13期・58冊目 『彼女はもういない』

彼女はもういない

彼女はもういない

内容(「BOOK」データベースより)

母校の高校事務局から届いた一冊の同窓会名簿。資産家の両親を亡くし、莫大な遺産を受け継いだ鳴沢文彦は、すぐさま同学年の比奈岡奏絵の項を開いた。10年前、札幌在住だった彼女の連絡先が、今回は空欄であることを見て取ったその瞬間、彼は連続殺人鬼へと変貌した。誘拐、拉致、凌辱ビデオの撮影そして殺害。冷酷のかぎりを尽くした完全殺人の計画は何のためだったのか―。青春の淡い想いが、取り返しのつかないグロテスクな愛の暴走へと変わるR‐18ミステリ。

徒歩で帰宅途中の女性をスタンガンで気絶させて拉致し、どこかスタジオのような場所に監禁して凌辱の限りを尽くす。
その様子をカメラに収めて編集したDVDを携帯電話に入っていた知人の男に送り、助けて欲しければ1000万円寄越せと要求。
しかし、警察が通報を受けた翌日にはブルーシートに包まれて遺体が発見されたという。
誘拐目的にしては短絡的過ぎるし、自己顕示目的にしては中途半端。
捜査の過程で刑事たちは犯人の目的に首を捻ります。
「この犯人はまた事件を繰り返す」
女性警視(城田理会)が確信した通り、数日後にも同様の事件が起こって女性が犠牲となったのでした。


実は序盤にて鳴沢文彦が犯行を計画している様子が描かれているのです。
家出して消息を絶った上に急死してしまった姉の子がろくでもなくて、借金を抱えて頼ってきたこと。
気晴らしに散歩している早朝の公園で出会った自分そっくりな浮浪者。
女性に対してステレオタイプな妄想を抱いた鳴沢が二人を使い、猟奇的殺人事件を起こし始めたのではないかと思わせます。
鳴沢が妄執に囚われ始めたきっかけというのが送られてきた高校の同窓会名簿。
同級生の奏絵の連絡先が空欄であったことにショックを受けたという意味不明なもの。
彼女とは高校時代に一緒にバンドを組んでいて、密かな想いを抱いていた様子なのですが、かといって行動に移したわけでもない。
むしろ、結婚したことを知っても、仕方ないと思っているふしさえあります。
そうして鳴沢の動機に謎を残したまま、殺人事件は続けざまに発生するのでした。


R18指定されているだけあって、エグイ描写の連続。
ただし、この著者のことだかから、そういった描写を超えて驚かせる展開が待っているんじゃないかと思いながら読み進めていったら・・・。
完全犯罪成ったかというところで、頭を殴られたかのようなショッキングなどんでん返しでした。
とはいえ、いろいろと気にかかった部分は残ります。
その一つは鳴沢にそっくりな”ダブル”を使った意味。
最初は目撃された時の身代わりじゃなかったのかなぁと(まぁ、鳴沢の知らぬところで二重の意味で衝撃の事実があったのですが)。
同窓会名簿の件は、青春時代の思い出が宝となっている中年特有の思い入れが拗れたためだったのではないだろうかと解釈しましたがどうでしょうか。
あとは悲惨な少年時代の描写はあっても、現在の鳴沢の人物像が見えてこないこと。
結局、彼も甥と同じく精神的に大人になり切れていないだけなのではないか。
それらは置いても、いくつかの伏線を回収しつつ、見事な幕切れでした。
何とも救いの無い結末でしたが、読み終えた後に本を閉じてタイトルと表紙を見ると、改めてその意味がわかって、非常に切ない思いがしたものです。

13期・57冊目 『精霊幻想記12.戦場の交響曲』

精霊幻想記 12.戦場の交響曲 (HJ文庫)

精霊幻想記 12.戦場の交響曲 (HJ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

シャルル=アルボー率いるベルトラム王国騎士団からの追っ手がかかるクリスティーナ王女一行を、ロダニアまで護衛することになったリオ。一騎当千の力を持つサラたちの協力もあり、一行は順調に追跡者たちから距離を稼いでいく。そんな中、クリスティーナは過去の自分を振り返りながら、正体を隠すリオに対して謝ることも出来ず、密かに胸を痛めていた。一方、リオたちをシャルルとは別経由で追うレイスは手駒を動かしながら、確実に包囲網を敷くべく謀略を巡らせていく―。

