2期・54冊目 『天竺熱風録』

天竺熱風録 (ノン・ノベル)

天竺熱風録 (ノン・ノベル)

出版社/著者からの内容紹介
遙か異境で、大軍勢を撃破! その智略にインドが震え懼れた
知られざる唐の英雄・王玄策(おうげんさく)!
世界史に燦然とかがやく偉業
驚異的史実にもとづく超娯楽エンターテインメント
天竺の名君・戒日王(かいじつおう)が急逝!? 玄奘三蔵法師(げんじょうさんぞうほうし)は不吉な夢を見た。折しも、大宗皇帝の命を受け、文官・王玄策率いる使節団が天竺へ向け出発した。行く手には天空にそそり立つヒマラヤ!
難路悪路を踏破し、目的地マカダ国にたどり着く一行。だがそこは、悪政を敷く新しい王によって支配されていた。三蔵法師の夢は正夢だったのだ。簒奪王を倒すべく、王玄策は囚われていた牢獄を脱獄。しかし頼るべき兵もなく、いかに強大な敵に立ち向かうのか!? 空前絶後の奇功をなした男の痛快冒険行!

日本では知られていない中国史の英雄を取り上げるには定評のある田中芳樹の面目躍如とも言える作品です。
ここで書かれている王玄策の活躍については、当の舞台となったインドが中国とは違って史料を記すのに不熱心であったり、自らの天竺往来を記した書物が散逸してしまったことから、限られた記述しか残ってないそうで。ネットで王玄策を検索しても、こちらの作品がまっさきにヒットします。ウィキペディアでさえ、吐蕃王朝の項に名が見られるだけ(はてなキーワードに登録はされてあった)。


著者の言葉にも書いてあるのですが、一度中国(唐)から天竺(インド)まで行った三蔵法師西遊記によってあれだけ有名になっているのに、王玄策は3度も往復しているのに知られていない。7世紀という時代に1年がかりでの天竺往来は大変な事業だったわけです。
読んでみるとその苦労は並大抵じゃないですね。
道筋の国(吐蕃・ネパール)とは友好を結んであるので戦乱に巻き込まれる危険は無くても、熱帯のジャングル・チベットの高山帯越えといった大変さが伺えるわけです。日本の遣唐使の如く、途中で命を落とすことだって珍しくなかったのでしょう。
しかも2回目はインドの大部分を制覇した偉大な王の逝去後の混乱時であり、吐蕃などの軍勢を借りて新王をたてて、国の建て直しに尽力してしまうのがすごいところ。


簒奪王との戦いをメインに王玄策とその仲間の活躍。そして軟禁されていた王妹やその従者との交流など。かなり著者の創作は入っているでしょうが、生き生きと描かれていて、読んでいて楽しませてもらいました。歴史エンターテイメントを書かせたら、さすがに期待を裏切らないですな。