3期・50冊目 『私が彼を殺した』

私が彼を殺した (講談社文庫)

私が彼を殺した (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
婚約中の男性の自宅に突然現れた一人の女性。男に裏切られたことを知った彼女は服毒自殺をはかった。男は自分との関わりを隠そうとする。醜い愛憎の果て、殺人は起こった。容疑者は3人。事件の鍵は女が残した毒入りカプセルの数とその行方。加賀刑事が探りあてた真相に、読者のあなたはどこまで迫れるか。

前作『どちらかが彼女を殺した』から1年半ぶりに読んでみた続編です。前回よりも容疑者が一人増えて難易度増してる!
前はどんなことを書いたのだろうと、その時の自分のレビュー見たら、あまりの手抜きぶりに愕然としたので、今回は読んでいない人にもわかるように少しはまともに書いてみようと思います。


以下、ネタバレおよび内容に関する記述を含みます。
主な登場人物は

  • 穂高誠・・・被害者で作家、次々と女性に手を出しては捨て、二股も平気な非道いやつ。美和子との結婚にも不純な動機が垣間見える。
  • 神林美和子・・・穂高誠の婚約者でOLを中心に女性に人気の詩人。
  • 神林貴弘・・・美和子の兄だが過去に両親を襲った悲劇のために兄妹を超えた関係に。結婚に際して美和子への想いを断ち切れず穂高誠を嫌悪する。
  • 駿河直之・・・穂高誠の代理人。しかし仕事の方向性その他で意見が対立。意中の女性がいたが穂高誠に取られた上に酷い仕打ちを受けるのを止められなかった。
  • 雪笹香織・・・神林美和子担当の編集者。美和子と付き合う前まで穂高誠と関係有り、内心では捨てられた恨みを持っている。
  • 浪岡準子・・・穂高誠の元・恋人。結婚を夢見ていたが妊娠中絶と彼の結婚*1を機にひどく傷つき、仕事柄得た毒物を穂高誠の常備している薬とのすりかえを試み、その後同じ毒で自殺する。


他にも編集者や親族が登場しますが、主に語られるのは上記5人の愛憎劇。それが殺人事件を生むわけです。
まぁ被害者は客観的に殺されても仕方無いくらいの人でなし、婚約者はそれに気づかない純情な女性*2。その2人を除く3人が容疑者とされ、それぞれ立派な動機があるんですね。
心理面から見れば、最初は神林貴弘が二人の結婚を快く思ってないことは明らかで動機がわかりやすいと思ったのですが、駿河と雪笹の二人も穂高誠の正体を知っている上に、仕事上の問題を抱えているので物事は単純ではなかったりします。
推理は別にしても3者の視点が順繰りに進むさまは次第に感情が露になってきて、よくできたサスペンスドラマ風で面白いです。登場人物が限られているし、テンポ良い展開なので読みやすい。その分、背景は簡略化されているけど。


それはともかく、推理の方は毒入りカプセルの数とその行方に翻弄されて結局最後までわかりませんでした。駿河と雪笹に絞られたかと見えたけれど、神林貴弘がこっそり入手したカプセルの内残り一つはどうしたのかが結局わからなかったし。最後に明かされた身元不明の指紋に関しては全く見当がつかなかった。
それでネット検索したらやっと犯人がわかりました。鍵は加賀刑事の行動だったのですね。それを中心に振り返れば3人の中で1人だけあるモノを用意できる人物が浮かび上がってくるわけ。それにしても、もう一つあれがあったとはねぇ。




尚、各章では容疑者視点でそれぞれ「僕、俺、私」で順次語られる形式ですが、タイトルの「私」は容疑者の「私」ではなく浪岡準子であり、彼女を愛していた「俺」が見事復讐を果たしたのかなぁという感慨がありました。

*1:穂高誠にとっては再婚

*2:ただ本当に愛していたかは疑問で、相手は誰でもいいから愛する自分そして悲劇のヒロインを演じたかったのでは、という見方も