13期・63冊目 『不屈の海4 ソロモン沖の激突』

不屈の海4-ソロモン沖の激突 (C・NOVELS)

不屈の海4-ソロモン沖の激突 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

日本軍は第三次ビスマルク海戦に敗れ、ビスマルク諸島の制圧に失敗。以降、機動部隊で米輸送船団を叩くことで、補給線寸断を狙う戦略を採る。しかし、対する米国もトラック島沖にて日本輸送船団を攻撃し、戦局は膠着の一途を辿っていた。一方、欧州戦線では連日、米英の戦略爆撃を受けるドイツに疲弊が目立ち始める。中立を守るイタリアを動かすため、連合軍はマルタ島に進出。外交戦が活発化する中、ソロモン諸島沖にて輸送船を狙う連合艦隊と、護衛にあたる太平洋艦隊がついに激突。巨大空母四隻による一大決戦が幕を開ける。両陣営、新型戦闘機を導入した戦いの行方は―?

海戦に勝利して戦局を有利に進めていたかに見えた日本軍ですが、前巻ビスマルク諸島の航空制圧に失敗したことにより戦線は膠着気味。
もっぱらトラックに来襲するB17に対する迎撃戦。
互いの補給線に対する攻防が激しさを増していました。
そんな中、軽空母を伴うアメリカの補給船団の攻撃には潜水艦だけでは効果がみられないため、二つある機動部隊の一つを投入する決断をします。
これが功を奏して補給船団が護衛艦とともに壊滅したことにより、B17による空襲が中断。
逆に窮地に追い込まれた南太平洋艦隊では虎の子の空母を出撃させることに。
ここに本格的な航空決戦が生じることになったのでした。


膠着状態となったことで、史実ではほとんど見られなかった行動に出るあたりが珍しいと言えるでしょう。*1
例えば、トラック基地に進出して迎撃を担う二式戦鍾馗零戦は長い足を生かして帰還するB17を執拗に追いかける。
ラバウル湾内に機雷を設置する潜水艦。
そして大物食い傾向にある主力(機動部隊)による輸送船団襲撃。


そして肝心の機動部隊同士の航空決戦については、それぞれ迎撃専任の軽空母から新型機を運用したり、日本の急降下爆撃が三式弾を改造した爆弾を使用したという点を除けば、架空戦記にしては現実的かつ地味な結果に終わった気がします。
むしろ、機動部隊というより基地司令のイメージがある草鹿司令官が夜戦を行ったところが意外だったというか。
著者も読む方の意表をつくためにいろいろ考えているってことでしょうか。


今回は痛み分けに終わりましたが、いよいよアメリカは量産されたエセックス級の運用が始まります。
ただでさえ対空やダメコンの能力が高いのに加えて主力戦闘機もF6Fヘルキャットに置き換わり、手ごわさが増していく。
戦艦大和復活は喜ばしいですが、厳しさを増していく戦局にどうやって対応していくのか。
また、虎視眈々と狙うソ連も不気味であり、欧州戦線が今後どう動くかによって、太平洋方面に影響を与えていくんじゃないかと予想されますね。

*1:著者の架空戦記作品では何度か見られるけど

13期・62冊目 『災神』

災神

災神

内容(「BOOK」データベースより)

島根県出雲市は、ある一瞬を境に瓦礫の山となった。テレビに映し出される光景に誰もが息を呑むが、原因は不明のまま。局地的な天災か、北朝鮮のミサイルか、テロか!?先遣隊として送り込まれた陸上自衛官の新野は、風変わりな子供アキラと技術者の天音に出会う。彼女が勤務する巨大な研究施設で起きた“予測不能な事態”を知った新野は震撼する―。街が封鎖され通信手段がない中、唯一つながったツイッターには、最新のニュースや、救出を待つ人がいそうな場所などさまざまな情報が寄せられる。見知らぬ人々の祈りのもと、生存者たちは立ち上がるが…。ノンストップのパニックサスペンス。

