13期・8冊目 『いつか、ふたりは二匹』

内容(「BOOK」データベースより)

眠りに就くと猫の身体に乗り移れるという、不思議な能力を持つ小学六年生のぼく。町で起きた女児襲撃事件の謎に、猫のジェニイの身体を借りて挑むことに。スリル満点、はじめての冒険の結末は―。子どもが大人になるために大切なことを教えてくれる、あったかくて、少し切ないファンタジック・ミステリ。

主人公は母親の再婚により、義父と大学生の姉ができた小学六年生・智己。
しかし、単身赴任した先で義父が入院してしまったために母が付き添いに行ってしまい、姉の久美子とマンションで暮らすことになりました。
両親始め、周囲は姉が面倒を見ているのだと思っていますが、久美子は一切家事ができないために代わりに智己がやることになっていて、かなりしっかり者です。
実は智己には秘密があり、眠りにつくと特定の猫の身体に乗り移って行動ができるというもの。
散歩の途中でセントバーナード犬・ピーターと知り合い、ジェニィと名乗った彼はテレパシーで会話を楽しみます。
実は主人公と同じ学校の女子児童が故意に車で轢かれて大怪我を負うという事件が起きており、その前に同じく小六児童を連れ去ろうとした犯人と同一だという目撃証言がありました。
そのせいで、小中学生の集団登下校が再び始まったばかり。
その中で智己たちにとって憧れの女の子(先日の暴走車事件の時に現場にいた一人)は近所に小中学生がいなくて、男子高校生がわざわざ遠回りして付き添って登校してきたのを見ます。本人のとても嬉しそうな表情とともに。
智己は猫の身体を思いのままに動かせるということを活かして、ジェニィになっている間に事故のあった場所を見に行ったのでした、それがとんでもない事件に巻き込まれていくとはその時点では思いも知らなかったのでした。


少年処女向けのジュブナイルとして書かれたということもあって、あくまでも小学6年生視点(半ば以上は猫のジェニィ)で綴られる平易なミステリといった感じです。
一時的にでも猫の視点になるというのが斬新で、特殊な状況でのミステリを得意としてきた著者らしいですね。
猫のジェニィには相棒となる犬のピーターがいて、彼がいいキャラしているのですが、途中からやけに人間臭い言葉をしゃべるので、ただの犬じゃないことが予想できてしまいます。
少年処女向けでありながら、主人公があからさまな悪意(殺意)を向けられるというのが珍しいかなという気がしました。
子どもらしい正義と好奇心によって突っ込んでいったことで、良い結果と同時に悲しい結果を招くことも。
切ないラストですが、これで大人の階段を一つ昇ったという感じできれいに幕を引きました。
もっとも大人の読み手としては、いろいろと物足りない点があったのは確か。
連れ子同士で結婚して間もなく、両親が熱々なのはいいとしても、最初から智己がやけに大人びていて、家事一切を仕切っているのに大学生の久美子が甘えきっている不自然かなぁと。主人公の家族に対する認識が冷静過ぎますし。極度な悪意に対する恐怖以外に子供っぽさが見られても良かったんじゃないでしょうか。
車で襲われたとされる女の子たちの事情が予測でしか語られないためになんとも中途半端で、その後どうなったのか気になりました。それに犯人の詳細がばっさり端折られているのはもったいないと思いましたね。