2期・81冊目 『盤上の敵』

盤上の敵 (講談社文庫)

盤上の敵 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされた。警察とワイドショーのカメラに包囲され、「公然の密室」と化したマイホーム!末永純一は妻を無事に救出するため、警察を出し抜き犯人と交渉を始める。はたして純一は犯人に王手をかけることができるのか?誰もが驚く北村マジック。

異例なことだと思うど、作者まえがきによって、この作品に癒しとか救いを求めている人は読まない方がいいと断り書きしてあります。単行本を読んだ読者から読んで傷ついたという手紙が送られたからだそうで。北村作品はまだ2冊しか読んでいないのですが、やはり異色な内容なのかと思いました。
私としては読んでみて格別傷つくこともなく普通に良かったと思ったのですが。


いや、作中で白のクイーンこと友貴子が感じたような、純粋に人を傷つけよう壊そうという強い悪意と、それに対する逃れられない絶望感というのは、男性視点からでもその惨さは強く伝わってきます。そこは『リターン』『スキップ』でも感じた北村薫特有の女性心理の巧さに通じるものがあるのではないでしょうか。


おそらく、蚊の吸血のシーンとクッキーの最後の場面は特に辛い場面かと思うのですが、余韻として残らずに先を読み続けたくなるのは、

  • 回想シーンであり現在は状況が変わっているらしいこと。
  • 章立てで直後に視点と場面が変わること。

そういう理由があったからかもしれないと思ったりしました。*1


現在進行形で起こっている事件としては、人質である妻を救出しようと主人公が独自に行動を始めます。そこには当人達しか知らない事情があるようなのですが、途中までははっきり明かされません。
果たしてそんなにうまく警察を出し抜くことが可能なのかという点は無くは無いのですが、地元の利など持てる状況をうまく活用させたのはお見事。事件の決着を図るための小道具からしてそれまでの伏線が巧妙に効いてますね。


その後彼らはどうなったのか*2、はっきりとエピローグは書かれずに気になるまま終りを迎えます。
だけど、決して後味が悪い作品では無かったですよ。冒頭で殺されてしまった被害者の夫人と主人公の会話、そして最後の友貴子の空想を含め、作者からの故無き暴力に見舞われた被害者への想いが伝わって来ましたからね。

追記

今回の2冊はレビューは読み返してみて、いつも以上に乱れていて見苦しかったので、12/5に大幅に書き直しました。
いつもならば、読了後すぐ書き始めたとしても、2、3日熟成してからUPするのですが、11月中にUPを目指した結果、日がなくて推敲が足りなかったのもあります。
今回はコメントやトラバを戴いた以上、こっそり直さずに断り書きした次第です。
所詮日記ではあるものの、人の目に触れる以上は、多少は気になるってことなんでお許しください。

*1:比較するのも何ですが、個人的には、強い悪意が延々と曝け出されてかつ救いも無くて、読みつづけることが辛くなる作品(例、『隣の家の少女』)に比べたら・・・というのも

*2:戻ってくるのを待っているということは、やはり警察は甘くはなかったのだろうと推測