まいん 『食い詰め傭兵の幻想奇譚9』

食い詰め傭兵の幻想奇譚9 (HJ NOVELS)

食い詰め傭兵の幻想奇譚9 (HJ NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

無事(?)ラピスの実家へとたどり着いたロレンたち。挨拶もそこそこに、魔王からの依頼を受けることになる。依頼とは、火口へある物を投げ込んで破壊するというもの。その投げ込む物には、ロレンと以前因縁が出来たある男が関わっており…。これは、新米冒険者に転職した、凄腕の元傭兵の冒険譚である―。

ラピスの母との対面後、謎の騎士と対戦させられたロレン。
その中に入っていたのがラピスの父であったのですが、動きようのないほどに重い全身鎧であり、一計を案じたロレンにより無様に倒されてしまいます。
いったい何がしたかったのかよくわかりません。
どうやら最近魔族領ではある武具が奪われているようで、兜もその一つ。
犯人は魔族領に入った時に襲撃を受けた男のようで。
もっとも重要な物ではなく、倉庫の奥に転がしたまま忘れていた程度なのですが、武具一式を揃えて装備してしまうと面倒なことになるという。
そこで、ロレンたちは最後の一つである兜をある山の火口に放り込んで処分してもらいたいという依頼を受けます。
食料などの物資だけでなく高性能な馬車まで貸し与えれれたのは助かるのですが、問題は処分しにいくのが険しくて岩が剥き出しの高山であること。
さらに山の頂上付近にはエンシェントドラゴンが住み着いているという。
決してドラゴンに刺激を与えないように注意していたロレンたち(ラピスとグーラ)ですが、そんな時に限って邪魔が入るのはお約束。
ロレンたちを襲い、騒ぎを起こしたのは例の男の配下であるダークエルフなのでした。


魔族領にいてもロレンの巻き込まれ体質は相変わらずです。
しかも、その対象が半端ないです。
ドラゴンの中でも最上位のエンシェントドラゴン、それに魔王でさえ扱いに困る謎の剣士なのですから。
本編ではこれから長い付き合いになる剣士はその傲慢ぶりもあって、たいそう憎たらしい印象を受けますね。
しかし、兜以外の武具を揃えたことにより、本気のロレンの打ち込みでさえ片手で弾くほどの化け物っぷりを見せつけます。
まぁ、自衛とはいえ、相手を吐しゃ物まみれにしたり、大事な兜をおしゃかにしちゃうなど、ロレンたちもやらかしていますけどね。
相手が伝説級のエンシェントドラゴンであっても、化け物並みの強さを誇る剣士であっても、ロレンは自分のペースを崩さないし、機転の利くところが格好いい。
それに今回はドラゴンの幼生にも懐かれていたし、人外に好かれる体質も進化していそう。
その一方でラピスやグーラのヒドインぶりも板についてきたなぁとしみじみ思いますよ(笑)

有川浩 『ストーリー・セラー』

内容(「BOOK」データベースより)

小説家と、彼女を支える夫を襲ったあまりにも過酷な運命。極限の決断を求められた彼女は、今まで最高の読者でいてくれた夫のために、物語を紡ぎ続けた―。極上のラブ・ストーリー。「Story Seller」に発表された「Side:A」に、単行本のために書き下ろされた「Side:B」を加えた完全版。

