4期・65冊目 『犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』

内容(「BOOK」データベースより)
オックスフォード大学史学部の学生ネッド・ヘンリーは、第二次大戦中のロンドン大空襲で焼失したコヴェントリー大聖堂の再建計画の資料集めの毎日を送っていた。だが、計画の責任者レイディ・シュラプネルの命令で、20世紀と21世紀を時間旅行で行ったり来たりさせられたネッドは、疲労困憊、ついには過労で倒れてしまった。シュラプネルから、大聖堂にあったはずの「主教の鳥株」という花瓶をぜひとも探し出せと言われていたのだ。二週間の絶対安静を言い渡されたものの、シュラプネルのいる現代にいては、ゆっくり休めるはずもない。史学部のダンワージー教授は、ネッドをのんびりできるにちがいない、19世紀のヴィクトリア朝へ派遣する。ところが、時間旅行ぼけでぼんやりしていたせいで、まさか自分が時空連続体の存亡を賭けた重要な任務をさずかっているとは夢にも思っていなかった…。(以下略)

私にとって『航路』、『ドゥームズデイブック』に続くコニー・ウィリス3作目でありますが、シリアス調だった前2作と違って本作はいたってドタバタ・コメディタッチでした。なんせ前2作は思い切り「死」が関係していましからねぇ。それに比べたら今回は死亡する人物は一人どころか犬や猫を勘定に入れても存在しない。
そしてミステリ・歴史・SF・恋愛要素も含めた贅沢な内容。ついでに言えば、古典作品からの引用も豊富にあったため、英文学の知識もあれば倍くらい面白さを感じたのでしょうけど。


歴史に介入することは事実上不可能だとされている過去への時間旅行(作品内では「ネットを介した降下」と表現されている)はいたって学術上の理由でのみ利用されている未来世界。*1
なのに、リハビリを兼ねた降下の準備中にぼんやりしていたばかりに使命を忘れて降りた矢先、将来的に結婚に至るはずのカップルの出会いを妨げてしまった主人公のヘンリー・ネッド。
虐待と勘違いして川に落とされた猫を助けて自分の時代に連れてきてしまったヒロインのヴェリティ。
そんな2人の行為が、元々の任務であるコヴェントリー大聖堂の花瓶(通称「司教の鳥株」)の行方について鍵を握る日記を書いていた貴族令嬢トシー・ミアリングの人生まで影響を与えてしまったらしい。そして彼女の子孫がその後の英国の歴史に大いに関係しそうだと判明してさあ大変。
自分たちが降下したことによって巻き起こしてしまった歴史のズレを正すべく2人の奮闘・迷走ぶりが始まる頃には本作の魅力にすっかりはまってしまっているというわけなんです。


言ってみれば、イギリス版「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のような感じ。
舞台は古き良きビクトリア朝時代の大英帝国。のどかな川くだり旅行、そして英国貴族の暮らしぶりがたっぷりと描かれる中、一癖二癖もある魅力的な人物&動物たちが巻き起こす騒動に右往左往し、なかなか任務に集中できない2人にはちょっと同情します。以前からその時代に降下していて貴族令嬢ぶりが板についているヴェリティに対して、事前講習が不足しているため貴族のマナーを知らないヘンリーは野蛮なアメリカ育ちということで誤魔化すところが面白い。
そして、くっつきそうでなかなかくっつかないネッドとヴェリティの仲も最後まで気にかかるところですね。


それで結局、任務に失敗しかけた二人が元の時代に戻ろうとしたら、ネットがうまく開かなかったり、全然違う時代に飛ばされてしまうといったトラブルに見舞われ、このまま歴史が変わってしまうのかと思わせるやや緊迫した展開。
でもそこは「司教の鳥株」の行方も含めて数々の謎の種明かし*2が待っているわけで、2人が、そして歴史がどうなったのかは最後のお楽しみ。

*1:ドゥームズデイブック』と姉妹編に当たる設定

*2:意外な人物の言葉や行動にヒントがあったりするのがミステリっぽい