3期・87,88冊目 『航路(上、下)』

航路〈上〉 (ヴィレッジブックス)

航路〈上〉 (ヴィレッジブックス)

航路〈下〉 (ヴィレッジブックス)

航路〈下〉 (ヴィレッジブックス)

上巻内容(「BOOK」データベースより)
認知心理学者のジョアンナは、デンヴァーの大病院にオフィスを持ち、朝はER、午後は小児科と、臨死体験者の聞き取り調査に奔走する日々。目的は、 NDE(臨死体験)の原因と働きを科学的に解明すること。一方、神経内科医のリチャードは、被験者の脳に臨死体験そっくりの幻覚を誘発する薬物を発見し、疑似NDEを人為的に引き起こしてNDE中の脳の状態を記録するプロジェクトを立ち上げ、彼女に協力を求める。だが、実験にはトラブルが続出し、やがて被験者が不足する事態に。こうなったら自分でやるしかない。ジョアンナはみずから死を体験しようと決意するが…。

とても長い作品なのは確か。
しかし海外小説でたまに感じるような退屈さや違和感は無く、会話シーンや散りばめられた小ネタも面白くて読みやすかったですね(訳もいいのかな)。
臨死体験(NDE:Near Death Experience)というのは、日本では死を前に生還した人が三途の川の前で故人となっている知りあいに追い返されたみたいにな話で流布されていて、それはアメリカでも一般的には宗教的な意味あいで捉えられているのは同じらしい。
NDEを死に臨んだ際の頭脳の働きによるものだと想定して科学的立場から解明する立場の主役・ジョアンナとリチャード、それに対して宗教的・超能力的な現象だと主張して勢力を増やそうとする敵役マンドレイクとその信者。立場がはっきりしていてわかりやすい上にその攻防が時には真剣に時にはユーモア溢れる描写で医学に知識が無くても飽きないですね。


実際のところ第一部まではストーリーが進まずもどかしさを感じましたが、第二部に入ったあたりから徐々に謎の核心に迫っていくため、読むペースも一気にあがります。
ようやくジョアンナがNDEの謎を解いたと思ったところで突然のアクシデントが起こり、リチャードらと同様に読者も戸惑う。そして新たな展開。実は蘇生することを期待していたのですがそんなこともなく。はっきり解明できていない現象だけに死後の意識の描写が必要だったのかもしれないですね。
長編にも関わらずに登場人物は覚えきれないほど多すぎることはなく、それでいて冗長的に思ったそれぞれの会話の中身が実は後半に入って重要な鍵を握っていたりするわけで無駄が無い。このへんの伏線の使い方はすごいですね。読み終えてからじわじわきます。