69〜71冊目 『ローマ人の物語24〜26 賢帝の世紀(上・中・下)』

ローマ人の物語 (24) 賢帝の世紀(上) (新潮文庫) ローマ人の物語 (25) 賢帝の世紀(中) (新潮文庫) ローマ人の物語 (26) 賢帝の世紀(下) (新潮文庫)
ローマ人の物語〈24・25・26〉賢帝の世紀〈上・中・下〉
作者: 塩野七生
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 2006/08
メディア: 文庫

3冊合わせて約8日間+読書できなかった日もあったので、久しぶりの読書レビューとなってしまいました。
帝政時代に入ってからのローマ人がもっとも平和で幸福であったという五賢帝時代。その中でも特に以下の3人の皇帝を取り上げています。

  • 長らくローマを悩ませていたダキアを征服して帝国最大の版図を築いたトライアヌス
  • 帝国内をくまなく巡察し統治システムをたて直したハドリアヌス
  • 更に帝国内の政治を充実させ、後継者を育てあげて「国家の父親」を見事に演じきったアントニウス・ピウス。

1人1人が単に優れた能力を持っていたというわけだけでなく、状況的にどんな役割が求められているかを充分に認識して、皇帝としてのそれぞれの仕事を果たしたということです。


国史における「皇帝」と言えば、その王朝を開いた「太祖」や「中興の祖」のようなごく一部の名君を除き、強大な権力を用いて好き勝手気侭にふるまう「暴君」や、君臣の権力争いに利用される名目だけの存在などが印象に強いです*1
しかし『ローマ人の物語』を読むと、少なくとも五賢帝時代までは「皇帝」のあり方は全く違いますね。
共和制から元老院による寡頭政治へ、そしてより良い政治システムへと試行錯誤してきた歴史があるわけですが、少なくともローマの皇帝は元老院ローマ市民への配慮を怠ると、すぐにその座を剥奪されるものだったようです。
逆に言うと「皇帝」としての義務をきちんと果たしていれば、栄誉を称えられるということなんですね。
更に、この頃までの皇位は実子による継承が稀で、スムーズな方法として皇帝自身が在位中に優れた人物に目をつけ、実務の経験を積ませた上で執政官や属州総督といったポストを歴任させて次期皇帝候補として養子にするいうやり方でした。
血筋にこだわるよりあくまでも人物の実績・見識をとるというローマ人の合理性がよくわかるシステムです。


五賢帝の世紀は、最も「パクス・ロマーナ(ローマによる平和)」が充実していた時代だったのでしょう。平和といっても内乱や外征が全く無かったわけではないのですが、他の時代に比べればぐっと少なく、帝国内の秩序は安定していました。
そのためにはローマ人が「安全保障」「国内統治」「社会資本の整備」に細心の注意を払ったからだといわれています。
平和の実現のためには、何をすべきかということを歴史から学ぶには『ローマ人の物語』の中でも特に「賢帝の世紀」は格好のテキストになるような気がするのですが、どうでしょうか。


もっとも冒頭で著者が愚痴っていますが、平穏な時代は歴史家にとっては題材として面白みに欠けるので信頼できる史料に恵まれず、結果的に書き難いというのは皮肉ですねぇ。

*1:乱世の物語を読む機会が多いとそういう偏った見方になりがちです・・・