伊坂幸太郎 『火星に住むつもりかい?』

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

住人が相互に監視し、密告する。危険人物とされた人間はギロチンにかけられる―身に覚えがなくとも。交代制の「安全地区」と、そこに配置される「平和警察」。この制度が出来て以降、犯罪件数が減っているというが…。今年安全地区に選ばれた仙台でも、危険人物とされた人間が、ついに刑に処された。こんな暴挙が許されるのか?そのとき!全身黒ずくめで、謎の武器を操る「正義の味方」が、平和警察の前に立ちはだかる!

国内の平和維持のために警察の中に平和警察という組織が作られたという設定。
平和警察はテロを始めとする凶悪犯罪に手を染め治安を乱す危険人物を捕まえるのが役目ですが、その中にはまったくの無実の人物が含まれていました。
平和警察はあの手この手(証拠の残らない拷問や身内を人質にした脅迫)で容疑者を追い詰めていき、最終的に自白させていきます。
平和警察が捕まえた容疑者の中には冤罪はない、というより必ず犯罪者に仕立て上げられてしまうのです。
それだけなく密告を奨励して、証拠がなくても平和警察に捕まった時点で犯罪者確定。
見せしめのために公開処刑まで行われるという完全なディストピア社会として描かれていますね。
ごく普通の生活を営んでいた人がいきなり平和警察に連行されて、まったく身に覚えのない犯罪について自白を強要される。
もちろん、否定はするのですが、平和警察の尋問者は警察の中でも特に弱者をいたぶるのを好むサディストが選ばれていて、あらゆる手段で容疑者を苦しめていきます。
そんな中で一般人が耐えられるわけがなく、結局は罪もない無辜の市民が処刑される。
まるで歴史上に存在した秘密警察のようで、読んでいて愉快なものじゃありません。
不思議なことに平和警察以外はごく普通の日本であり、恐怖政治に支配された国というわけじゃないんですよね。
公開処刑の時も反対するのでもなく、むしろ娯楽として楽しんでいるあたりが異常に思えます。*1
ただそれって、インターネット上で容疑者(犯罪者として確定さえしていない)を特定して必要以上に攻撃する現象に通じるような気がしました。
そんな状況において、平和警察が容疑者を連行しようとした際に邪魔をする者が現れます。
バイクに乗ったヘルメットにツナギを着た男性らしき者は平和警察の建物内にまで侵入して、拷問途中だった被疑者を救い出してしまうのです。
ツナギ男はいったい何者なのか?
彼が現れると、相手は身体のバランスを崩してまともに戦えなくなってしまうのはどういうわけなのか?
途中から平和警察とツナギ男の両方の視点から描かれていきます。
ここでテーマとなっているのは正義の実践でしょうか。
テレビなどに登場する正義のヒーローは悪の組織とか宇宙からの侵略者から地球を守るためといった明快な目的がありました。
しかし、現実に正義を実践するのは難しいです。
弱者を救うにしろ、どこまで救えばいいのか?
全員を救いきれずに誰かを見捨てることになってしまったら?
正義を行ったことで自分自身が犠牲となって家族が悲しむことになったら?
そんな中でツナギ男が定めた救うルールが独特だけど、わかりやすい理由でしたね。
最後もどんでん返しというほどじゃないけど、意外な人物による意外な面が見せつつ、うまくまとまっていて面白かったです。

*1:かつては公開処刑が庶民の楽しみであった時代もあったらしい

池井戸潤 『アキラとあきら』

アキラとあきら (徳間文庫)

