『華麗なる一族』上・中・下

華麗なる一族(上) (新潮文庫) 華麗なる一族(中) (新潮文庫) 華麗なる一族(下) (新潮文庫)
作者: 山崎豊子
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 1970/05
メディア: 文庫

タイトルにふさわしく、年末年始にホテルにて豪華な食事を囲む万俵一族の紹介から物語は始まる。
まさに華麗な一族にふさわしい幕開けであるが、そこには一族の総帥・大介の歪んだ私生活の秘密があった。
大蔵省主導による銀行再編への流れの中、阪神銀行発展の野望を抱く主人公・万俵大介に対して、物語の重要なキー人物となるのが、家庭教師兼大介の愛人である高須相子と長男・鉄平であると思う。
鉄平は阪神特殊鋼の若き専務として、父と違って一途な熱情を持って会社を牽引し、相子は表向き愛人であることを隠し、家宰的な立場で万俵家子女の閨閥作りを担う。
一族の発展は順調と思いきや、一族及び一族をを取り巻く人々の思惑・権謀や度重なる不運によって徐々に内部崩壊していく。


閨閥結婚=不幸な結婚というお決まりの図式(上流階級ではない私は実際のところはわからないが)や、出生の疑惑がある鉄平を憎むあまり、傘下の会社をむざむざ潰す大介の冷酷さなど、ちょっとやり過ぎな感も無きにしも非ず。
また昭和40年代後半という時代背景も考慮しなければならない。とは言っても私自身が生まれて間もない頃なのでなかなか難しいのだが。
ただ、現在のメガバンクより、一昔前の第一勧銀・富士・三和といった銀行名の方がしっくりくる私にとっては、本作に描かれたような内容とまでいかなくとも、合併にいたるまでに銀行内部だけでなく政財界を巻き込んだ様様なドラマがあったのではないかと純粋に楽しめる。


他の男性作家の銀行合併劇を扱った作品が、銀行の実務中心で淡々とした印象を受けるのに対し、当作品は女性がかなりのウエイトを占めるせいか人間関係の描写が賑やかで華がある面、会話のシーンなどがやや粘っこく感じる(他の作品にも言えることだが)。
白い巨塔』のように正義と悪の対比が本作でも感じられる。悪の象徴である大介が権謀術数を駆使して野望を達成していく後半はややだるさも生じてしまったが、最終章は良かった。あのお方の方が一枚上手だったとはね。
それにしても例の如く、銀行の名前が実在したものをすぐに連想できてしまって微妙。モデルになったと勝手に思いこんだ銀行が、実際にどういった経緯で合併したのか調べてしまったではないかい。