11巻]にて、セリアだけでなく、ベルトラム王国からの追手を撒きながらロダニアを目指すクリスティーナ王女一行の護衛をすることになったリオ。
折よく駆けつけてくれた精霊の里の三人(獣人サラ、ハイエルフのオーフィア、ドワーフのアルマ)にも協力してもらい、街道を避けて空を駆けながら距離を稼いでいきます。
途中の宿場町で冒険者たちに絡まれて、強引にねじ伏せることがあったものの、王国騎士団の捜索範囲から無事抜け出し、もう少しで国境を越えられると思ったところで、レイスが仕掛けた狡猾な包囲網が待ち受けていたのでした。


クリスティーナ王女一行の逃避行はweb版でも夜会編(名誉騎士叙任と美春との別れ)の後に書かれていました。流れ的には前後していますね。
大まかな流れは踏襲しつつも、書籍版では大胆に改変されているようです。
違いの一つはベルトラム王国勇者である瑠衣とリオが面と向かって戦うところ。
瑠衣の召喚にあたって巻き込まれた二人(エイタとレイ)がなぜ瑠衣と袂を分かったのかが気になるところですが、いずれ明かされるのでしょうか。
それから、リオがweb版よりも無双して、学園時代より因縁あったシャルル・アルボーが無様を晒したところは胸のすく思いでした。
後半がほぼバトルの連続であり、最後にリオが主人公らしい活躍を見せてくれました。
過去を悔恨するクリスティーナ王女の心情により、彼女とリオとの距離感は今までのヒロインとは違う形で描かれていたところは良かったですね。


気にかかった点としては、いくらリオ無双の舞台作りとはいえ、国境付近で待ち受けていた5000もの兵はどこから来たのかということ。
しかも場所が国境付近ということは軽々しく軍を動かして良い場所ではなりません。
数名ならばグリフォンに乗ってきたということになるだろうけど、時代背景的に5000人もの兵を動員するにはかなり時間がかかるはず…。途中まで捜索に使っていたのだとしても、集合に何日もかかるだろうし。
そのへんは何も書かれていなくて、ご都合主義と取られても仕方ないでしょう。
敵役は王剣・勇者・魔剣使いを中心とした少数精鋭でも良かったような。
それからレイス部下と精霊術使い三人娘との戦いの違和感ですかね。
敵が魔剣使いであると認めているのに最初から本気を出さずに手間取り、王女たちに危険を及ぼすことになったり。激戦の最中に長々と会話をしていたりと。
場面ごとの描写は丁寧だし、ちゃんとストーリーを考えているのだろうと思えても、やっぱり読んでておかしく思えてしまう個所があったのでした。

13期・56冊目 『決戦!本能寺』

決戦!本能寺

決戦!本能寺

内容(「BOOK」データベースより)

天正十年六月二日(一五八二年六月二十一日)。戦国のいちばん長い夜―本能寺の変
葉室麟(斎藤利三)
冲方丁(明智光秀)
伊東潤(織田信房)
宮本昌孝(徳川家康)
天野純希(島井宗室)
矢野隆(森乱丸)
木下昌輝(細川幽斎)
天下人となる目前の織田信長を、討った男、守った男。その生き様には、人間の変わることのない野心と業が滲み出る。名手七人による決戦!第3弾。

戦国時代を象徴する人物、織田信長
長年の敵・本願寺を屈服させ、武田を滅ぼし、毛利と上杉を攻め、四国には上陸直前。
まさに天下統一まで残りわずかと思われていたその時に起こったのが明智光秀による謀反。
自ら弓や槍を取って戦い、最期は炎に包まれて死に逝くという劇的なものでした。
その本能寺の変を主題に取ったのが本作。
今回のラインナップを見ると、信長本人は入ってなく、その周囲の人物ばかり。
明智方が2編、信長側近である森乱丸や当時わずかばかりの人数で畿内にいた家康を別にすると、意外な人物も入っていたりしますね。
全体的に戦国初心者よりも、ある程度史実を押さえていた上で想像力を働かせることができるマニア向けといった内容だったと思います。


