4期・52冊目 『日本軍の小失敗の研究―現代に生かせる太平洋戦争の教訓』

日本軍の小失敗の研究―現代に生かせる太平洋戦争の教訓 (光人社NF文庫)

日本軍の小失敗の研究―現代に生かせる太平洋戦争の教訓 (光人社NF文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
世界の半分を戦場とし、一千万人の生命が失われた太平洋戦争―敗者の側にこそ教訓は多く残っている―ユニークな視点から分かり易く敗因の究明と分析。大学工学部で教鞭をとるかたわら、シミュレーション戦記の書き手としても知られる著者が世に問う、日本とアメリカ、日本人とアメリカ人を考える話題の書。

太平洋戦争がもともと日本にとって勝ち目が無かったということは、さほど戦史に詳しくない人でも明らかなことです。見通しの見えない日中戦争を続行しつつ、更に北方にソ連*1・南方に仏印という紛争箇所を抱えていながら当時最大規模の国家に戦争を仕掛け、あらゆる方面に手を伸ばしたこと。国力をはるかに超えた戦争を行い、緒戦は優勢であったものの、結局は多大な犠牲を払った上で敗戦を迎えたわけですね。
それを愚かな行為であり、二度と繰り返してはならないというのはまったくその通りではあるんですが、では繰り返さないようにするにはどうすればいいか。ただ戦争反対と唱えるだけではなく過去の失敗から学んでいかなければならないのではないか。
そんな趣旨のもと、物量という面は別にして勝者の英・米軍と比べて敗者の日本軍はどのような点で劣っていたのか。具体的に検証してみた内容です。


どちらかというと、著者の専攻である工学分野に偏っていているのは仕方ないのか。*2政治・戦略といったもっと上のレベルの記述は少なくて冒頭に書かれた趣旨から実施は離れている気がしないでもないですが、日本軍の兵器運用一つ取っても浮かび上がってくるのが思想の硬直、そして非合理性ですね。
どの国でも軍同士では張り合ってしまうもののようですが、日本における陸軍と海軍の対立・意地の張り合いは特に深刻なもので、その結果としての弊害も多かったようです。
最たるものがドイツのダイムラーベンツ社の液冷エンジンをライセンス購入するのに、別々に購入して相手を呆れさせ、更に国内の生産でも別のメーカーに生産させるという無駄。
国家全体で戦争を遂行している以上、軍人という専門家だけに任せるだけではなく民間人にも協力を仰いでいたのが連合国でありますが、日本においては門外漢には口を出させないというのが鉄則。
まさに持てる国でさえあの手この手で勝つための努力をしていたのに、持たざる国・日本はあえて勝つための手段を封じていたとしか思えないくらいです。


その他にも「なぜこんなことに」と思えるような失敗例が数知れず。それらを過去の愚行として評するのは簡単ですが、その原因と思えるセクション間の対立による弊害や、非合理的な習慣*3というのは現代においても根強く残っているものですね。
もしかしたら戦争という局面では国民性がよく現れるということかもしれません。この本の中で紹介された失敗例の数々は、現代の日本人にとっても決して無縁では無いと思えるのです。

*1:一応、不可侵条約を結んでいたとは言え、仮想敵として満州に大軍を張り付かせていなければならなかった

*2:あと、カタログデータしか見ずに、当時の状況はあまり鑑みてない点も

*3:操作を効率良く覚えさせるよりも、マニュアルの一語一句の丸暗記を重視するとか、他人事とは思えない!