3期・65冊目 『戦艦「大和」最後の光芒 上』

戦艦「大和」最後の光芒〈上〉南西諸島強襲戦 (歴史群像新書)

戦艦「大和」最後の光芒〈上〉南西諸島強襲戦 (歴史群像新書)

昭和20年4月、敗色濃厚な戦況の中で、日本海軍第二艦隊司令部は迷っていた。戦艦「大和」をはじめとする連合艦隊の残存戦力を、いかなる運命に委ねるべきか――――海上特攻か、沖縄進攻か?
そして、往きて還らぬ「大和」は出航し、重雷装艦「大井」「北上」随伴の総勢12隻は、第一警戒航行序列、速力22ノットで猛将スプルーアンス率いる沖縄攻略部隊の空襲圏に突入した。*1

架空戦記沖縄戦を始めとする戦争末期を書いたものって珍しいんじゃないでしょうか。*2というのも、史実を踏まえる以上、特攻隊や空襲・原爆投下といった重いテーマに知らん顔せずにはいられないので、威勢のいい話が好まれる架空戦記ではわざわざ取り上げないというか、そこに至るまでに何らかの改変をしようとするのが普通でしょうね。


表紙の著者の言葉によると、もともとデビュー作『鋼鉄のレヴァイアサン』の後に出す予定であったのが、『八八艦隊物語』の執筆を始めてしまったためにお蔵入りになってしまったのを構想と展開を新たにして復活させることになったそうです。
特に他作品の世界とリンクしているわけでなく、戦艦大和が菊水作戦の一環として出撃に至るまでは、史実に沿った内容です。ただ、大和特攻時に第5航空艦隊(九州・鹿屋)の司令長官職にあった宇垣纏にスポットが当てられていて、影の主役っぽい扱いですね。この人は開戦時から終戦まで良くも悪くもエピソードに欠かさないだけに、横山信義作品では意外と出番が多いです。評価が極端な山口多聞/栗田健男らと違って、使いやすいのでしょうねぇ。肝心の砲戦ではポカが目立ち、いつも思い通りにいかない印象ですが。


上巻は、戦艦大和が舞台に立つまでのお膳立てがメイン。次回でその奮戦と最後の姿が描かれそう。作品中では、史実とはちょっと違う第5航空艦隊による航空戦が多くを占めていますが、やはり特攻機を始めとする悲劇的な航空戦を抜きにはできないわけで。
例えば野中少佐*3率いる神雷部隊の絶望的な戦いが何とも言えないですねぇ。史実と違って戦果を与えたのは、今まで何度も著作の作品に登場したことがあるこの人への温情か。
それと知将の誉れ高いスプルーアンス大将がストーリーの都合上とは言え、ちょっと感傷的過ぎる気がしましたね。*4


考えてみたら、あの架空戦記ブームの頃に出していたら、内容が地味すぎて売れなかったかもしれません。*5むしろこの分野での第一人者としての定評がある今だからこそ読まれる機会が多い気がします。*6


【追記】下巻のレビューはこちら

*1:帯の紹介より2/3ほど書いてみたけど、なんか文章に変な箇所ありますね。

*2:思いつくのは佐藤大輔征途』と檜山良昭のいくつか。近年のは知らない

*3:出撃前にポツリと「湊川だよ」と同僚に言ったそうな。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%8A%E5%B7%9D%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84#.E5.BE.8C.E4.B8.96.E3.81.B8.E3.81.AE.E5.BD.B1.E9.9F.BF

*4:まぁ他の将官に突っ込ませているけど

*5:『ビックY』という戦艦大和が主役の地味な架空史ものがあったけど、結構好きだった

*6:もしかしたら『男たちの大和』公開および2度のTV放映によって始まった静かなる戦艦大和ブームがきっかけ・・・ってことはないか。