6期・76冊目 『リピート』

リピート (文春文庫)

リピート (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
「リピート」―それは、現在の記憶を保ったまま過去の自分に戻って人生をやり直す時間旅行のこと。様々な思惑を胸にこの「リピート」に臨んだ十人の男女が、なぜか次々と不可解な死を迎えて…。独自の捜査に着手した彼らの前に立ちはだかる殺人鬼の正体とは?あらゆるジャンルの面白さを詰めこんだ超絶エンタテインメントここに登場。

ごく普通の大学4年生である主人公・毛利敬介はある日突然風間という男からタイムスリップしてみないかという誘われます。
風間によると、ある決まった日時・場所に黒いオーロラが出現して、そこにヘリコプターで飛びこむとリピートできるという。
リピートできるのは約10カ月。持っていけるのは記憶のみで、今の意識を持ったまま過去の自分自身に戻るだけという。*1それを過ぎると時の流れとしては確定されて二度とリピートできない。
風間はもう何度もリピートを繰り返していて、その恩恵をランダムに選んだ仲間に分けよう*2という特殊な設定になっています。


人生をやり直すには短すぎる期間ですが、それでもギャンブルで儲けたり、学業仕事や人間関係の失敗を事前に回避できるわけで、それを利用して主人公はリピート前より順風満帆の期間を過ごすかに見えます。何より、覚えていないようで意外と記憶に残っているので、過去の自分に戻ってもさほど不自然ではないのがメリットですよね。
ただ、リピートできることが世間にばれたらどんな目に遭うかわからないので、このことは秘密にしてリピート前と同様の生活を過ごさなければならないのが厄介ですが、一人暮らしの大学生で同じリピーター仲間の篠崎鮎美と付き合うことになった毛利敬介には特に問題もなさそうでした。


ただ、いかに同じような生活をしているつもりでも、どこかズレが出てしまうのも事実。バタフライ効果が引き合いに出されていますが、むしろ主人公が麻雀をしている時につい振り込んでしまうのを防ぐために前と違う牌を切ったことでその後の流れが全て変わってしまったというのが象徴しています。
それでも主人公はリピート前に酷い振られ方をされた当時の彼女を自分から振って、篠崎鮎美と付き合うことにしたのですが、それが後々リピート後の人生を大幅に変えていくことになっていくんですね。
不可解なことにリピート後の短い期間に仲間たちが次々と死んでいくという状況。
一見、無関係な死亡事件だが、主人公たちは情報が漏れてリピーターが狙われているのではないかと推測し、生き残っている仲間の天童らと犯人を探っていくのですが・・・。


リピート仲間間での会話が中心となっているだけに、リピート後のやり直しに関する細かい記述はもとより、それが世間にばれないための気配りなど結構リアルな描写となっていますね。
そして明かされるリピーター達の死の真実。*3
なるほどそう来たか、と思わされます。
ただ途中までぐいぐいと引っ張られる展開だったのに対し、終盤はグダグダになってしまった感がしますね。
主人公はじめ利己的な人物ばかりなために感情移入できず、ラストも何の感慨も湧かなかったです。まぁリピーター仕掛け人の風間を別にすれば、物語を左右するという意味で天童が最後まで気になる存在でした。
前作『イニシエーション・ラブ』と比較したり帯のあおり文句を鵜呑みにすることが無ければ、SF・ミステリ・恋愛といった要素が混ざっていて、それなりに楽しめるとは思います。それぞれに本格さを求めてはがっかりさせられるかもですけど。

*1:期間は違うがケン・グリムウッド『リプレイ』が引き合いとして出されている

*2:ただし一度きり

*3:ネタばれすれば、風間ら常連リピーターが退屈しのぎで考え出したゲーム。1月〜10月の間に死ぬ運命だった人々を救い、その中で連絡の通じた人をリピーターとして誘い、どうなるのか見て楽しんでいた。主人公のようにリピート後に自分で死ぬ運命を変えていたのは少数