伊東潤「覇王の血」(織田信房)
ここで登場する織田信房は信長の一門衆であろうことは推測できるのだけど、誰?っと思ってしまったのは事実。
実は美濃岩村城の遠山氏に養子として送り込まれた信長五男の御坊丸が成人後の人物だったのです。
武田信玄の西上作戦に敗れて甲府に人質として送られていたのが、長篠の戦後に和睦を希望する武田勝頼によって返還。その際には織田勝長*1と名乗っていたのを信長と対面時に”勝”が上にきているのが気に入らないと改名させられたのでした。
孤独だった幼少時代に養母として親身になり、彼自身も慕っていた「おつやの方」が信長を裏切ったことで岩村城陥落後に逆さ磔にして殺されたと人づてに聞いて、信長に深い恨みを持っていたという背景がありました。
いつか信長に復讐するために武田家で鍛えていたのに、勝頼に頼まれて織田家との和睦のために戻ります。
もっとも信長の武田を滅ぼす意思は固く、信房は役目を果たせないまま、信忠付の一門衆として働くことになってしまったというのです。
そんな彼が真意を隠したまま迎えた本能寺の変。その行動の裏には積年の恨みを果たすためでした。
初っ端から意外性有りすぎる人選と内容でびっくりでした。
織田信房という人物は史料にもあまり残らず、詳細は不明なのですが、本作で書かれたような事情があっても不思議じゃないですね。明智光秀が信長を亡きものにした後に神輿にしようとしたというのにも納得でした。


矢野隆「焔の首級」(森乱丸)
信長の忠実なる側近・森乱丸が主人公。
有能な小姓であると同時に眉目秀麗なことから衆道の相手であったとされる彼ですが、部門の誉れ高い森家の一門として、兄・長可のように戦場に出ることを渇望していたとしています。
それがようやく叶ったのが本能寺にて主君を守りながら槍を振るった時というのが皮肉でした。
乱丸視点ということで、謀反の背景など余計な記述は無しで、ひたすら彼と信長の最期を劇的に書いたのが良かったです。
本能寺を覆いつくす炎の如く、勢いが感じられた一編でした。


天野純希「宗室の器」(島井宗室)
三番目に登場したのは博多の豪商・島井宗室。
もともと信長と交流あった千宗易(利休)や津田宗及でもなかったのが意外。
実は配下への報酬として茶道を広めて各地の名物を欲していた信長に目を付けられたのが彼が持っていた楢柴肩衝であったということでした。
かつて戦で地元博多が焼き討ちされて、妻子を喪ったことから武士を恨んでいた彼は楢柴肩衝の要求を飲むべきか抗うべきか大いに迷う。そして彼が決断した時に本能寺は炎に包まれた、という演出が憎いですね。


宮本昌孝「水魚の心」(徳川家康)
武田滅亡後、駿河国を賜ったお礼に上京した十数人ばかりの家康一行。
その道中は安全なはずであったが、偶々明智光秀の謀反に遭遇してしまい、命がけで三河に戻ることに。
その際、同行者には同じ駿河国に所領を持つ穴山信君がいたが、彼らは途中で道を分かつことにするのですが、それが生死の分かれ目であったのでした。
戦国の英雄の若き頃を描くのが非常に巧いと個人的に思っている著者ゆえにこの一編も自然に惹き込まれる内容でありました。
役目を終えた同盟者である家康を信長が始末させるつもりであったという説もありましたが、天下統一が近いとはいえ、さすがにこの時点では無いかなと思います。
ただ、穴山信君が監視役であったことくらいはあり得るかも。
幼き頃からの友情と戦国大名としての冷徹さという二面が見られたのは良かったです。
最後に登場した石田三成が完全に引き立て役だったのがちょっと可哀そうなくらい(笑)


木下昌輝「幽斎の悪采」(細川幽斎)
明智光秀とは共に足利幕府を支えていた同志。
そして、幕府滅亡後も信長に仕えて子同士で婚姻を結んでいたことから、光秀は信長を倒した後も助力を期待していたと一般的に思われていました。
しかし、実際には誘いには乗ることなく、剃髪して喪に服していました(この時、幽斎と名乗った)。
どうしてそのような行動を取ったのか?
幽斎から見た信長と光秀に対する感情がかなり斬新に思えたものです。
その鍵となっているのは実兄である三淵晴英。そして信長の弱点とも言える肉親贔屓。
本能寺の変の裏にあった謀をこのような視点で描き切ったことに脱帽の思いでした。


