5期・8冊目 『ロウフィールド館の惨劇』

ロウフィールド館の惨劇 (角川文庫 (5709))

ロウフィールド館の惨劇 (角川文庫 (5709))

出版社/著者からの内容紹介
ユーニスは怯えていた。自分の秘密が暴露されることを。ついにその秘密があばかれたとき、すべての歯車が惨劇に向けて回転をはじめた! 犯罪者の異常な心理を描く名手、レンデルの会心作。

ユーニス・パーチマンがカヴァデイル一家を殺したのは、読み書きができなかったためである。

冒頭で犯人の名とその動機をばらし、そこに繋がる過去さえ書いてしまうという奇想天外な出だしを見せておいて、どういう展開を引き出すのかが見ものだなと思って読み始めた作品。
文盲ではあってもそれを隠蔽する能力に長けていて、家政婦としては有能だった反面、人間らしい感情が著しく欠如していたユーニス。
一方、イギリスの典型的なアッパーミドル階級であるカヴァデイル家では幸せな家庭を築いて明るく思いやりを持った人ばかり。悪く言えばおせっかいな面も。
ロウフィールド館という、1人の主婦には手に余るほどのお屋敷が両者を結びつけ、思いも寄らない惨劇を呼んだというストーリー。


避けられない運命に向けて、犯人側と被害者側とのいくつものポイントを経て事件へと導いていく。例えば両者の需要と供給がマッチしてしまったために通常行われるべき家政婦雇用の手順を省いてしまったこと、共犯者とも言うべき雑貨屋の夫人・ジョーンの奇行と精神的疾病の放置など。「もしもこの時こうしていれば」というそのあたりの描写が巧みであって、通常の謎解きとは違ったものの、結末が待ち遠しく感じられた作品でした。


また、日常の中でユーニスの心理描写やカヴァデイル家の人々とのすれ違いも際立ちました。ユーニスにとっては恐怖の存在である文字が書かれたメモや新聞雑誌の類。それが文学的素養を持つカヴァデイル家の人たちにとってはごくあふれた身近な存在で、文字を読めないことがそれほどまで強いプレッシャーであることなんて最後まで考えられなかったでしょう。まぁイギリスのような先進国において、文盲はかなり珍しい部類に入るのではないかと思いますけど。*1
事件の後、すんなりお縄になるかと思いきや、ちょっとした運命の悪戯もあったりして、その決着のさせ方もなかなか捻ってあって最後まで楽しませてくれました。

*1:時代ははっきり書いてないけど、ユーニスやジョーンは幼い頃に戦争による疎開を経験しているから1970年代か