大学の文芸部時代に代表を務める先輩に酷評されて以来、小説家になることは諦めたが、書くこと自体は諦められず、こっそり書き溜めていた小説がひょんなことで会社の同僚に見られてしまい・・・。
小説を読むことは大好きだけど書く才能にはまったく恵まれなかった男性と、書くことが諦めきれなかった女性との出会い。
男は女の小説に魅せられて、一番の読者になれたことを喜ぶだけでなく、その小説を世間に発表することを勧めます。
最初は二の足を踏んだ女ですが、試しに応募してみたところで見事大賞を受賞して、とんとん拍子に売れっ子作家への道を進むことになるのです。
書く才能に恵まれた彼女ですが、家事はあまり得意ではなく。
さらに執筆の関係で夜型生活の方が向いているために会社勤めの夫とは生活時間もずれてしまいます。
そこは妻の仕事第一に考える夫の配慮によって、いといろと甘えさせてもらいながら幸せな結婚生活を送っていました。
しかし、万事が順調とはいかず、売れっ子作家になったことへの嫌がらせがあったり、女の家族にも問題があって・・・。
精神的に追い詰められた彼女の脳は今まで例を見ない奇病に冒されていることがわかったのでした。


「Side:A」がアンソロジーのために書かれた作品で、単行本化に伴って対にするために書き下ろされたのが「Side:B」となります。
作家の妻と小説読みの夫という組み合わせは同じですが、Side:Aで奇病に罹って死に至るのが妻に対し、逆に夫が死病に罹るのがSide:Bとなりますね。
自分が大好きな本を書いた当の本人と恋に落ちて結婚する。
作家の妻としては夫が一番のファンであるだけでなく、生活的にも支えてくれる。
ある意味、読者と作家の理想的な関係といえるでしょうか。
amazonレビューによると、著者本人がモデルになっているらしいというのが頷けるくらい、二人が恋愛関係から結婚までにいたる過程が細やかな上に心情描写も巧くて、たちまち惹き込まれてしまいました。
そこまで心通わせられた夫妻ゆえにパートナーの逃れらない死に対して足掻くさまにも目が離せなくなるのです。
同じ本好きとしては男性の方に感情移入させられてしまうがために、最愛の人を喪うという運命が余計に辛く感じてしまいました。
そういう意味ではSide:Aが満点と言っていいほどに良かったため、Side:Bの方がやや見劣りしてしまった気がします。
Side:Bの方は初めにネタばらし的な会話が入っていたせいで現実感が乏しかったり、夫が完璧すぎるのも少し冷めてしまったのも要因かも。

横山信義 『不屈の海6』

不屈の海6-復活の「大和」 (C・NOVELS)

不屈の海6-復活の「大和」 (C・NOVELS)

内容紹介

日本軍はニューギニアの放棄と引き替えに、米国との海戦に勝利。友軍の救出に成功した。米国は占領したニューギニアを前線基地とし、戦力を結集。フィリピン陥落を目標に定め、日本の息の根を止めんとする。
一方、グアムにも帝国海軍の最強戦力が揃う。その先頭には、奇跡の復活を遂げた戦艦「大和」の姿があった。皇国の存亡を懸けた最終決戦の時。「大和」は自らの借りを返すことができるのか。そして日本軍の仕掛ける、乾坤一擲の秘策とは――?
シリーズ堂々完結!

日本軍の退却後、米軍は西部ニューギニアに大軍を集結させて、フィリピン奪回を目指していました。
ルーズベルト大統領による史上初の四選を賭けた選挙を前にして国民の目にもわかりやすい戦果をあげること。
さらに自国の資源に乏しい日本にとってのウィークポイントを狙った作戦。。
いくら南方資源帯から資源を送ろうにも、途中のフィリピンを押さえられているかぎりは戦力を活かすことができずに立ち枯れていくことが予想されるのです。
唯一不安点があるとしたら、さしもの米軍もこれまでの戦いで将兵の消耗が激しかったため、国力に物を言わせて航空機や艦船を大量に作っても戦力化が追い付かないこと。
主力たる空母の慣熟訓練が間に合わなくて、予定よりも2隻少なかったことです。
それでもエセックス級とインディペンデンスがそれぞれ6隻ずつという巨大艦隊は航空機数で日本と同等か上回ってさえいました。
日本としてはここで負ければそのままずるずると敗戦への道まっしぐら。
勝つのは当然としても、これ以上戦力差が開く前に講和への糸口を得るのが首脳の考えです。
そこで日本軍としては、あえて正面から当たるのでも守りを固めるのでもなく、一計を案じて搦め手から攻めることになったのでした。