葉室麟「鷹、翔ける」(斎藤利三)
明智光秀の腹心として有名な斎藤利三を美濃斎藤家の主流を継ぐ立場として描いた一編。
その背景には応仁の乱の時の名将・斎藤妙椿の存在があったという。
光秀に仕えた経緯や美濃を奪取した斎藤道三の後を継いだ信長に対する敵対心。それに長曾我部との繋がり。
まさに斎藤利三なくては本能寺の変はあり得なかったのだと改めて思わされました。
謀反を起こしたのにも関わらず、彼と光秀という主従の繋がりの強さだけは光るものを感じますね。


冲方丁「純白き鬼札」(明智光秀)
あの時、光秀はいかにして謀反を決意したのか?
実は本能寺の変において信長や第三者(秀吉など)の視点で読むことは多くても、光秀視点で読む機会は少なかったですね。
怨恨説以外に朝廷やらバテレンやら家康・秀吉やら、いろいろと謀略説が取りざたされているけど、そういった外部要因は除き、あくまで信長との関わりを中心とした、光秀の内面に切り込んだ内容なのも良かったです。

*1:こっちの名前なら憶えがあった

13期・55冊目 『転生貴族は大志をいだく! 「いいご身分だな、俺にくれよ」』

転生貴族は大志をいだく!  「いいご身分だな、俺にくれよ」

転生貴族は大志をいだく! 「いいご身分だな、俺にくれよ」

内容(「BOOK」データベースより)

高橋修は、妹がやっていたゲーム世界の貴族であるアイザック・ウェルロッドに転生した。侯爵家という高い身分、それに加え、母は子爵家出身とはいえ第一夫人ということで侯爵家の継承権の順位も父に次いで高く、将来安泰かと思われた。しかし、アイザックは長男ではなく次男だった。しかも長男のネイサンは侯爵家出身の第二夫人の子で、周りの多くの人々は、今は継承権の順位がアイザックよりも低くても、いずれはネイサンが侯爵家を継ぐのだと考えていて…。自分の明日のため、今日もアイザックはお菓子作り、簿記といった前世の知識やリーマンスキルをフルに活用して奔走する!第6回ネット小説大賞受賞作。

小説家になろう」で好評連載中の『転生貴族は大志をいだく! 「いいご身分だな、俺にくれよ」』(web版)の書籍化作品となります。
男性向け恋愛シミュレーションゲームとして、いわゆるギャルゲーというジャンルがありますが、その女性版が乙女ゲームといい、一般的には貧乏なヒロイン(実はある貴族の隠し子という設定もあり)が貴族ばかり通う学園に入学して、王子を始めとする多くのイケメンと恋する。場合によっては逆ハーレムを築くルートがあったりするようです。
しかし、ヒロインを嫌う貴族令嬢たちが障害として立ち塞がってくる。
貴族令嬢たちはターゲット男性を落とすライバルになるし、中でも王子の婚約者である身分が高い令嬢が嫌がらせの首謀者というボス的な存在だったりします。
小説家になろう」ではいわゆる悪役令嬢モノがありますね。
ゲームの中で最終的にヒロインに蹴落とされてしまう悪役令嬢に転生して、ストーリーを先読みしたり、時にヒロインの主人公補正と戦ったりして、最悪処刑される暗黒の未来を防ぐべく奮闘するという作品が多かったりします。
悪役令嬢が実は全然悪役じゃなくて、ヒロインの方が自分勝手で傲慢だったりするのがポイント。
悪役令嬢モノは他のジャンルと比べてそんなに多く読んでいる方ではないのですが、いろいろと派生作品があるようです。


そんな中、本作もゲーム世界に転生したのが女性ではなくサラリーマン男性*1で、転生先も侯爵家という高位貴族の次男・アイザックではあるものの、ゲーム的にはモブ扱いというのが特徴であります。
実際に物語としては3歳頃からスタートするのですが、問題は第一夫人である母親が子爵家出身で第二夫人よりも低いため、すんなり後継ぎになれるかわからないという不安な状況なのです。
身分の差が絶対として確立している貴族社会ゆえに過去の経緯で第二夫人に甘んじていながらも侯爵家をバックにしていること。先に男子であるネイサンを生んだことから後継者争いとしては兄ネイサンとその母メリンダ側に後れを取っている状況。
メリンダの根回しのあって周囲も兄の方にすり寄っていくため、同い年で同性の友人が一人もいないというのが不憫すぎます。
その分、乳姉弟であるリサや従姉妹のティファニーといった可愛い女の子がそばにいますが。


