- 作者: 大石英司
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/12/01
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
かつて忽然と消息を絶った旅客機が、今、還ってきた。しかし68名の乗員乗客にとって、時計の針は10年前を指したまま。歳月を超えて実現した奇跡の再会、そして旅立ちの物語。
個人的に90年〜2000年代前半あたりはサイレント・コアシリーズなど結構読んでましたが、ここ数年はとんとご無沙汰していた大石英司の作品です。2006年に放映されたドラマの方は見てなくて概要だけ知っていましたが、まさかこの人の原作だったとは。ちょっと驚きでした。
1994年に忽然と消息を絶った中型旅客機402便*1がなんと10年後の2004年に姿を現す。402便の乗組員・乗客にとっての一日が、残された家族関係者にとっては10年だった・・・。
一応、この異変の原因としては、荒天候による墜落間近のタイミングで偶然マイクロブラックホールに遭遇してタイムスリップしたものと説明されています。そしてわずか3日後に再び彼らは消滅する(=本来あるべき時間軸に戻され遭難する)という予言とともに。
その現象の解明と対抗策も試みられていますが、主題は10年の時を経て向かい合う当人らと家族・関係者たちでしょう。
事故によって大切な人を失ったとして、10年も経てば悲しみを癒し新たな出発を遂げるには充分な期間であるし、逆に何もかも壊れて平穏な日常を取り戻せなくなってしまう場合もある。更に94年から2004年の間は「失われた10年」といわれるほどの不況。それに阪神大震災やオウム・地下鉄サリン事件と言った史実の大事件も登場人物には無関係では無い様が描かれています。
自分たち以外は10年経っているという、信じたくなくても否応無く受け入れなければならない現実にどう対処するか、そして宣告された残り3日間をどう過ごすか。それぞれの事情を抱える人物たちがどうするかが見所ですね。
問題となるのが登場人物の多さ。家族やカップルというまとまりはあっても68名の乗務員・乗客の状況をそれぞれ書くには、やはり扱いに差が出てしまうところ。
アイドル・天才テニスプレイヤー・美貌のチェリスト・自衛隊のパイロットから汚職の疑いがある政治家の父親を殺す目的で上京した中学生や親と別行動で一人で乗った5歳児、はたまた逃走中の強盗殺人犯までバリエーション豊富で、それぞれのエピソードを盛り込みたかったのでしょうがちょいと欲張りすぎ。
展開が目まぐるしい上にネタは豊富で飽きはこないのですけど*2 *3、会話メインで感情的表現を排し行間を読ませる著者の記述には、初めて読む人には素っ気無さ過ぎに感じるかも。*4
それでも、わずかに残された時間で10年の断絶を埋めるべく奔走し歩み寄る人々、そして運命の瞬間はさすがにじわーっと来ました。
時期が8月12〜15日だったこともあり、彼らはお盆で一時的に自分たちのところに帰ってきたのだと喜びとも諦めともつかない感情で受け入れた人がいたのはまことに日本人的でありますね。
彼らの死ではなく奇跡的にもたらされた生によって、関わりある人々が人生をやりなおしていくエピローグが気持ちよい締めくくりとなっています。