9期・13冊目 『正義をふりかざす君へ』

正義をふりかざす君へ

正義をふりかざす君へ

内容(「BOOK」データベースより)
地元紙の記者だった不破勝彦は、神永美里と結婚し、義父の仕事を助けるべくホテル業へ転身する。が、やがてホテルは不祥事を起こし義父は失脚、妻との不和も重なり、彼は故郷から逃げ出した。七年後―彼は帰りたくない故郷へと戻る。元妻の不倫相手を救うために。問題を起こしたホテルを、正義の名のもとに攻撃した新聞社。そのトップに就任したのは、高校の先輩である大瀧丈一郎だった。ホテルは彼の傘下に吸収され、不破を恨む者たちが次々と現れる。そして、ついに魔の手が彼を襲う―!「正義」の意味を問い直す、渾身の長篇ミステリー!!

主人公の不破勝彦は7年前に逃亡同然に捨て、苦い思い出が詰まった故郷・棚尾市に戻ります。
妻子ある男性・朝比奈と不倫していた元妻・美里のもとにその決定的な場面を撮った写真が送られてきたのですが、折しも市長選が近づいており、朝比奈は有力候補者であったために対立陣営の仕業と思われました。
しかし朝比奈本人ではなく美里に送られてきたことや、選挙までまだ日があるこのタイミングなどいくつか不審な点があり、元記者だった勝彦にこの表沙汰にできない依頼が来たというわけで、過去の負い目もあって渋々引き受けます。


かつて新聞記者を退職して地元有力者の神永家に婿入りし、ホテルマンとして精勤していた勝彦でしたが、7年前に食中毒事件で全てが崩壊。
関連不祥事もあって創業者の義父は失脚と無念の死を遂げ、ホテル含む神永グループはその問題を暴いた信央日報によって次々と買収されていました。
そんなところに戻ってきた勝彦には居心地の良い町ではなく。
いろいろと探り出した途端に何者かによって闇討ちを受けてしまうのです。
いったいこの町には何が起こっているのか?
かつて正義の名のもとに次々と悪事を暴いて信央日報を飛躍させた大瀧丈一郎は権力を手にすることで変わってしまったのか?


思わせぶりなタイトルですが、まさに正義をテーマにした社会派小説ですね。
前半は小出しに出される勝彦の過去と、進行中の不可解な事件が複雑に絡み合ってて、事情がわかりづらいまま進みますが、どこの地方にでもありそうな選挙戦に加えて市民の日常レベルで描かれる報道のコンプライアンス問題が非常に興味深いです。
記事の書き方次第で名も無い一市民の人生が簡単に左右されてしまうマスコミの影響力というのが怖いですね。
「敵」が暴力でもみ消そうとする点とか展開に多少強引さを感じつつも、次第に惹きこまれます。
少年のまっすぐな正義と、出世欲や顕示欲が伴うジャーナリストの正義。
その二つの正義が巻き起こしたという事件と地方に住む人々の思惑が重なって複雑な人間模様を見せます。
主人公が狙われていた(恐れられていた)理由が最大の謎であったわけですが、前ふりが長かったわりには種明かしされるとちょっと弱かった気がしないでもありません。
もっとも権力を握る人間にとっては、ちょっとした瑕疵でも場合によっては致命傷になってしまうと感じるものなのかもしれませんが。