中身は成年男性、だけど外見は幼いままなのでできることは限られているが、不審に思われない程度にアイザックは行動し始める。自身が兄によって邪魔者として排除されないために。
途中でヒロイン役であるニコルと出会ってロックオンされてしまうという展開もありますが、やはり悪役令嬢的な存在のパメラに一目惚れしてしまったのが大きいでしょうか。
まずは実家での後継ぎという立場を盤石とするために周囲の好意を集め、兄の評判を貶める行動。
そして将来的にパメラと結ばれても問題ない地位まで登りつめることを決意するまでとなります。


本作の特徴としては、ゲーム世界のつもりで神童の名を欲しいままに行動したアイザックが現実の壁にぶつかりながら成長していく過程を丹念に描いているということでしょう。
中身が大人だからといって決して万能ではなく、失敗が多いことも転生もの主人公らしくないとも言えます。
だけど、そこからの挽回していくのが良いのです。
プロローグで学園卒業のシーンが流れている通り、物語のメインとしてはゲームイベントがある学園(15〜18歳くらい?)編でしょう。
web版ではようやく入学しましたが、そこに至るまでが長いです。波乱万丈で、決して飽きはしなくて面白いのですが。
最初からweb版と書籍版ではストーリーやキャラクターに違いが出ると明記されています。
そういった点では1巻はまだ序章といった感じで途中までは大きな差異は目立たなかったですが、ニコルとの接点(母同士が友人に設定変更)で早まったことや、彼女の性格が若干違うようです。
そういう意味ではweb版読者であっても、書籍版の今後が楽しみですね。
アイザックの今後にニコルやパメラがweb版以上に絡んでくるのではないかという期待があります。
特別編が三話追加されていたのも良かったですね。
第二夫人のメリンダが息子を後継ぎにしようとしている背景に自身の過去が関係していることががわかります。
そしてニコル視点。
アイザック以外に妹が転生しているのではないかと予想されていましたが、それがニコルであることはほぼ決定じゃないでしょうか。
そのことが互いにいつわかるのかも気になりますねぇ。

*1:妹がプレイしていたので内容はある程度知っていた

13期・54冊目 『食い詰め傭兵の幻想奇譚7』

食い詰め傭兵の幻想奇譚 ライトノベル 1-7巻セット

食い詰め傭兵の幻想奇譚 ライトノベル 1-7巻セット

内容(「BOOK」データベースより)

規格外れに食費がかかるグーラが加入したことによってまたしても懐がさみしくなりつつあるロレン。グーラをギルドへ登録をする際のトラブルから知り合った“業火剣乱”という女傭兵絡みの依頼を、またしても金銭的な理由から引き受けざるを得なくなり―。これは、新米冒険者に転職した、凄腕の元傭兵の冒険譚である―。

著者のデビュー作の方は更新が止まったままとなってますが、本作はweb版の連載も再開されて、7巻も無事刊行されてなによりです。
6巻にて色欲の邪神ルクレツィアを中心とした騒動の結果、軍の一部が滅んだという噂が流れて、暴食の邪神グーラがロレンと行動を共にすることになりました。
そしてどうなったかというと、規格外の食欲を発揮したグーラのために食費が増大。*1
またしても金策に走らなければならないくなりました。
相変わらず金に苦労するロレンですね。
まずはグーラを冒険者登録するのですが、その際にトラブルがあって登場したのが“業火剣乱”ことティソーナという女傭兵。
その二つ名の通り、火を自在に扱うギフト持ちで、邪魔をした冒険者をいきなり燃やし尽くしてしまうという危険な女。
とはいえ、彼女も自身の後を考えない暴挙によって莫大な借金を背負っており、ある遺跡の探索を行ってお宝を得ようと考えていました。
しかし、冒険者ギルドで早々にトラブルを起こしたせいで協力者が現れず、仕方なくロレンたちが同行することになったのでした。


本人は否定するも斬風と呼ばれる凄腕の傭兵にして、内部に”死の王”たるシェーナを内包するロレン。
知識の神を信奉する神官だけど、その正体は魔王の娘であるラピス。
権能による不可視の大口がなんでも食ってしまう暴食の邪神グーラ。
この後、長らく組むことになる最強いや最凶のパーティですね。
ただし、その実力を安易に見せることができないのがデメリットでしょうか。
今回のようにティソーナの依頼で同行ので隠すのが面倒だったりしますね。
そういうティソーナも美人*2ではあるが、行動が極端すぎるようで。
巻末のラピスの回想にあるように、どこかの女たらしと同じようにギフト持ちは頭の中身が残念な人物しかいないのか?


