50〜52冊目 『蝦夷地別件(上・中・下)』

蝦夷地別件〈上〉 (新潮文庫) 蝦夷地別件〈中〉 (新潮文庫) 蝦夷地別件〈下〉 (新潮文庫)
作者: 船戸与一
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 1998/06
メディア: 文庫

久しぶりの読書レビューとなります。それくらい本作を読み終えるのに時間がかかりました。
上巻を読み始めた頃に比べれば、下巻あたりでは先が気になって読むペースが速まりましたが、それでもトータルで10日間はかかったでしょうか。
アイヌ・日本・ポーランドそれぞれの将来に命をかけた男達の生涯を、世界的なスケールで描いた迫力に圧倒された10日間ではありました。


この長編の内容について、こまごまと挙げるのはあまり好ましいことではないと思うので、やめておきます。
ただ、蝦夷地をめぐる幕府・松前藩アイヌのそれぞれの思惑・駆け引き・争いの人間模様が実に細かく書かれていて、目に浮かぶようです。*1


一点意外だったのは実際には登場しない松平定信像ですね。
白河藩主としては名君だったけれども、老中としては経済・国際情勢を解しない頑迷な保守主義者・権威主義者だと思っていました。
ここでは内政・外交ともに幕府の将来を見据えた複雑な策士としての人物像が伺えます。本人の描写がないので、どうにも推測が難しいですが。


最後には今回の蝦夷地を巡る人物はほぼ揃って死に絶えて、残ったのは傍観者に徹した者か、何かを成そうとして成せなかった者ばかり。
そして時代に押し流されていくアイヌの運命。
結末には、救いの無さと虚しさが残った物語でもありました。

*1:もっとも私は函館より北には行ったことが無いので、その想像力はお寒いものですが