実は最終巻と書いてあってびっくりでしたが、濃い密度と迫力ある海戦シーンに溢れた巻であったと言えます。
本シリーズは初っぱなでまさかの戦艦大和が公試運中に奇襲を受けて大破。
戦争中はずっと改修で過ごし、最後になって晴れ舞台をもってきたというのが特徴であり、大和で始まり大和で終わったなという印象でした。
今回は特に史実の日本軍ならば絶対やらないだろうという戦術が多かったのですが、それを言っていたら仮想戦記にはならないので素直に楽しむにかぎります。
ともかく、あえて米軍の補給線を狙った後方への攻撃から始まる一連の作戦はほぼうまくいきかけたところで、ラバウル上陸船団に迫る危機。
旧式戦艦の意地とか艦隊決戦での大和活躍とか見せ場が続きました。
著者の今までのシリーズの中で出番の多い戦艦大和。攻撃防御のスペック的には最強といえども実際の戦いの中では沈没寸前にまで追い込まれたこともありました。
今回は最強戦艦にふさわしい無双ぶりを見せたんじゃなかなって思いますね。
それだけに最後は淋しいながらも納得するしかないのかなって気がします。
残念というか日米休戦前後の様子(特にアメリカ側)がほとんどなくて、孤立無援となったドイツの落日も駆け足であったということでしょうか。
好意的中立で武器生産を担っていたイタリアのムッソリーニが急逝*1したのもドイツにとって不運でした。
ずっとタイミングを窺っていたソ連軍が満を持して攻勢をかけたこともあって、ドイツだけが史実通りに容赦ない亡国の道を進んだということで哀れとしかいいようがありませんでした。
アメリカ、というより傲慢なルーズベルト大統領に対する”ざまぁ”展開があれば少しは溜飲が下げられたのかもしれません。

*1:暗殺の疑いもあった

映画『跳んで埼玉』

ゴールデンウイークとはいえども、なかなか予定が合わない我が家なのですが、4/28だけは私と妻が空いているということもあって、珍しく映画に行くことを考えました。
そうは言っても趣味がまるで別方向なので、どれを選ぶかが難しかったのですが、市内の映画館で上映中一覧の中から「これだ!」と選んだのが『翔んで埼玉』


映画『翔んで埼玉』公式サイト


私も妻も埼玉生まれ。一時期的に別の都県に住んだことはありますが、結婚後も含めてもっとも埼玉県民歴が長いです。
しかも原作が『パタリロ!*1魔夜峰央ということで、そのギャグには期待できそうと思って観に行きました。

解説
人気コミック「パタリロ!」の作者である魔夜峰央の人気漫画を実写映画化。埼玉県民が東京都民から虐げられている架空の世界を舞台に、東京都知事の息子と埼玉出身の転校生の県境を超えたラブストーリーが展開する。『ヒミズ『私の男』などの二階堂ふみと『カーラヌカン』で主要人物を演じたミュージシャンのGACKTが主演を務める。『テルマエ・ロマエ』シリーズなどの武内英樹がメガホンを取った。


あらすじ
東京都民から冷遇され続けてきた埼玉県民は、身を潜めるように暮らしていた。東京都知事の息子で東京屈指の名門校・白鵬堂学院の生徒会長を務める壇ノ浦百美(二階堂ふみ)は、容姿端麗なアメリカ帰りの転校生・麻実麗(GACKT)と出会い、惹(ひ)かれ合う。しかし、麗が埼玉出身であることが発覚し......。
シネマトゥデイ