ともかく、道中では宿場町での防衛に巻き込まれて、ついでに盗賊団の拠点制圧、要塞と化していた遺跡への侵入へと続き、奥の部屋で今回の騒動を巻き起こした強欲の邪神と遭遇・戦闘するといった流れです。こうやって書籍で読んでみると、巧く構成されていますね。
どれもこれも、普通は四人ではとうてい成しえないのに軽々とこなしてしまうところがすごいというか。かえって敵に同情してしまうくらい。
あと、今回もロレンが紳士で格好良かったです。ラピスの愛情ゲージもぐんと上がった模様。
後の話に関係するのですが、こんなところでロレンの出生の秘密に関係するっぽい出来事もありました。
次巻では以前組んだ白銀級のパーティと再会するようですね。
どうせ、ろくな目に遭わないのですが(笑)

*1:飲食店の食材を食い尽くすほど

*2:今回はサービスカット要員でもあった

13期・53冊目 『為吉 北町奉行所ものがたり』

内容(「BOOK」データベースより)

為吉は幼いころ呉服屋「摂津屋」の跡取り息子だったが、両親を押し込み強盗に殺されていた。その後、北町奉行所付きの中間となっていたが、ある日、両親を殺した盗賊集団・青蜥蝪の首領が捕まったとの知らせが届く。その首領の発したひと言は為吉の心に大きな波紋を広げ…。与力、見習い同心、岡っ引きなど、江戸の治安を守る“狼”達が集う庭の、悲喜交々の人間模様。そして、為吉の人生にも大きな転機が訪れる…。

何事もなければ呉服屋の若旦那として裕福な暮らしが約束されていたはずの為吉。
幼い頃に押し込み強盗に襲われて、押し入れに匿われた自分以外の家族が惨殺されてしまったことにより、運命が急転。
引き取ってくれた叔母は親身になって育ててくれたが、叔父には快く思われず、成長した為吉は北町奉行所の中間(下働き)として働き始めます。
最初の「奉行所付き中間 為吉」では、そういった過程および犯人らしき盗賊集団・青蜥蝪の首領を捕まえて、腰縄を持つ役を為吉が務めることになります。
憎き両親の仇であるはずの首領を目の前にするも、そこにいるのは病に蝕まれたただの老人であり、為吉の胸中は複雑に揺れるのでした。


町奉行所を中心として、そこで働く与力、同心、岡っ引きといった、江戸の町の治安を守る人々を扱った連作集といった内容です。
どれも読んでいるうちにすんなりと江戸の町に馴染んでいってしまいそうなくらい、雰囲気作りが巧みですね。
私はいわゆる時代ものはあまり進んで読まないのですが、宇江佐真理の小説に関してはいつ読んでも惹き込まれるのが確実です。
つくづく惜しい人を亡くしました。
なお、為吉は最初と最後で主人公を務めますが、端役だったり一度も出てこない作品もあったりします。


「下手人 磯松」では、品川宿の飯盛女に生み捨てられて、宿のおかみさんの温情で育てられた磯松がどういった経緯で殺人を犯すまでに至ったか。
温和で鈍いように見えた磯松が「頭を遣えよ」の一言で怒りに我を忘れて殺人へと至ってしまうのですが、単に言葉ではなく、きちんとした理由が考えられているので納得です。
被害者の方がろくでなしだった場合って、その後がどうなったのかが非常に気にかかりますね。


「見習い同心 一之瀬春蔵」
同心見習いとして父の後を継ぐべく出仕した春蔵がついたのは同僚上司であろうと汚職腐敗があれば容赦なく追い込む鬼同心の神谷舎人。
しかし、神谷について仕事を習っている内に別の面が見えてくるという内容。
前評判によって不安にくれる春蔵の心境の変化を始めとして、ドラマチックな人間模様の描写がお見事。


「与力の妻 村井あさ」
奉行の補佐となる与力・村井家の長女あさは婿を迎え、二男二女を設けた今では一家を支える母として落ち着いているように見えます。
ただ、村井家にはかつて嫡男がおり、あさは幼馴染の男に嫁ぐつもりであった過去があって、現在進行形での事件と交差しながら進んでいきます。
妻から見た与力の仕事ぶりや家庭内事情が新鮮。
上司(奉行)の夫人が主催する茶会に招待されて断り切れないあたりは現代に通じるものがあって、何とも言えませんね。


