44冊目 『海の牙城〈4〉帝都攻防』

海の牙城〈4〉帝都攻防 (C・NOVELS)
作者: 横山信義
出版社/メーカー: 中央公論新社
発売日: 2006/06
メディア: 新書

3巻のレビューの時、日本本土〜サイパン〜ハワイへと3戦域にわたる戦いの描写は1冊では書ききれないだろうから、2冊に分けた方がいいだろうみたいなことを書きましたが、とんでもない。この調子ではもしかしたら5巻でも終わらないかもしれませぬ・・・。
でも、それだけ戦闘場面は丁寧に書かれているわけで、横山氏の良さではないでしょうか。少なくとも『砂塵燃ゆ』のラストの日本軍みたいな描かれ方は、さすがに無いとは思いますが・・・(´Д`;)


初っ端でハワイにルメイのピザ野郎(デブじゃないけど何となく)が降り立ち、B29の駐機間隔が狭いことを指摘しますが、某海軍士官が「ここはハワイです。日本軍など来るわけありましぇん!!」と大見得切ったあたりに何かフラグが立ったのを感じたのは私だけでしょうか。


さて本編はハルゼーの部隊の本土砲撃の迎撃がメインとなっています。
前巻では日本の航空部隊が散々な目に遭った教訓を取り入れて、さすがに今回の陸海軍の航空部隊は工夫をしますが、砲撃阻止するまではいかずに、横須賀や東京湾岸が炎上します。
思うのですけど、「○○には秘策があった」という記述があると、たいていの仮想戦記はあざやかすぎるほどの逆転劇が待っていますが、横山氏の作品に限っては効果は限定されてしまいますねぇ〜。今回もそうなのですが。
軍施設をあれだけ叩かれたのは大変痛いのは確かでしょうが、史実の大空襲と違って、民間人への被害が最小限に留まったことには少しだけホッとしました。*1


で、ハワイ空襲の急報を聞いて急ぎ帰国するハルゼー部隊、そしてただでは帰さないとばかりに追撃する日本軍の航空部隊(小沢冶三郎提督率いる機動部隊も含む)との戦いが見せ場ですね。
中でも初陣の炎龍の活躍は素晴らしい!
初見参ということで米軍の直掩部隊を混乱させる効果により見事撃破、史実のマリアナ海戦と違って錬度がさほど衰えていない航空部隊の波状攻撃は、これでもかというくらい熾烈なのに、米戦艦はホントに硬い!
いつものことですが、モンタナ級は特に硬さを増していますね。
考えてみれば、劇的な技術の進歩が無い*2設定の昭和19年時点で、通常航空攻撃によって米戦艦を沈めたこと自体、大変なことですが。
最後には米軍のエスコート艦は弾切れになってしまって、これって一見間抜けなようですが、それくらいのハンデはあってもよさそうでしょう。


さて、本シリーズの特徴としては、先に米軍による奇襲によって始まったことですが、奇襲ショックは大鑑巨砲主義から航空主力主義への見直しを強いられた*3こと以外に、陸海軍の協調が大きいですね。


陸海軍の協調については、航空機機種統合などの技術面だけでなく、現場レベルでの助け合い、そして作戦面にて手柄を争うことなくサポートにまわったりすることまで可能とし、この4巻においては史上初の航空攻撃による海洋行動中の戦艦撃沈という結実をもたらせたわけです。
あえて政治的な動きを排し、現場レベルの描写がメインになっているのは、陸海軍が一体となった時にどれくらい戦えるかというのを描きたかったのだな、ということに今更ながら思い至ったわけです(^_^;A


さて後は、戦争の行方を握る山口多聞提督の真珠湾攻撃部隊の状況ですね。
少なくとも3次攻撃まで反復しているということですが、史実にあったと言われる山口提督の第3次攻撃の具申を何となく思い出しました。


おおっと、忘れちゃいけないのはマリアナの状況。張り付いていた米軍機動部隊の状況はわからないけれど、日本側も救援するには消耗が激しいし、予断を許しません。
こうなったら是が非とも次巻でB29・400機の盛大な炎上を見たいものですな。

*1:仮想戦記を読んでて、軍人が戦死する様はまだ冷静に読めても、大勢の民間人が被害に遭う様はやはり鬱になりますよ。

*2:大きく違っているのは炎龍くらいで、ロケット弾や誘導魚雷とかの供与は無かったのか、実戦化するまでいってないってことですね

*3:このへんは史実の裏返しですね