かつての武蔵国から東京都・神奈川県(一部)という美味しいところを取られて残った搾りかす…。
さすが埼玉県ディスり映画として知られているだけあって、冒頭の説明から飛ばしてましたよ。
埼玉県熊谷市に住む親子三人*2)が娘の結納のために出かけるところから始まります。
延々と畑と田んぼばかり続く一本道を走る車内ではカーラジオからNACK5が流れて、かつて埼玉県民が酷い差別を受けていた時代に埼玉解放を求めて戦った男の伝説が紹介されて、場面が移り変わります。
いわば、現実パートと伝説パートに分けて進行するのです。
これは原作の方が3話で未完という短い内容を補うのと、現実パートでネタを紹介する寸劇を出すためでしょうね。
wikipedia:翔んで埼玉


伝説パートではいかにも少女漫画らしく、まるでフランスあたりの王宮を思わせる白鵬堂学院の外観(白馬が走ってる!)や豪奢な内装。
しかし、同じ東京都民でも住んでいる区や市によって明らかに待遇が分かれているようで。
それでも埼玉と比べるとマシな方。
埼玉県出身で東京都に住む生徒はZクラスという、掘っ建て小屋に寺子屋を思わせる様子。
おまけに女子生徒はモンペを履いているし…。
他県から東京都に入るには通行手形が必要という設定なのですが、どうも東京都および神奈川県とそれ以外の県では100年くらいの断絶があります。
それでも同じ日本かよ!と思えるくらいここまで極端すぎるともう笑うしかないですな。
埼玉臭とか、「口が埼玉になる」とか、埼玉県民を検知(丸さ印が浮かぶ)して取り締まる変な隊員たちとかぶっ飛んだ場面の連続。
極めつけは生徒会長による「埼玉県民にはそのへんの草でも食わせておけ!」との名(迷)言ですよ。
ひたすら冷遇される埼玉県民。田舎者だと評されているのは他の県も同じなのですが、千葉県だけは都知事に阿っているのです。
密かに通行手形の撤廃を狙っているのですが、そうは簡単にいくわけがなく。
東京都知事は神奈川県知事だけと結び、影で埼玉と千葉の対立を煽っているのです。
まぁ確かに両県はライバル視している部分はあるでしょう。
千葉県の大きなアドバンテージとして海があること。
そこで埼玉県では密かに茨城県の沿岸まで地下トンネルを掘っていたのを千葉県民が妨害していたとか(笑)
埼玉県勢と千葉県勢が激突する流れとなって、緒戦に有名人出身地対決となったのも笑えましたね。
私は気づきませんでしたが、埼玉県勢にはふっかちゃん(埼玉県深谷市ゆるキャラ)が出ていたみたいだし、千葉県勢からはふなっしーの声も聞こえました。
現実パートの夫婦も夫が根っからの埼玉県民、妻が千葉県出身ということで、県のネタ(チバラギとか)で言い合いが始まるのも面白かったです。


こう書くといかにもギャグの連続のように見えるのですが、ぶっとんだ設定の割には映画の中で演じる俳優たちはいたって真面目に演じているのが良かったですね。
SF映画と時代劇が混在しているかのような派手な演出は映画ならではということで許せるでしょうか。
ただ、作中でBL(ボーイズラブ)があるとは知らなくて、そこだけはちょっとした衝撃でした。
そういえば『パタリロ!』のコミックでもそういうシーンがあったから、魔夜峰央原作ということでしょうがないかと思いました。
そうであっても個人的にはやっぱり苦手ですが…。事前知識がなくいきなり見てしまった人はびっくりしたんじゃないかなぁ。
主役たる麻実麗と壇ノ浦百美のキスシーンに関しては、百美を演じているのが女性ということで違和感なくて、「作中でも男装していて本当は女子なのでは?」と思ったのですが、本当に男子役だったようで。