アキラとあきら (徳間文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

零細工場の息子・山崎瑛と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった―。感動の青春巨篇。

瑛と彬。同い年で同じ名前を持ち、かつ会社の跡を継ぐ身までは同じでしたが、その環境は真逆。
技術者から身を起こして従業員数名の零細工場を経営する父を持つ山崎瑛。
かたや様々な事業を手掛ける大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬。
家業が家族の境遇に密接に関わっていたという点だけは同じでした。
取引先が押し付けてきた難題が原因で経営が一気に傾いて倒産、工場が差し押さえられて、夜逃げの憂き目にあった瑛。
家族が離れて過ごすなど辛い時期を過ごすこともありましたが、紆余曲折の末に新天地での生活は徐々に上向いていきます。
一方、祖父が大きくした東海郵船は三つの事業に分けて父と二人の叔父がそれぞれ社長に就任したのですが、その頃からオーナー一族である階堂家には父と彬自身の兄弟による不和の兆しが芽生えていました。
やがて瑛と彬は父の仕事を通じて銀行員の本気の仕事ぶりに触れたことが影響して、同じ産業中央銀行に就職することになったのでした。


描かれている時代は二人の少年時代が1970年代終盤で、銀行員になった頃が1980年代終わりのいわゆるバブル期。
世の中が好景気に沸いていて、今じゃ信じられないくらいに莫大なお金が動いていた時代でした。
こうやって本として読むと、明らかに間違った選択をしている経営者の姿が愚かに見えますが、当時の多くの人にとっては今の状態がまだまだ続くもの、いっきり景気が悪化するなどとは予想もつかないのも無理ないのかもしれません。
それは景気が冷え込んでいって、黒字から赤字へと転じても変わることなく。
少し我慢していればきっとよくなる。
彬の叔父である晋や崇のように冷徹な決断ができずに根拠のない見込みに縋り付いて、経営を悪化させた挙句に潰してしまった経営者が多かったのでしょう。
当然、銀行も影響を受けていて、無謀ともいえる巨額の融資をすることもありましたが、それはあくまでも支店のノルマ達成のためであり、相手の会社が苦しい時には平然と見捨てる容赦のなさ。
瑛と彬はそれぞれの生い立ちと新人の時にカリスマ的な大先輩にかけられた「金は人のために貸せ」という言葉を胸に抱いて銀行員として奮闘していく姿を清々しい思いで読んでいました。


著者にしては珍しく30年間の長きに渡り、二人のアキラの半生を主軸に日本の経済状況の移り変わりを丁寧に描いています。
それゆえにたいそうなボリュームがあって読み甲斐がありました。
規模の大小に関係なく一企業の浮沈がそこで働く人たち、および家族の人生に多大な影響を与える。
その鍵を握っているのが融資を担当する銀行員の匙加減であったりします。
彬の方は傾きかけていた家業を救うために東海郵船の社長に就任。
そして瑛が融資担当として東海郵船のピンチを救うべく起死回生の策を練る展開には胸が熱くなりました。
バブルが弾けた後に一気に景気が悪くなってからは銀行の評判もずいぶんと悪くなったと思います。
願わくば、瑛のような人のためにお金を活かすことのできる誠実にして有能な銀行員が増えればいいですね。

中山七里 『追憶の夜想曲』

追憶の夜想曲 (講談社文庫)

追憶の夜想曲 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

少年時代に凶悪事件を犯し、弁護は素性の悪い金持ち専門、懲戒請求が後を絶たない不良弁護士・御子柴。彼は誰も見向きもしない、身勝手な主婦の夫殺し控訴審の弁護を奪い取る。御子柴が金目のない事件に関わる目的とは?因縁の検事・岬恭平との対決は逆転に次ぐ逆転。法廷ミステリーの最先端を行く衝撃作。

少年時代に猟奇的殺人に手を染めて逮捕された後、更生して辣腕弁護士となるも、依頼人に高額報酬を要求することで悪名が知られてしまった、御子柴礼司による『贖罪の奏鳴曲』。
その続編となります。
前回の裁判後に逆恨みで刺されてしまった御子柴でしたが退院直後にある案件の被害者弁護を手掛けます。
それは職を失った後も家庭を顧みずに部屋に引きこもり、借金を増やすばかりで家族を苦しめる自称デイトレーダーの夫を殺したとして逮捕された妻・津田亜希子。
懲役16年を不服とした控訴審でしたが、亜希子の有罪が覆る可能性はほとんどなく、特に資産家というわけでもないので報酬も期待できない裁判の弁護をなぜ引き受けたのか、彼を知る周囲は首を捻るばかりでした。