島根県出雲市が謎の災害によって瓦礫だらけの地と化した。
当地に偵察隊として派遣された陸上自衛隊の兵士たち。偶然地下の酒場で飲み明かしてそのまま寝入っていたために難を逃れた女性研究者を軸にいったい何が起こったのかが徐々に明かされていく。
その災厄をもたらしたのは日本海メタンハイドレート採掘時に発見された巨大生物ミズチ。
研究のために捕獲してプールで眠らせておいたのが冷却装置の故障などによって、出雲に上陸して暴れまわったということなのでした。
ミズチは暴れた後に海に還ったと思われましたが、現地に到着した自衛隊の小隊は生存者には一切会うこともなく。
進むうちに大きさはあまりないが、びたん、びたん、という不快な音と共に灰色の名状しがたい奇妙な生物に襲われてしまいます。
それはヒルコと名付けられた、陽を避けて瓦礫の隙間から獲物(人)を捕食する化け物。
出雲はミズチとヒルコにより、ほとんどの市民が犠牲となって、まるで破壊し尽されたゴーストタウンのような有様となっていたのでした。


こういった災害時に気になるのは政府の対応ですが、採掘場所が竹島の南方ということで、デリケートな一帯。
さらに新種の生物が発見されたら、日本のエネルギー問題の解決の鍵となるメタンハイドレート採掘に大幅な影響が出ると予想されて、請け負っていた会社も依頼した政府としても公表せずに秘密裏に運ぼうとしていたこと。
それゆえにいざ大災害を巻き起こした当初から事実を伏せたまま対処しようとしたのでした。
それが破られたのは、現地入りした自衛隊員・新野によるツイッターでの投稿。
当局の思惑を超えて、インターネット上にはミズチが暴れた出雲の様子が断片的に漏れていき、情報を求める声や新野を支援する声、被災者を救おうとする声に満ちていくのでした。


amazonのレビューにて指摘されていたように映画『シン・ゴジラ』による影響が強いそうですが、私は見ていないのでコメントしようがありません。
ただ、2011年以降に発表されたパニック小説には東日本大震災が強い影響を与えているのは違いありませんね。
情報公開を渋る政府や企業、米軍の協力*1、その一方で様々な情報がインターネットに溢れるようになり、以前はマスコミ頼りだったのが国民一人一人が情報の発信者(玉石混交ではあるが)となったのが3.11以前とは明らかに変わりました。
その象徴的と言えるのが、嫌々ながらも仕事だからと現地に赴くことになった新野。
彼は二年間の採用期間が過ぎたら転職するつもりであり、兵士としての覚悟も国民を守るために命を張るような義務感など持っていない普通の青年。
それがいつの間にかツイッターの投稿が多数のフォロワーを呼び、ヒーローのように扱われていく。
後から本人が知り、「そんなたいそうな人間じゃない」とギャップに悩むところがリアルな感じがしましたね。


前半の不気味な状況からそれぞれの人物が出会い、何が起きているのかを把握。
日本政府に断りなく第七艦隊が沿岸からミズチに攻撃するあたりからストーリーが加速していきました。
緊迫感と迫力あるミズチやヒルコとの戦いや脱出の描写。
土壇場になって本腰を入れた総理やネットを通じて大勢の人々が新野に呼びかけるなど、現地以外でも盛り上がっていくのも良かったですね。
終盤は目が離せず夢中になってページをめくったものです。
最後はいかにもエンターテインメント風ではありますが、それはそれは良いのかもしれません。
現実だったら、新野はむしろこれからが大変だろうなぁと思いますね(笑)

*1:終盤には世界各国からの援助も出ていた

はてなダイアリーからはてなブログへ移行

2018年8月30日にはてなからお知らせがあり、はてなダイアリーはサービス終了となるそうです。
「2019年春「はてなダイアリー」終了のお知らせと「はてなブログ」への移行のお願い」
年末年始の休みにでも移行しておこうかなと思っていたのだけど、すっかり忘れていたら新しいお知らせが。
「はてなダイアリー終了の際、すべての投稿データをはてなブログに自動移行します」
放置しておくと、自動的に移行されるようです。


細々ながらも続けている当ダイアリーですので、はてなブログに移行して続けていきたいと思います。
ところで、はてなブログが始まった当初に何日分か投稿しているんですよね。
FAQも公開されているけど、既存のはてなブログがあった場合のケースは特に言及されていないみたい。
そちらの記事は残したまま移行できるのかはわかりませんでした。たぶん大丈夫なんだろうけど。
ということで近いうちにはてなブログに移転します。名前もこちらに合わせて『雑葉抄』にするつもりです。