確かに埼玉県ディスり映画ではあっても、作中では埼玉を始めとする県ネタが多数散りばめられていて、そういう意味では埼玉県民だからこそ楽しめる映画でもありました。
そもそも埼玉県民は自県の中途半端さや特徴の無さからくる自虐ネタさえ楽しんでしまいますから。
やはりというか、上映としては埼玉県で人気なのも頷けます。*3
あまり肩が凝らずに気楽に楽しめたとも言えましょう。
市内では5/2まで上映ということですが、せっかくのGWなのでもっと延長してもいいくらいじゃないですかね。

*1:子供の頃だけど、アニメを見ていたし単行本も数冊読んだ

*2:父の着ているTシャツは”あついぞ!熊谷”の文字が

*3:日曜午前ということもあって、実際に席も混んでいた

岩井二四三 『絢爛たる奔流』

絢爛たる奔流

絢爛たる奔流

内容紹介

戦国から江戸へ時代が移り変わる慶長年間、京都に「水運の父」と呼ばれた男がいた。豪商・角倉了以は金融業や海外貿易で得た莫大な資金を投じ、京の都をさらなる繁栄に導くため、大堰川高瀬川を開削する大プロジェクトに挑み、江戸幕府の命により、さらに大規模な富士川天竜川にも手を広げる。偉大な了以を支えながらも、自らは書や文芸に親しむ生活に魅力を感じる息子・与一。角倉親子の挑戦の年月を描く、長編歴史時代小説。

角倉了以と人物の名は確か歴史の教科書でも見た憶えがあって、戦国末期~江戸時代初期の商人としては、かの茶屋四郎次郎と同じくらい知名度があるんじゃないかと思います。
しかし、実際にどんなことをした人物かというとはっきりとは憶えてなかったもの。
彼は本業である土倉*1で財を成して、茶屋・後藤と並んで京の三大長者と呼ばれるまでに成功していましたが、ある野望がありました。
それは陸路で馬や人が運ぶしかない京への水運を拓くこと。
その候補として目を付けたのが丹波から流れ込んでいる大堰川*2です。
もともと筏で川下りはされていましたが、実際に下ってみると危険な大岩や瀬が多くあるので、舟でも通れるように整備し、かつ舟を上らせるための綱道も整備しなければならない。
もちろん、舟が使えるようになれば京に流れ込む人・物資が増加するので、その賃料として儲けは見込まれます。
50歳にして天命を知った了以の主導により、角倉の総力をあげた大堰川の水運事業が始まったのでした。


舟を運航する際に障害となって立ちはだかる大岩を取り除いたり、岩壁に綱道を通す難作業。
舟による水運業が始まると仕事を奪われてしまうと店の前で暴れて抗議しようとする馬借の集団。
その他に迫る期限や見積を超えて膨らんでいく工費など、難題がいくつものしかかります。
どちらかというと、陣頭指揮を執る了以よりも、幕府との交渉や店を任された長男の与一の方が裏方で苦労して様子が伺えますね。
大堰川の工事が無事終わったと思えたところで、今度は幕府より甲斐と駿河を結ぶ富士川、続けざまに天竜川に対して同様の工事を行うように命令が下ります。
いずれも距離が長くて難工事が予想されるだけでなく、人口も少ないので儲けが出る前に破産する恐れがあるも、お上からの命とあれば断れるわけもなく・・・。


物を運ぶのは人と馬のみであったこの時代、川を使った水運というのはかなり利便性があるものですが、その工事も人手に頼らざるを得ないわけで、河川の工事もかなり大変で危険であったことが文中から伝わってきます。
いわば近世版プロジェクトXといった内容ですね。
どんな障害が立ち塞がろうが、寿命が尽きるまで天命を果たそうと邁進する了以。
父の暴走が巻き起こす面倒ごとや店の差配だけでなく、難病にかかった娘のことなど苦悩が絶えない与一。
それに加えて現場で工事を指揮する手代たちも様々な苦労に振り回される様子が伝わってきます。
最後の高瀬川(実質、運河)まで、複数の立場でいかに水運業を進めていったかがダイナミックに描かれていて、実に読み応えありました。
政治や戦ばかりでなく、スケールの大きい事業に挑戦した人々の物語というのは時代を超えて心を揺るがすものがあります。
当然、その裏には並々ならぬ苦労もあるわけで、もう一人の主人公である与一の辛苦も非常に印象に残りましたね。

