12期・9冊目 『カウントダウン』

カウントダウン (新潮文庫)

カウントダウン (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

北海道夕張市に隣接する幌岡市。五期目の市長、大田原昭夫は、大手炭坑閉山後、リゾート開発に過剰投資し市財を悪化させたが、巧みな借入金処理で市の債務を隠し続けた。財政破綻が白日のもとにさらされ再建団体申請が決まっても、六選を目指す大田原。最年少市議、森下直樹とその仲間・恩師らは、打倒大田原を期し、智恵と情熱を結集して立ち上がった―。

もう10年前のことになりますが、市の年間予算の約6倍に達する360億円の赤字を抱えて財政再建団体に指定。大幅な財政カットや施設の廃止、各種税金は上がり、最低限の住民サービスしかされなくなって、市としては死んだも同然という報道は記憶にあります。
本作では夕張市に隣接する架空の自治体・幌岡市が舞台。
夕張市と同様にかつては炭鉱で賑わっていたが、閉山と共に人口が減少。
新たに観光をもって市に人を呼び込もうと第3セクターによる大々的なリゾート開発を行ったが最初の数年を除いて赤字続き。
更に夕張市で6選継続していた中田鉄治市長と同様、幌岡市では大田原市長による長期市政が続いていて、市議会も職員団体はどれも与党色が強く、次の6期目は確実かと思われました。
しかし、いっこうに市が決算書を明らかにせず健全な財政をうたっていても、市内の状況は悪化の一途をたどり、このままでは夕張市の二の舞なのではないかと案じた若い新人市議の一人・森下直樹が「このままでは幌岡市は二度死ぬ」という言葉と共に登場した選挙コンサルタントの言葉をきっかけに市長選に出馬することになったのでした。


いろいろと置き換えている部分はあるでしょうが、市の歴史的には夕張市と似たような経過を辿っていて、モデルにしているのは明らか。もしも市長の6選を阻む人物や勢力が現れたら?というシミュレーション小説っぽい感じがしましたね。
それだけに大田原市政の闇に切り込んで、市長と取り巻きが虚飾を用いた影で公金を食い潰し、汚い手口で私腹を肥やしていったかがよくわかります。
難しい内容を読みやすい切り口で書いてあるので、すいすい読めてしまうのはさすがといったところでしょう。
最初の方で地方都市の市議会会場の様子が描かれますが、市長や取り巻きの市議員の虚栄心のために大金を投じて国会議事堂を模した贅沢な作りとなっているとあって、思わず失笑してしまいました。実際にあったら笑いごとではないですが。


もしも財政再建団体に指定されてしまうと、市長に当選できたとしても給料は大幅減。だけどフルタイムで働かなければならないために、本職(会計士)は休止せざる得ず、二人の子を抱えた主人公は苦悩します。それ以前に勝利の目途もついてはいないのですが。
そこに大田原市政に反対し彼を支える同志が集まり、事故死した父も大田原市政の犠牲になった事情を知り、立候補を決意。
その頃から情報を得た市長側らしき人物の探りや怪しい動きがあったりして徐々に盛り上がっていきます。


後から思えばクライマックスは選挙が始まる直前の市議会で、主人公による徹底した市長糾弾の場面でしょうかね。
選挙自体もスキャンダル攻勢とそれを逆手に取った逆攻勢があったり、外部からの工作員とか、それなりに面白い要素はあったのですが、駆け足で済ませてしまった感があって尻すぼみでした。
もう少し敵陣営の様子も書いてほしかったです。それも最後の様子まで。
夕張市の元市長のように、ここに登場した大田原もたいして責任追及はされず、うやむやのまま逃げてしまいそうな感じがするんですよねぇ。
がっちり勢力を固めた長期安定政権の市長に対して、まさに蟷螂の斧をかざす如き若い市議の挑戦という心躍るテーマであり、あれだけ市の財政の闇を詳細に書いておきながら、爽快感が足りない幕引きだったのが残念でした。