横山信義 『蒼洋の城塞1 ドゥリットル邀撃』

蒼洋の城塞1 ドゥリットル邀撃 (C★NOVELS)

蒼洋の城塞1 ドゥリットル邀撃 (C★NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

房総沖にて演習中の呂号第四四潜水艦が、空母「ホーネット」率いる米国の艦隊を発見!日本本土の奇襲を狙う「ドゥリットル空襲」の迎撃に成功し、敵艦隊に大打撃を与えた。意気上がる日本軍は、ポート・モレスビー攻略を主眼とするMO作戦の完遂を目指し、空母「瑞鶴」「翔鶴」、戦艦「陸奥」「伊勢」らを中核とする艦隊を派遣。珊瑚海にて、雪辱に燃える米軍と激突する―。鉄壁の護りで米国を迎え撃つ、横山信義の新シリーズ、開幕!

横山信義氏の新シリーズ!
最近では歴史上の事件などを変えて大戦前の世界状況を多少なりとも改変させた状況を作ってきましたが、本シリーズでは史実に沿った状況で始まります。
すなわち、真珠湾攻撃によって開戦後、フィリピンの失陥も免れない状況でアメリカ軍が企てたのは航続距離の長い陸上機B25を空母から発進させるという、ドゥリットル隊による日本本土空襲。
開戦以来押されてばかりのアメリカが国民の士気高揚とを目的とする。いわば戦果よりも政治上の要請からの作戦でありました。
史実では海上に展開していた小型哨戒船(徴発した漁船)が発見したものの、それが活かされることはありませんでした。
もしも、哨戒船以外に演習中の呂号潜水艦の部隊が発見・通報していたら…という想定のもとに始まり、日本軍が本格的な迎撃を行っていくのです。
そこで改変ポイントがもう一点。
零戦を開発した堀越技師が軍の指示によって局地戦闘機雷電)の開発にとまどったこともあって、零戦の後継機開発が遅れに遅れました。
そこで本作では陸軍の二式戦「鍾馗」を海軍も採用。*1
手が空いた堀越技師が一五試艦戦を開発して、試用段階まで漕ぎつけています。
この時代としては上出来の仕上がり(ドイツのFw190A程度)となった試験機が来襲したB25を撃墜するという素晴らしい活躍を見せます。
そこから一気に状況が動きます。
発見時は通報優先で見送った呂号潜水艦の部隊はドイツ仕込みの野伏せり戦術(本家では群狼戦術という)で待ち構えて、帰還途中の空母レキシントンに雷撃成功。
本土から飛来した陸攻によってとどめを刺します。


さて、ドゥリットル隊による奇襲が失敗した上に米軍が貴重な空母を一隻喪失することになっても、その後の歴史の流れは変わらず。MO(米豪遮断のためのポートモレスビー攻略)作戦、MI(ミッドウェー攻略)作戦へと展開していくのです。
ここでも改変点があって、MO攻略部隊に戦艦・陸奥と伊勢が加わったこと。
これが史実では発生しなかった海戦へと導いていきます。
珊瑚海海戦も油槽船を空母と間違えるなど史実ベースとしていながらも、薄暮攻撃を取りやめるなど、少し様相が違っていましたね。
いわゆる珊瑚海海戦の結果については微妙に変化しつつ、日本側が勝利を収め、結果的にMO攻略を続行したために新たな海戦が生起。
そこで史実ではほぼ起こらなかった戦艦対決として、陸奥・伊勢対ノースカロライナという組み合わせが実現したところが大きな見せ場になっています。


1巻を読んだかぎり、史実をほんの少し変えただけで流れが大幅に変わっていくのに違和感を抱かせないのはさすが。
また、戦闘前の緊迫感や迫力ある海戦描写が巧いのも相変わらずであります。
大胆な史実改変じゃないので荒唐無稽な点はなく、スムーズに感じました。
一つ気になる点としては珊瑚海海戦の戦略的敗北の一つに現地で分散された戦力の連携が巧くいっていなかったことがあるのですが、そこはほとんど触れられていなかった気がします。
あとは史実では戦術的勝利を収めた陰で幾つも発生したミスや不安要因が後にミッドウェーの敗北に繋がるわけで、本作も海軍首脳部(特にGFの黒島参謀)の増長ぶりが止まらなくなりそう。
米軍としては有名どころの提督の死が続いたので、人材不足がどう響くかですね。
あと、海戦直後の最後の一手には驚きました。
もっとも、最後の一手でMI作戦延期か中止の可能性もあり、ここから大きく変化していくかもしれません。
山本提督はハワイへの玄関口ともいえるミッドウェー占領が米軍との講和に必要と確信しているようですが、占領した後の維持の困難さが想像つかないのが不思議です。
それをいったらポートモレスビーも同様なんですけどね。

*1:史実では海軍と陸軍の意地の張り合いでどれだけの時間とリソースが無駄遣いされたことか