*1:いわゆる金貸し、金融業

*2:現在の表記は桂川

西澤保彦 『からくりがたり』

からくりがたり (幻冬舎文庫)

からくりがたり (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

女教師との爛れたセックス、妹の同級生との情熱的な交歓…。高校三年の冬、自死した青年が遺していた、みだらな空想を綴った奇怪な日記。日記にまつわる人間が、つぎつぎと酸鼻な事件に巻き込まれていく。毎年、大晦日から元旦への一夜に起こる殺人、被害者はすべて女性―。事件の現場に必ず姿を現す謎の男“計測機”とはいったい何者なのか。

浅生倫美には18歳の若さで自殺した兄・唯人がいて、ある日兄の遺した日記を見つけてしまいます。興味本位で読みだした倫美はその内容のあまりの過激さに驚きます。
曰く、禁断の関係を結んだ女教師・梶尾順子を性奴隷のように扱う一方で、倫美の友人・下瀬沙理奈とも交際をしていた。さらにカフェの店員・佐光とも親しい関係になっていて・・・。
しかし、妹視点から見て兄には男性としての魅力はまったくなく、沙理奈と交際していた形跡など皆無。
いかにもリアリティに溢れた細かい描写がされているように思えたが、実際の出来事を確かめてみると辻褄が合いません。
濡れ場に関しても、いかにももてない男の一方的な妄想を表現したとしか思えないのでした。(「遺品がたり」)
そこから始まる八つの語りにて、倫美が高校時代から交友関係にあった友人たちや日記に登場した女教師、カフェ店員が次々と謎の事件に巻き込まれて死んでいく。
その一方で毎年お正月には一人暮らしの女性を狙った殺人事件が起こっていて・・・。


正直言いますと、物語が何を意図しているのか、どこを楽しめばいいのかよくわかりませんでした。
なんとか最後まで読み切ったものの、結局は謎は謎のままでもやもやが残ってしましたし。
一話一話での死の状況説明はわかりますけどね。
一人暮らしの女性が殺された件との繋がりや動機については意味不明なまま。
事件の現場に必ず姿を現す謎の男“計測機”とはいったいなんだったのか?
結局ミステリというより、モテない童貞少年の妄執によるホラーだったのかと思うと残念。
それに登場する女性のほとんどが乱痴気騒ぎ・乱交を繰り広げる必要はあったんですかね?
いかにも若い女の子の乱れた実態をオヤジ目線で描いたとしか思えなくて*1
別にエロはいいんですけど、特にストーリーに絡まないならあそこまで入れる必要はなかったのじゃないかなって思いましたね。

*1:それも昭和の感覚で

北山結莉 『精霊幻想記13.対の紫水晶』

精霊幻想記 13.対の紫水晶 (HJ文庫)

精霊幻想記 13.対の紫水晶 (HJ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

クリスティーナ王女の護衛を引き受けたことで、シャルル率いるベルトラム王国軍との戦闘を余儀なくされたリオ。そこで圧倒的な強さを発揮した彼は、シャルルを捕虜とすることに成功する。その後、無事ガルアーク王国へと到着したリオを待っていたのは、「なに、お前の実力を見込んでちと頼みがあってな」「と、仰いますと?」「俺と模擬戦をしてくれないか?」勇者坂田からの思いがけない模擬戦の申し入れで―!?

