5期・21冊目 『十三階段』

13階段 (講談社文庫)

13階段 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。

死刑制度に関しては議論あるところですが、被害者と加害者の関係に加えて執行する立場の刑務官を主人公にしただけに、一般には知られることのない内部事情まで突っ込んだ内容となっているところが異色とも言えます。
実際は13段の階段ではないものの、執行に至るまでの承認手続きが13段階あること。しかしいざ執行命令となると、法律よりも政局の動きに左右されること。そして主人公が回想する加害者の刑と改悛の関係・・・等など本筋と直接関係あってもなくても大変興味深い事情が出てきますね。
主人公のパートナーとなったのが、喧嘩の果てに相手を死なせてしまい、2年の禁固刑に服した青年。前科を持つ者にとって、更正する以前に社会では大きな障壁に当たることがわかります。まだ彼は主人公・南郷によって救われるのですが・・・。
そして、人が人を裁くことの難しさが背景にあります。矯正と更正のどちらに重きをおくかに揺れる刑務官と半数近くにのぼる再犯傾向の実態。たとえどんなに凶悪な犯罪を犯した人物であっても、命を奪うことに対する抵抗の大きさ。そして刑や金額では癒されない遺族の感情。
そういった重い内容であるものの、冤罪を晴らすために真相追究に奔走するストーリー展開も巧みでついつい先が気になった作品でした。


一点だけ引っかかると言えば、いくら特殊な機械で作られたとはいえ、偽造された証拠品で警察が騙されるかということですね。*1隠された場所が場所だけに、先に死刑執行手続きが進んでしまう可能性も高かったわけですし。
とはいえ、途中で気になっていた点もきっちり収束されて納得のいった結末でありました。

*1:作品内では取り急ぎ指紋が調査されただけだったが、裁判に提出されるとなるともっと厳しく調べられるかもしれない