2期・62冊目 『アルジャーノンに花束を』

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
32歳になっても幼児の知能しかないパン屋の店員チャーリイ・ゴードン。そんな彼に、夢のような話が舞いこんだ。大学の偉い先生が頭をよくしてくれるというのだ。この申し出にとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に、連日検査を受けることに。やがて手術により、チャーリイは天才に変貌したが…超知能を手に入れた青年の愛と憎しみ、喜びと孤独を通して人間の心の真実に迫り、全世界が涙した現代の聖書(バイブル)。

知的障害者の状態から手術を受けてIQが次第に高まり、どんな変化が訪れるかを、チャーリー自身によって綴られる日記(経過報告)という形で書かれています。最初はひらがなばかりで句読点も改行も無く誤用が多い文章にとまどうものの*1、チャーリーと喜怒哀楽を共にでき、結果的に感情移入しやすかったですね。


何よりも驚くのが、稀有な体験をしたチャーリー・ゴードンの変転を、実話を元にしたのではなくフィクションとして、よくぞここまで描ききったことです。
例えば知能の発達による人間性や周囲の態度の変化、そして「頭がよくなりたい」願望の奥底にあった家族との関係。埋もれていた過去の記憶が明かされるにつれ、叶うことならばチャーリーと彼の家族の人生をやり直させてあげたいと思ったりもしました。
しかしアルジャーノンに訪れた急激な変化はやがてチャーリーにも同じ運命が待っていることを暗示させ、憂愁の雰囲気を濃くしつつ終幕へと向かいます。


激しく感動、というのではないけれど、じわじわと切なさが染み入る物語であり、人の心の真実に迫ったような気にさせられました。

*1:たぶん、原書ではスペルミスや文法ミスで表現していたのを、こうやって日本語でらしく訳したのだろうと思われる。