『敵』

敵 (新潮文庫)
作者: 筒井康隆
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 2000/11
メディア: 文庫

実は筒井作品との出会いは中学時代なので結構長い。『乱調文学大辞典』など半分意味もわからず笑っていたものだった。それでいて読む時期と読まない時期で波があったが、断筆宣言以降は読む機会が減っていき、ここ数年は年1冊くらいのペースだった。


30〜40代くらいの「おれ」が主人公であった作品(もう20年以上前に出されたわけか)に一番はまっていたので、こういった老人の日常生活を書かれた作品を出したということと、表紙の写真を見て、筒井氏も年をとったのだぁと感慨にふける。当たり前だ。自分だって初めて読んだ時に中坊だったのが、今では30代になって子供もいるんだから。


それはともかく内容は、主人公・儀助(75歳)の日常が観察日記の如く、食事や買い物の風景が細かすぎるほどに描かれる。儀助は自分が耄碌して自己を律せ得なくなること、他人を手を煩わせて醜い最後を見せることを恐れ、貯金が無くなると同時に見事な自裁をすることを目指す。


しかしある日、パソコン通信の画面にメッセージが流れる。「敵です。皆が逃げはじめています―」。その後、現実は妄想に侵食されはじめる。長い幻聴のあと、春雨の降る日に儀助の日常は唐突に終りを告げる。


うまく表現できないが、不条理さっていうのかな?。久しぶりに堪能した。最後はやられたって感じだった。思い返せば、前半の異常なまでの細かい日常描写から、既にどこかで儀助の精神は蝕まれていたのかもしれない。多分、読む人によって楽しめるか、まったくつまらないか評価がくっきり分かれる作品ではないか。


おまけ。文章を書くにあたって、いつのまにか影響を受けた作家の一人。しかし改行や句読点が極端に少なく、擬音に漢字を当てたり、偶に「けけけ」とか叫んだりする文章は読みづらいので、プロの作家のように金出して読ませるってわけではなく、こういうところで書く立場ならば注意しなければ。