11期・7冊目 『人格転移の殺人』

人格転移の殺人 (講談社文庫)

人格転移の殺人 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

突然の大地震で、ファーストフード店にいた6人が逃げ込んだ先は、人格を入れ替える実験施設だった。法則に沿って6人の人格が入れ替わり、脱出不能の隔絶された空間で連続殺人事件が起こる。犯人は誰の人格で、凶行の目的は何なのか?人格と論理が輪舞する奇想天外西沢マジック。寝不足覚悟の面白さ。

CIAが中心となって秘密裡に研究している施設「入れ替わりの環(スイッチ・サークル)」。
その機械の中に複数の人物が入ると人格転移が発生するという。
例) 肉体A(人格A)と肉体B(人格B)→肉体A(人格B)と肉体B(人格A)
そして一度発生したら不定期に対象の人たちの間で転移が起こり、最後の一人になるまで終わらない。
※3人以上の場合は順番に人格転移が起きて、もし途中で一人が死亡したらスキップする。最後の一人になった時点で人格が誰であろうと終了。ということは人体実験で判明。
研究プロジェクトの現場責任者であるダニエル・アクロイド博士はこの施設は宇宙人による先進技術の賜物であり、現在の人類の叡智を合わせても解明は無理ではないかと思っていたようです。
そして月日は過ぎ、とあるショッピングモールの片隅にあるチキンハウスに傷心の日本人・苫江利夫(とま えりお)が入ったところから始まります。
滅多に客が入らないチキンハウスに江利夫だけでなく、たどたどしい英語を話すアラン・バナールと窪田綾子のカップル、アラビア人ハニ・シャディード、南部訛りの英語を話すマッチョ米国人ランディ・カークブライド、それにアッシュブロンドのロングヘアが特徴的な美女(ジャクリーン)と続けざまに来店して店主のボビイ・ウエッブは驚きます。*1
狭い店内で客同士が口論を始めて、何とかボビイ、江利夫が仲裁しようとしていたところで数十年に一度の規模の直下型大地震が発生。
モールの天井が崩壊する中で出口は閉ざされ、ちょうど店内にあったシェルターらしきモノの入口の鍵を破壊して逃げ込みます。


チキンハウスの客たちが逃げ込んだ先がたまたま封鎖されていた入れ替わりの環(スイッチ・サークル)の中であり、機械が作動してしまい、人格転移が発生。
元々秘密裡に研究していた施設のために事を明らかにするわけにいかず地震による死亡扱いとされ、彼らはどこかわからない刑務所のような施設に隔離されてしまいます。
そこで今後の共同生活を過ごすための話し合いの期間として当人たちだけで置かれた夜、殺人事件が発生。
その時の犯人の中の人格は誰で、被害者であるボビイの中にいたのは誰だったのか?実にややこしい悲劇の始まりです。
隔離される前に死亡(原因は避難時のコンクリート片が頭を直撃したこと)した窪田綾子ですが、その直前に首に巻いていたマフラーを締め付けて殺されたかけたこと、江利夫(=ボビイ)曰く一旦避難したはずのジャクリーン(人格転移後なので中にいたのはランディ?)らしき女性が戻る姿を目撃したことが気にかかるランディ(=江利夫)ですが、CIAのデイヴ・ウイルスンによると、当日まで窪田綾子と関わりのあった人物はいないために殺人の動機が無く、単なる事故であったのであろうとされてしまいます。


ただでさえややこしい人格転移が六人の間で発生するため、正直混乱してしまいそうですが、転移ごとに図が記載されていることと、肉体(=人格)の表記のおかげで何とかついていけます。
ただ、最初は数時間程度だった人格転移の間隔が、物語が進むに連れて加速していくので滅茶苦茶になってしまいますが。

登場人物たちについては、主人公含めて長所よりも短所や悪癖が目立っていて、決して魅力的ではありません。誰もが見惚れる美女のジャクリーンにしても初めは鼻持ちならない言動や性格の悪さが目立っていましたし。*2
逆にそれがこのややこしい物語でキャラクターの区別しやすさに役だっていたのが筆者の狙いだったのでしょうか。
まぁ同じ日本人として窪田綾子の抱いた劣等感とそれの裏返しによる言動が痛々しかったです。
冒頭でアクロイド博士が匙を投げているようにオーバーテクノロジーらしき機械については結局解明されていません。
ただアクロイド博士が推測した機械の目的についてはなるほどと思わされますね。そういう意味でも納得のいく結末で読後感もよかったです。

*1:レストラン経営者であるボビイの伯父がオーナー。飲食店向きの立地ではないために撤退したかったが、賃料をただにするどころか援助までされて引き留められ、仕方なく最低限の出費でボビイに店を任せていた

*2:唯一の女性ゆえ、防衛的な言動でもあったことが明かされる