まずは前巻での戦いの事後処理の一環として、リオは敵の首謀者シャルルと王剣アルフレッドを厳重に拘束して捕虜としますが、勇者である瑠衣だけは自由の身とします。
クリスティーナ一行について脱出してきた浩太と瑠衣が話し合って、わだかまりを無くすことができたところで別れることになりました。
本作に登場する男性勇者はチートイケメンか性根が腐っているかという両極端なので、浩太みたいにごく普通に悩み苦しんで、乗り越えていこういう姿勢が大変好ましく思えますね。*1
瑠衣の協力もあって、集まっていた五千人の軍勢も退き、無事に国境を通過。
ガルアーク国側の関門で待っていたのは領地が近いリーゼロッテだけでなく、意外にもユグノー公爵や坂田弘明を始めとするレストラシオンの主要人物。
そしてそこにはフローラの姿もあり、久しぶりの姉妹再会となったのでした。
国境要塞の内部に場所を移し、捕虜尋問やら事情説明、そして集まったユグノー派の貴族への紹介といった出来事が続きます。
やはり話題となったのがクリスティーナ一行の危機をたった一人で解決したに等しいリオの活躍です。
なにしろ、勇者と王剣、それに五千人の軍勢を相手にして圧倒的な力を見せつけたのですから。


姉との再会を喜ぶフローラ。
リオだけでなく魔剣持ちと推察した3人(サラたち)を何とか味方に引き込みたいと考えるユグノー公爵。
その一方で坂田だけはリオがやたらと脚光を浴びている上にきれいどころが共にいて、自分の方には靡かないのが面白いわけがなく。
考えた挙句に接近戦では敵わないだろうが、神装を用いて距離を置き、一方的に攻撃すれば勝てるだろうという安易な思い込みで模擬試合を申し込むのでした。
勇者相手に対応に困るリオですが、実力が伴わないのに傲慢さを隠そうとしない坂田*2にうんざりしたクリスティーナが許可。ついでにプライドをへし折るくらいに叩いてくれとまで言うのでした。


今回に関しては、メインとなる二点(坂田との模擬試合と魔道船襲撃による王女拉致)はweb版でも書かれていた内容の手直しとなっています。
模擬試合にてプライドをへし折るという意味ではweb版より甘い仕上がりになったなと思いましたね。
お得意の八岐大蛇がしょぼかったなと思ったくらいで。
制御しきれてないだけでなく、正面から弓で迎え撃てるくらい速度が遅いのはやはり坂田の未熟さですかねぇ。
王女拉致に関してはフローラだけであったweb版と違い、クリスティーナも一緒なので展開が結構変わってきそう。*3
リオによるルシウスへの復讐の決着。そして王女姉妹の救出へと繋げていくのかと予想します。
ルシウスについてはあっさり殺害してしまったweb版と違い、重傷を負わせたものの命が助かっているので、相手がパワーアップして苦戦。激闘の果てに勝利っていう流れでしょうかね。


著者は会話を含めた描写が丁寧なのが特徴なので、情景が目に浮かぶ一方でテンポが悪く感じることは今までもよくありました。
今回は特に前半の会話(ほとんど女性陣がリオを持ち上げる内容)、特にお食事会へ続く流れが長々と続いたので正直飽きました。
数行の説明で終わるところを数ページかけて似たような会話を繰り返されてもねぇ。
今までも気になっていたのは、レイスの一味に振り回されてストーリーが進むところや、基本的に主人公が受け身でいるばかりでもやもやすることが多いところですかね。
今回web版では出番が激減したラティーファを外に連れ出して独自のストーリーを動かそうとしている点は評価したいかな。
まだ先ですが、復讐を終えた後、強すぎる主人公と多すぎて収拾がつかないように思えるヒロインたちの関係をどうするのかが気になります。

*1:雅人もそうだし、巻き込まれ組の方が不憫な中で頑張ってる

*2:本人の資質に加えて、手駒として御しやすいように甘やかしたユグノーの思惑もあった

*3:リオと繋がりが薄かったweb版のクリスティーナとは明らかに扱いが変わってる