12期・37冊目 『呪術師は勇者になれない』

呪術師は勇者になれない (レッドライジングブックス)

呪術師は勇者になれない (レッドライジングブックス)

内容(「BOOK」データベースより)

突如として謎のダンジョンへ散り散りに放り出された白嶺学園二年七組の生徒達は、神が与える加護『天職』の力を手に、脱出を目指す…けれど、僕の天職『呪術師』には、一切戦う力がなかった。チートなし。覚醒なし。どうすんの、コレ、詰んでない?襲い来る凶暴な魔物。極限のサバイバル。そして、限られた脱出枠。愛と友情、善意の協力。嘘と欲望、悪意の敵対。果たして、僕らの選択は―。

いわゆる一クラスまるごと異世界転移モノであり、不気味なダンジョンにほぼバラバラ状態で飛ばされて、一応それぞれに見合った天職クラス(ジョブ)と三つの初期スキルを与えられてスタートします。
そこまではよくある設定でしょうが、主人公のチート・覚醒はまったくありません。もうそれは可哀想なくらいに。
主人公・桃川小太郎はライトなオタク気質で平均的な女の子並みに小柄な体格。古武道の経験も無ければサバイバルの知識も無し。きわめて普通、というより逆境においては生き残りが難しいのではないかと見られるタイプ。
それなのに始めの段階でアクシデントがあって一人きりで放りだされ、呪術師という微妙な天職になったはいいが、弱いスキルばかり。
さらに早速雑魚じゃなくて中ボスくらいの風格のある鎧熊というモンスターとエンカウントしてしまうという運の無さ。
始めからハードモード全開で果たして生き残れるのか、ドキドキハラハラの展開が続きます。
爪で腹を切り裂かれつつも、運に恵まれ大変な苦労の末に鎧熊を倒したと思ったら、DQNクラスメイトに襲われ、『痛み返し』という同じ痛みを攻撃者に返すスキルのおかげで殺されることはなかったけど、この前までの親友にボコボコに殴られる始末。
冒頭だけでここまで不憫な主人公がいたでしょうか。*1


一方でクラス一のイケメン・モテ男かつ剣道の才能もある蒼真悠斗は妹の桜を守るために木刀一本で鎧熊に戦いを挑んで片目を潰すも敗れ、瀕死の中でクラス:勇者として覚醒。あっさりと倒してしまいます。
同じく聖女となった桜と共にチート兄妹はクラスメイトとの合流と脱出を目指すべくダンジョンを進んでいきます。
この蒼真悠斗が典型的な勇者として早々にハーレムパーティを形成するのは脇に置いておき、あくまでもクラス最底辺の弱者である桃川小太郎を主人公にして地に足をつけた地道な探索行を描いているのがいいんですよね。
全能感溢れる蒼真悠斗の清らかな理想と主人公の抱く絶望やコツコツ感との対比も秀逸。
さらにRPGゲームのように最初は弱いレベルの敵からだんだん強くなるというご都合設定ではなく、最初からモンスターとの戦いが一つ判断を間違えただけで命を落とすような、いきなり油断ならないものとなっていることに緊迫感を漂わせます。
不運にもゴーマに襲われて食べられてしまっているクラスメイトを見てしまい、何もできずにこそこそと逃げる主人公というのがまた切ない。


そしてなによりヒロイン・双葉芽衣子ですよ。
主人公の倍くらいの体格を誇る巨漢というのが新鮮(顔は痩せれば可愛いタイプ)。
料理部ゆえに刃物には慣れているし力はあるのに、極端に気弱で最初に出会った委員長と組んでも足手まとい。
結果的に重傷を負って見捨てられた状態で主人公と遭遇し・・・。
主人公が持っていた薬草で助けたのですが、そこで恋が芽生えるというわけでもなく、みじめな思いをしてきた二人が組んでそこからの逆襲がすぐに始まるというわけでもなく。
しかし、紆余曲折の末での双葉芽衣子の覚醒シーンは心震えましたね。
これから主人公とヒロイン*2の前途。それにまだ一巻なので他の登場人物は少ないですが、クラスの他の人物との関わりが楽しみです。

*1:Web版も継続して読んでいるけど、いつ死んでもおかしくないくらいの危機に何度も見舞われる

*2:早くも予兆を見せているヤンデレぶりも