13期・61冊目 『冬を待つ城』

冬を待つ城 (新潮文庫)

冬を待つ城 (新潮文庫)

内容紹介

籠城か、玉砕か――否、三成との知恵比べに勝利し、あとはただ冬を待つのだ! 天下統一の総仕上げに、奥州最北端の九戸城を囲んだ秀吉軍、兵力なんと十五万。わずか三千の城兵を相手に何故かほどの大軍を要するのか――奥州仕置きの陰のプランナー石田三成の真意を逸早く察知した城主・政実は、九戸家四兄弟を纏めあげ、地の利を生かして次々と策略を凝らした。あとは包囲軍が雪に閉ざされるのを待つのみ!

「三日月の丸くなるまで南部領」と言われるほどに勢力を伸ばした南部晴政の後継の座を巡って対立を続けていた信直と九戸政実*1
九戸四兄弟の末弟である久慈政則を主人公にして、晴政没後の揺れる南部領が描かれます。
南部氏本拠である三戸城への正月参賀を機に信直と政実を和睦させようと九戸の兄弟は尽力するが、政実が刺客に襲われて頓挫。
影には南部宗家と有力一門である九戸の対立を煽って戦へと発展させようという企みがあり、いまだに燻る葛西などの一揆勢を九戸に合流させた後に15万を号する征討軍を差し向けるつもりなのです。
近い将来に実行する朝鮮出兵。厳しい冬を迎える現地での作業に従事させるには西国よりも寒さに慣れている奥州の民がふさわしい。
九戸反乱鎮圧に隠れて奥州で人狩りを行って連れ去るの目的があったのでした。
そこには奥州に対する蔑視がありありと伺えます。
独自の情報網によってそれを察知した九戸政実は南部を一つにまとめて秀吉に抵抗しようとします。
実は九戸政実の元には遥か昔に中央の軍に敗れて山々に籠った蝦夷の民がついている他、金銀や硫黄の鉱山を手にしていました。
秀吉配下の石田三成は莫大な火薬作りに欠かせない硫黄の鉱山を我が物にすべく、その在処をある者と協力して探っていたのでした。


豊臣秀吉の天下統一の最終段階で起こった九戸政実の乱は知っていましたが、なぜ刃向かうことになったのかまでは知りませんでした。
関東に覇を唱えた北条氏でさえ20万の大軍に飲み込まれて敗れ、伊達・南部を始めとする奥羽の諸大名は悉く矛を収めたというのに、南部氏の一門である九戸政実なぜ天下の軍勢に逆らうような真似をしたというのか?
実は冒頭で描かれた朝鮮出兵にて厳冬の中で苦闘する日本の将兵
一人の武将の顔を思い出して悔しがる石田三成。そこに答えがあったのでした。


すでに最終的な結末がわかっている歴史を小説として面白く読ませるには、資料からは伺えない背景やら人物像が必要かと思います。
やはり奥州といえば、アテルイから始まり、奥州藤原氏の滅亡までの中央との苦闘の歴史があるでしょう。
九戸政実はそれを受け継ぐ棟梁の一人として据えられたわけですね。
もともと南部氏の精鋭を率いる九戸として、天下が落ち着いていく行方が見えない愚者ではなく、やむにやまれぬ事情があったというのが納得です。
それぞれの立場に立つ九戸四兄弟の事情。
九戸と南部を標的にした石田三成の陰謀が徐々に明かされていくのがたまりません。
かなり悪者っぽく描かれていますが、現地であの人物が暗躍したのも納得です。
また、征討軍の先鋒対象に任じられた蒲生氏郷の清廉さ、後背定かならぬ伊達政宗など、それぞれの思惑で動くところも良かったです。
タイトル詐欺というか、善戦した割にはあっけなく和議が結ばれて、首謀者たちは処罰されることになったその真実が山場として描かれています。
多少強引な気がなくはないですが、死せる九戸政実石田三成の密謀を見事に潰したと思えば勝利なのでしょう。
その一方で戦いが長引き、征討軍が雪に埋もれた北奥州で立ち往生していたら、違う歴史が刻まれていたのかもしれないと気になりました。

