7期・74冊目 『赤い指』

赤い指 (講談社文庫)

赤い指 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。

息子の子育てに母の介護と家庭に問題を抱える主人公・前原昭夫が妻・八重子からの急な知らせで帰宅してみると、庭には知らない女の子の遺体が横たわっていた・・・。
犯人は一人息子の直己。
警察に知らせようとする昭夫を、息子を溺愛する八重子は自分の命に代えてでも必死に止めようとする。
そして人の死さえ他人事のような素振りの直己はただ現実から逃げて殻に籠るだけ。
八方塞りの状況で、昭夫にはある悪魔的な考えが閃くのです。


一方、女児殺人事件の担当になった刑事・松宮は母子ともども世話になっている伯父・加賀隆正の息子である恭一郎とコンビを組むことになります。
変質者の仕業に思えた事件ですが、付近の聞き込みから加賀恭一郎はある平凡そうな一家に着目します。


刑事・加賀恭一郎シリーズではありますが、事件そのものは当初から明らかにされているわけで、むしろ松宮の目から見た隆正の末期における恭一郎との一見不可解な父子の情、それに対比するように前原家のいびつな家族のありかたの方に目がいきますね。
やはり同じ父親の立場であるだけに、家庭の問題に向き合おうとせず、安易な道に逃げてばかりであった昭夫の生き様が見苦しいとしか言いようがなかったです。
最後の最後にやっとまともな心を取り戻したのが救いでしたが、そのために失った代償はあまりに大きかったのでした。
ただ、いみじくも加賀が言った言葉が印象に残りましたね。

「平凡な家庭など、この世にひとつもない。外からだと平穏な一家に見えても、みんないろいろと抱えているもんだ」

家出してしまった母親の件が後引いて非情に思えた加賀父子においても、実は本人たちだけの繋がりがあったように、親と子それぞれの本音というのは第三者にはわかりづらいものであるのは確かだと思います。
本格推理というよりは、現代の家族のあり方を鋭く突いた社会的な作品として印象が残る内容でした。