11期・46冊目 『演じられたタイムトラベル』

内容(「BOOK」データベースより)

大学生の朝倉僚は、目を覚ますと知らない場所に閉じ込められていた。ずきずきと痛む頭、はっきりとしない直前の記憶、首に巻かれた無骨なワイヤー。そして、その場所には“ある共通点”を持つ人間たちが集められていた。かつて制作の頓挫したゲームアプリ“SOD”―その開発者たちが一堂に集められ、ゲームのプレイヤーを“演じる”ことを命じられる。矛盾を起こせば死―記憶だけを頼りに“抜け落ちた時間のイベントを補完する”、決死の舞台が幕を開ける。

目が覚めたら見知らぬビルの一室。
部屋から出ると、顔見知りの男女がいた。
彼らはかつてゾンビが発生した世界で生き残り脱出するサバイバルゲームのアプリ「SOD」を制作していたメンバーだった(ゲーム自体は未完成)。
主人公の朝倉を含めて彼らの記憶にあるのは最後に何かを飲んでいたこと。
誰かの手によって眠らされてここに連れて来られたらしい。
そして首に巻かれたワイヤーとどうやっても外せない。


ゲーム進行役だというウサギのロボットの説明によると、このビルの中で彼らはSODのゲームプレイヤーとなってそのストーリーを忠実に演じることを強制されたのでした。
いくつものバッドエンドを回避し、ハッピーエンドを迎えた者だけが生きてここを出られる上に賞金を得る権利があるという。
ただし、ゲーム設定から外れたり矛盾した行動を取ると、それはルール違反として死に至る。
ある部屋ではかつて仲間であった一人が首のワイヤーが締まった状態で死んでいることで、それが本当であることを悟り、なし崩しにゲームに参加することになってゆくのでした。


特徴的なのは、すでにハッピーエンドへの道筋は決まっていて、プレイヤーたちは任意の時間帯を選んでストーリーを再現してその時系列を繋げてゆくのが至上命題となっていることです。
ただしそれはあくまでも1フロア上で再現されたマップと落ちているカード(アイテム)を拾って使用するというルール。
メンバーそれぞれの担当分野の記憶を辿りに始めこそ協力しあうのですが、この強制されたゲームには自殺した女性の影があり、朝倉の知り得なかった裏の人間関係が明るみになるに連れて、それぞれが互いに責任を押し付け憎しみ合うようになってゆくという流れ。
制限された時間の中でゾンビと戦い、脱出への鍵を探しつつも、生き残りをかけて殺し合いにまで発展してゆくスリリングな内容となっていますね。
ただ、時系列と場所の移動が複雑で、登場人物たちの行動理由がわかりにくくなってます。フロアごとの図面は用意されているのですが、読む方もタイムテーブルを書いておかないといけないくらいに。
伏線とかも用意されているのですが、後になって、そういえばあったなーとわかるくらい。


終盤はさすがにリアルに再現された中での鬼気迫るサバイバルとなり、描写にも臨場感が出てきたと思います。途中までがどうにももどかしい思いで読んでいただけに(笑)
限られた人間関係の中での愛憎劇と復讐という、ある意味予想しやすい背景なんですが、ゾンビサバイバル+机上ゲーム、それに時間軸をバラバラにして繋ぎあわせるとという要素が新鮮ではある反面、進行とその裏に隠された意図などが伝わりにくいものがありました。
タイムリープで移動したのを演じているというのはなかなか難しい描写なのでしょう。
その分、感情とか台詞が過剰になって、かえって空回りしているように思えてしまったのですよね。