- 作者: 酒見賢一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1994/06/29
- メディア: 文庫
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1時間ほどで読み終わってしまうほどの薄い文庫ですが、内容は濃く、タイトルも「墨守」*2ではなく、「墨攻」となっているのが意味深ですね。
作品では、2万の趙軍の攻撃にさらされた小国・梁の城(兵力は千〜2千程度)へ派遣された革離という有能な技術者が主人公になっています。
たった一人で組織編成、土木建築から兵站整備、そして実際の戦争指導まで鬼神の如くの働きで趙軍の攻撃を跳ね返す様はまさに墨守の面目躍如です。
ただしその合理的すぎる思考は、味方である筈の梁国王太子の反感を生み、そして公平を期すために行った処罰をきっかけに最後は王太子の矢に倒れます。
倒れる瞬間の革離の思考として、己の実行したことが、戦争指導的に失敗だったことを悟るあたりが生粋の技術者らしいとも言えるし、この墨家思想の特異なところのような気がします。
墨家はその合理的過ぎるというか、先鋭的過ぎた思想の為か、遂には秦の時代に教団としては消滅してしまいました。
キリストよりも更に遡った時代に博愛や差別を否定することが、思想として体系化されていたこと自体驚きですが、同じ思想集団が非常に物理的な知識を応用した技術をも併せ持っていたことが興味深いですね。
始めの楚王の逸話にもあるのですが、非常に高い技術力と持ついうことは、そのまま侵略行為へ応用したくなるということが、墨子にはわかっていたからこそ「兼愛」の思想を重要なものとしたのかもしれません。