13期・58冊目 『彼女はもういない』

彼女はもういない

彼女はもういない

内容(「BOOK」データベースより)

母校の高校事務局から届いた一冊の同窓会名簿。資産家の両親を亡くし、莫大な遺産を受け継いだ鳴沢文彦は、すぐさま同学年の比奈岡奏絵の項を開いた。10年前、札幌在住だった彼女の連絡先が、今回は空欄であることを見て取ったその瞬間、彼は連続殺人鬼へと変貌した。誘拐、拉致、凌辱ビデオの撮影そして殺害。冷酷のかぎりを尽くした完全殺人の計画は何のためだったのか―。青春の淡い想いが、取り返しのつかないグロテスクな愛の暴走へと変わるR‐18ミステリ。

徒歩で帰宅途中の女性をスタンガンで気絶させて拉致し、どこかスタジオのような場所に監禁して凌辱の限りを尽くす。
その様子をカメラに収めて編集したDVDを携帯電話に入っていた知人の男に送り、助けて欲しければ1000万円寄越せと要求。
しかし、警察が通報を受けた翌日にはブルーシートに包まれて遺体が発見されたという。
誘拐目的にしては短絡的過ぎるし、自己顕示目的にしては中途半端。
捜査の過程で刑事たちは犯人の目的に首を捻ります。
「この犯人はまた事件を繰り返す」
女性警視(城田理会)が確信した通り、数日後にも同様の事件が起こって女性が犠牲となったのでした。


実は序盤にて鳴沢文彦が犯行を計画している様子が描かれているのです。
家出して消息を絶った上に急死してしまった姉の子がろくでもなくて、借金を抱えて頼ってきたこと。
気晴らしに散歩している早朝の公園で出会った自分そっくりな浮浪者。
女性に対してステレオタイプな妄想を抱いた鳴沢が二人を使い、猟奇的殺人事件を起こし始めたのではないかと思わせます。
鳴沢が妄執に囚われ始めたきっかけというのが送られてきた高校の同窓会名簿。
同級生の奏絵の連絡先が空欄であったことにショックを受けたという意味不明なもの。
彼女とは高校時代に一緒にバンドを組んでいて、密かな想いを抱いていた様子なのですが、かといって行動に移したわけでもない。
むしろ、結婚したことを知っても、仕方ないと思っているふしさえあります。
そうして鳴沢の動機に謎を残したまま、殺人事件は続けざまに発生するのでした。


R18指定されているだけあって、エグイ描写の連続。
ただし、この著者のことだかから、そういった描写を超えて驚かせる展開が待っているんじゃないかと思いながら読み進めていったら・・・。
完全犯罪成ったかというところで、頭を殴られたかのようなショッキングなどんでん返しでした。
とはいえ、いろいろと気にかかった部分は残ります。
その一つは鳴沢にそっくりな”ダブル”を使った意味。
最初は目撃された時の身代わりじゃなかったのかなぁと(まぁ、鳴沢の知らぬところで二重の意味で衝撃の事実があったのですが)。
同窓会名簿の件は、青春時代の思い出が宝となっている中年特有の思い入れが拗れたためだったのではないだろうかと解釈しましたがどうでしょうか。
あとは悲惨な少年時代の描写はあっても、現在の鳴沢の人物像が見えてこないこと。
結局、彼も甥と同じく精神的に大人になり切れていないだけなのではないか。
それらは置いても、いくつかの伏線を回収しつつ、見事な幕切れでした。
何とも救いの無い結末でしたが、読み終えた後に本を閉じてタイトルと表紙を見ると、改めてその意味がわかって、非常に切ない思いがしたものです。