2期・11,12冊目 『風は山河より 第四、五巻』

風は山河より 第四巻

風は山河より 第四巻

風は山河より〈第5巻〉

風は山河より〈第5巻〉

ようやく菅沼定盈が物語の中心になって、俄然面白くなってきて気がします。いや、それまでがつまらなかったというわけじゃないんですけど、読むスピードが速まった感じ。
父の戦死によって、若干14歳にていきなり家督をつぐことになったわけですが、悲嘆にくれる家臣に見せた態度は早くも大器の片鱗を見せます。無論、戦国時代の14歳頃と言えば元服も済ませて今よりもずっと大人なのでしょうが、感情をコントロールしてまず家のことを考えられるのは尋常じゃないです。
更に今川・武田の圧力に屈せず、自らの意志を貫く生き様が潔いというか、筋が通っていて格好いいですねえ。
そこには祖父・定則から育まれてきた野田菅沼家の家風とか、近臣からの影響もあるんでしょう。
そう考えると、著者が3代書きつづけてこられたところに深い意味がありますね。*1


まず盛り上がりの場面として、遠江侵攻の秋山信友を縁戚の豪族と協力して撃退する場面です。当時、上杉と並んで戦国最強を欲しいままにした武田軍を撃退することで菅沼定盈の名が一気に高まり、そして最大の山場の野田城攻防。ここでは家康・信長でさえ引き立て役ですな。
長篠の戦いの前哨戦とも言える長篠城の戦いでの奥平貞昌(信昌)の方がどちらかというと有名な気がしますが、野田城の戦いももっと知られてもいいような気がします。三方が原戦直後という全盛期の武田軍相手、しかも10倍以上の兵力差。ただ最後は水を絶たれて城をあけ渡してしまったのが悔やまれます。
でも日本人って、楠木正成から真田昌幸・信繁(幸村)父子のように、小を持って大を翻弄する戦話は好きだから、本作によって菅沼定盈の名が広まりそうな気がしないでもないです。


全編通すと、野田菅沼氏に関係が深い松平(徳川)氏の側に立った記述が多く、あまり知られていない三河の他の松平氏や諸豪族の関係が細かく書かれていて面白いですが、その分、今川そして4,5巻では武田があまり良く書かれていないので、人によっては感じ方が違うかもしれません。後の時代からすれば絶頂から衰退への武田と忍従から飛躍への徳川という見方も関係している気がしますが。
大身ではないけれど、天下の有名大名である武田・徳川に一時的にしろ大きく関わった野田菅沼氏のことを知ることができてよかったです。

*1:それとは別に家康が後に天下統一後、三河の豪族達が父・広忠や幼年期の自分に対してした処遇を忘れずにきっちり返しておく逸話が挟んであって細かいなぁと思いましたね。