2期・93冊目 『ウォーレスの人魚』

ウォーレスの人魚 (角川文庫)

ウォーレスの人魚 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ダーウィンと同じく“進化論”を唱えたイギリスの博物学者・ウォーレスは、『香港人魚録』という奇書を残して1913年この世を去る。2012年、セントマリア島を訪ねた雑誌記者のビリーは、海難事故で人魚に遭遇する。マリア一号と名付けられたその人魚は、ジェシーという娘に発情してしまう。2015年、沖縄の海で遭難した大学生が、海底にいたにも拘わらず、三ヵ月後無事生還する。人はかつて海に住んでいたとする壮大な説を追って、様々な人間達の欲求が渦巻く。進化論を駆使し、今まで読んだことのない人魚伝説を圧倒的なストーリーテリングで描く渾身作。

567ページという長編ですが、途中からページをめくる手が止まらなくなり、残り2/3は一日で一気に読んでしまったのですよ。
南洋のイルカ研究者たちと雑誌記者の出会いから幕あけて、人間そっくりの人魚を巡る騒ぎ、そして舞台は一転して、海難事故に遭遇して奇跡の生還を遂げた日本人青年。後半彼らを繋ぐのがイギリスの博物学者であるアルフレッド・ウォーレス*1が19世紀に記した人魚の記録と香港に残る人魚伝説なわけです。


全編通じて謎解きに恋愛有り、冒険有りと退屈させないストーリーで優れたエンターテイメント作品に仕上がってますね。
童話とは全く違うイメージの人魚の詳細な描写に圧倒されます。海で生き抜くべく進化したその能力(「超」をつけてもいいかも)もすごいけど、繁殖を含むその生態がリアルに表現されていまして。これが受け入れられるかが読む人によって分かれるかもしれません。
高周波のあたりは序盤イルカとの会話による導入がありましたし、ローレライ伝説の紹介などで妙に納得できましたけどね。作品の中で紹介された「ホモ・アクアリウス説(人魚は人類が海に帰った姿だった)」は率直に面白かったなぁ。

*1:実在の人物。進化論や生物地理学に影響を及ぼしたのは事実だけど、人魚研究に関しては創作かな。