*1:同じ婿養子として後継者候補だったのは次弟・実親

13期・60冊目 『解体諸因』

解体諸因 (講談社文庫)

解体諸因 (講談社文庫)

内容紹介

すべての謎は死体から始まった。6つの箱に分けられた男。7つの首が順繰りにすげ替えられた連続殺人。エレベーターで16秒間に解体されたOL。34個に切り刻まれた主婦。トリックのかぎりを尽くした9つのバラバラ殺人事件にニューヒーロー・匠千暁(たくみちあき)が挑む傑作短編集。新本格推理に大きな衝撃を与えた西澤ミステリー。

バラバラ殺人事件。
遺体を切り刻む行為自体がたいそう猟奇的であるだけに現実に発生すれば必ず報道されるほどの事件です。
ミステリーの分野でバラバラにする理由の大きな理由としては、自宅などの殺人現場から移動させるため。例えば被害者が男性で加害者が女性の場合など、そのままでは運べないし目立つから。
もう一つは証拠隠滅ですね。
それ以外に自己顕示欲を満たすためにバラバラにした上でばらまいたり、特定箇所だけの収集癖があるなど犯人の趣味のパターンもありますが、だいたいは合理的な理由が見られます。
では、上記にあげた以外に解体する理由があるとしたら?


「第一因 解体迅速」
被害者の死体は、柱をかかえ込むような格好で、両手足に玩具の手錠を嵌められ、解体されていた。さらに死体の顔面や腕には地面を引きずったような擦過傷があったという。
現場はいつ誰が訪れるかわからない住宅。殺人現場から一刻も早く去りたいであろうに、あえて手間をかけて解体した理由とは?
「第二因 解体信条」
34個のパーツに切り刻まれた主婦。
被害者は、自分の息子とかつて恋敵だった女性の娘との結婚に反対していたらしい。
特に細かく切り刻まれたパーツは指であることが鍵となる。
「第三因 解体昇降」
マンションにて8階でエレベーターに乗った女性が1階に着くまでのわずか16秒の間に、全裸のバラバラ死体となっていた。
どう考えても実行不可能と思われる事件だが、それを解く鍵は目撃者の行動にあった。
「第四因 解体譲渡」
一軒の書店で、101冊(種類は限られているので同じ雑誌を何冊も買っている)の成人雑誌を買っていった中年女性。
彼女はいったい何のためにそういった行動を取ったのかを推測する。
「第五因 解体守護」
ある家庭に泥棒が入ったのだが、不思議なことに被害は長男のお気に入りだったクマのぬいぐるみの腕が切り取られたこと。それに長女が憧れの先輩から貰ったハンカチが消え失せてしまったことくらい。そして数日後、クマのぬいぐるみにはハンカチで腕が結びつけられていた。
本作の中では唯一優しい結末の話。
「第六因 解体出途」
トラブルメーカーの叔母から自分の娘とその婚約者を別れさせてほしいと頼まれる主人公。
聞いている内に叔母自身が婚約者の青年とデキていることを聞かされてうんざりしてしまう。
無理やり渡されたメモ。仕方なく夜遅くに書かれた住所を訪れると、不審な人物がいくつもの箱を車に運び入れていた。
「第七因 解体肖像」
街中に貼られていた新築マンションの広告ポスターだが、なんとモデルの女の子の首の部分だけが切り取られるという悪戯が相次いだ。
大事を取って回収され、代わりにモデル無しのポスターに差し替えられた。
いったい誰がそんな悪戯をしたというのか?
「第八因 解体照応 推理劇 『スライド殺人事件』」
何の繋がりのもない女性ばかりが次々と殺される。
なぜか首から上だけがスライドしたかのように次の被害者の遺体のそばに置かれていた。いったい犯人の狙いは?
作中作における脚本の形式で描かれた内容。
コメディタッチであったり、いろいろと強引さが見られるのは作中作という位置づけのせいか。
「最終因 解体順路」
二つの死体の首が入れ替えられ、犯人が自殺した事件について、刑事に問われた主人公が考察する。
人数こそ違えど、『スライド殺人事件』を彷彿させる事件かと思いきや、登場人物の一人が書いたものであった。


