾっとする結末に繋がっていくのが秀逸です。
「幸せの家」は顛末自体はたいしたことなかったけど、本当の驚きは主人公自身にあったというもの。
「狂酔」は一人語りによって、「聖母の庭」過去に何があったか明かされていくのですが、思うのは身勝手な大人に翻弄された子供たちの悲しい境遇ですね。
どれも第三者には善人とされていた人間の奥底に潜む悪意が赤裸々にされていく過程が素晴らしい。
醜くはあるのだけど、なぜか読んでいて惹きこまれてしまうのは、それも含めて人間の感情というものを巧く描いているからでしょうか。