「岡っ引き 田蔵」
与力・同心だけでは広い江戸の治安を守ることはできず、民間の中から手下として協力しているのが岡っ引き。
渡される報酬だけでは暮らしてはいけないので、ほとんどが兼業しているそうで、茶見世を持っている田蔵もその一人。
田蔵の妻・おつるは過去のいきさつにより予知能力に目覚め、”神様”と呼ばれているという変わった内容。



「下っ引き 為吉」
田蔵の娘と相思相愛になったことで、為吉は婿に入り、後継ぎとして働くことに。
まずは各地で起きている盗難事件について、田蔵の指示で情報を集めようとしたのですが、内部協力者でもいるのか、なかなか尻尾が掴めず苦労していると、ある日おつるに呼ばれて意外な人物の名を告げられたのでした。
自分の利益になると勘違いしていたのが、思いのままにならなかった時の負の感情は意外と強いものであるようで。
為吉がようやく幸せになれるかと思ったところで、意外な結末を迎えてちょっと驚きました。
ただ、全てが良い方向にまとまってハッピーエンドを迎えるだけでなく、ほろ苦さがあるところに著者らしさがあって、かえって印象深く残った気がしますね。

13期・52冊目 『感染領域』

内容(「BOOK」データベースより)

九州でトマトが枯死する病気が流行し、帝都大学の植物病理学者・安藤仁は農林水産省に請われ現地調査を開始した。安藤は、発見した謎のウイルスの分析を天才バイオハッカー「モモちゃん」の協力で進めるが、そんな折、トマト製品の製造販売会社の研究所に勤める旧友が変死。彼は熟さず腐りもしない新種のトマト“kagla(カグラ)”を研究していたが…。弩級のバイオサスペンス、登場!

農家で栽培していたトマトが赤く枯れてしまう病気が流行。
主人公である帝都大学の植物病理学者・安藤仁は農水省の担当者(実は元恋人)と共に調査を行って、これが未知の病原体によるものであると判断。
感染を防ぐためにも、やむを得ず焼却処分とします。
持ち帰ったサンプルの分析を天才バイオハッカー「モモちゃん」に分析を依頼する一方で、仕事上で密接な繋がりのある種苗メーカー・クワバに勤める同窓生・倉内との会合の直前に彼が不審死を遂げてしまいます。
警察によると自殺の可能性が高いというのですが、倉内が自殺する理由など考えつかず。
とにかく、倉内が進めていた、熟さず腐りもしないという不思議なトマト“kagla(カグラ)”を研究を助手の久住と共に引き継ぐことになります。
ある日突然、大学の農場が荒らされ、数日後には安藤自身が拉致されてカグラの原木を渡せと脅迫を受けてしまうのでした。
トマトの枯死はクワバの種子が原因と判明。ウイルスに感染したトマトの木が開花して花粉を飛ばすと、他の植物にも拡大することから、日本の農産業は一大危機の瀬戸際に立たされることになります。
偶然のアクシデントよりカグラがウイルスへの耐性を持つことがわかって、急遽対策を進めるのですが・・・。


今まで未知のウイルスによってパンデミックが発生するパニック小説は色々と読んできました。中には昆虫や動物が大量発生というのもありましたが、今回のように植物が特定のウイルスに感染して死滅していくというのは珍しかったです。
直接人間に害はないとはいえ、食料に関わることだけにその恐怖は大きいものです。
牛や鳥がウイルスに感染して全滅したというニュースはたまに聞きますが、実は植物(作物)がかかる病害というのも深刻。いちいちニュースにならないほどありふれているわけです。
内容が内容だけに専門的な用語が頻繁に出てはきますが、完全に理解はできなくても、なんとかついていける程度。
本作では日本の農業を支配しようとする外国企業による陰謀が存在し、サスペンスあり、ハードボイルドあり、ロマンスありと楽しませてくれますね。
それに主人公に協力する「モモちゃん」にしろ、農水省の元恋人にしろ、一癖も二癖もあって、強烈な印象を与えてきます。
上司である教授が捉えどころが無い、なかなかいいキャラクターだったのですが、出番が少なくて残念でしたね。
惜しむらくは、パニックものとしては尻すぼみで、終盤の展開が急ぎすぎたあたりでしょうか。
表面的には主人公が最初から最後まで泥をかぶり続けて*1終わりというのもすっきりしない点でもありました。

*1:中傷メールや名前を騙った犯人もわからずじまいだったし