最初は別々の独立した短編集に思えましたが、探偵役が続けて登場し、最後に繋がりが明らかにされます。
なぜ殺した*1かよりも、どういった理由があって解体されたり一部切られて現場から持ち去られたかを解明していく内容が特徴的です。
中にはぬいぐるみだったり写真が混じっていますが、よくぞここまで考えついたなぁと感嘆させられました。
ただグロいばかりでなく、心理的なトリックを使った内容があったのも良かったです。
ただ、最初にあげたように運搬や証拠隠滅に比べれば、やや強引かなと思わないでもないのもありましたが。
死んだ人間を解体するなんて、普通の人間ならば心理的な抵抗が大きいと思うんですよねぇ。

*1:殺人というより事故に近い死も含まれる

13期・59冊目 『ドッグファイト』

ドッグファイト

ドッグファイト

内容紹介

物流の雄、コンゴウ陸送経営企画部の郡司は、入社18年目にして営業部へ異動した。担当となったネット通販大手スイフトの合理的すぎる企業姿勢に反抗心を抱いた郡司は、新企画を立ち上げ打倒スイフトへと動き出す。

物流トラック業界といえばブラックともいえる過酷な勤務であり、成り手は少なく高齢化が進み、ドライバーの平均年齢は42歳に達しているという。*1
その一方でネット通販最大手スイフトの宅配量は年々増加し、コンゴウ陸送においては全体の二割を占めるほど。
スイフト・ジャパンでは名古屋に一大物流拠点を築き、生鮮食品の当日配送を行うプロジェクトを立ち上げます。
仕入は大手スーパーの太陽堂と提携し、物流を担うのはもちろんコンゴウ陸送。
しかし、旨味があるのはもちろんスイフトで、コンゴウ陸送はチルド便を増やすためにコストがかかるし、人員の確保も難しく、はっきり言って儲けにはなりません。
車両を空荷で走らせるよりは何か荷物を運ぶ方がマシという風潮があり、利益が出ないままにスイフトとの取引量は増えていくばかり。
実はスイフト側としては、今回の生鮮食品の当日配送を機にシステムの接続も進め、もはや後戻りができなくなった時点で運賃の値下げを迫るつもり。
将来的にはコンゴウをスイフトの物流一部門のように扱う企みを持っていたのでした。


主人公である郡司はコンゴウ陸送経営企画部から現場を知るために営業部に異動し、スイフト・ジャパンのやり手女性幹部である堀田の上から目線の弁舌に圧倒される毎日。
ある日、帰郷した際に雑貨屋の跡を継いだ同級生の個別訪問販売を目にして、スイフトに対抗するための新しいビジネスモデルを思いつきます。
それは電話やネットを介して個々の商店から商品をピックアップして顧客へ届けるというもの。
物流を担うコンゴウならではのビジネスであり、過去に構築したシステムを流用できるし、トラックも大型でなくても良いから地元から普通免許を持つドライバーを採用できる。
コンゴウ側の出費は少なくて済むし、商店としても確実に売上となり、出かける足が無い年寄りにとっても助かる。
それはネット通販に押されがちだった既存のスーパーなどにも活用が期待できるというもの。
ただし、スイフトが推し進めるプロジェクトとは真っ向から対立することになるのですが・・・。


普段ネット通販を使っていますが、その便利さを享受しながらも、現場で働いている人々の事情までは考えが至らないものです。
いつしか送料無料を当たり前のように思っていますが、実際に運ぶ側からしてみれば、人件費やガソリン代、車両を含めた各種設備に費用がかかるわけです。
荷主やユーザーの立場が強いように見えるが、実際は物流会社なくしてはこのネット通販は成り立たない。そんな視点に立って考え直してみると、新たなビジネスモデルが見えてくるってわけですね。
物流会社から見る現代社会の問題や将来の懸念がわかりやすく書かれていて、特に地方では少子高齢化が進み、深刻な状況となっています。
そのための鍵を握るのはITだけじゃなくて、地域に根ざした対応なのだろうと考えさせられます。
物語はスイフトにいいように振り回されていた郡司らが起死回生の策を練って逆転していく様がとても胸のすく展開です。
気になった点としては、新たなビジネスがトントン拍子でうまくいきすぎたことでしょうか。
実際にはいろいろと細かい問題が出てきそうな気がします。
終盤はやや急ぎ過ぎた気がしました。

*1:作中のセリフより