殺人自体は明らかなので、計画的ではなく(正当防衛の面も含め)衝動的であったかといった面が争われたのですが、敵手となる岬検事はかつて御子柴に敗れたこともあって、復讐の意味もあって念入りに準備を整えていました。
それゆえ、一回目と二回目は検察側の勝利といえる内容でした。
一発逆転を狙う御子柴は亜希子の過去を探るために彼女が独身時代に過ごしていた都内のアパートや家族と過ごしていた神戸までもわざわざ足を運んでいきます。
しかし、神戸では震災があったことで求める情報は得られず、ついには生まれ故郷である九州まで足を運ぶことに。
そこで亜希子の家族を襲った凄惨な事件とその後の陰湿な嫌がらせの数々を知ることになるのですが…。


御子柴というキャラクターを考えたら、なぜ亜希子の弁護を引き受けたのかというのがまず最初の疑問であり、さらに検察側有利に進む中でどうやって逆転するのか?
また亜希子が唯一の味方でもある弁護士にも絶対明かせない事情とは何なのか?
といったいくつもの謎を抱えたまま物語が進みます。
前半の法廷での舌戦では苦戦する様子が見られましたが、前回でも法廷の度肝を抜く鮮やかな手並みを見せた御子柴だけに期待は高まっていきましたね。
今回も期待に外れることなく、亜希子が極めて特殊な事情で殺人できない立証を見事にやってくれました。
そうすると誰が真犯人なのか?
実は本編途中で割り込むように入ってきた男性の劣情の吐露によって、事件の前から家の中で何が起きていたか、その結果誰が夫を殺したのかはなんとなく想像できてしまうのです。
そうはいっても面白さが損なわれることはありませんでした。
そして、裁判は思わぬ展開に。
まさか立証するためにあそこまでするとは思いもしないでしょう。
裁判が終わった後、亜希子の次女・倫子の無邪気な様子が痛いほどでした。
続編があるということで、その後の御子柴がどうなったのか気になって仕方ありません。

谷舞司 『神統記(テオゴニア)3』

内容(「BOOK」データベースより)

谷の神の加護を得て、諸族の帰依を集め自らの国を築き始めたラグ村の少年カイ。“守護者”としての使命を果たすため小人族を引き連れ灰色猿族の首都へ向かうと、王城の奥に座していたのは、地を腐らせ、触れるだけで生命を奪う呪われた存在…悪神。灰色猿たちが蹂躙されるなか、「大首領派」を率いる“賢姫”は、従えていた神狼を悪神へと解き放つ。カイたちは種族の垣根を越え、この世界を生きる者としての戦いを始めるのであった。そして人族の地では、州都・バルタヴィアにて、辺土領主が一堂に会する大祭「冬至の宴」が催されようとしていた…。

待望の3巻ですが、今回もボリュームたっぷりで読み応えありました。
普通のラノベ文庫の2冊分はありましたね。
3巻に登場した人物のイラストが嬉しかったです。個人的に挿絵をもっと増やしてもいいんじゃないかと思えたくらいです。


2巻からの続きで灰猿人(マカク)族の主邑を襲った悪神(ディアポ)との戦いがクライマックス。
悪神自体の動きは遅いとはいえ、いくつも触手を伸ばしてきて、触れられただけで戦闘不能になってしまう上に巨体ゆえの攻撃が利かないというラスボス感。
そんな中で乱入してきたのが、灰猿族の王女が北方より子狼を人質として従わせてきた狼の神獣でした。
神狼が直接牙で攻撃するのを見たカイはその秘訣をなんとか探り当て、協力して悪神に立ち向かいます。
少しでも喰らったら命を失ってしまいそうなぎりぎりの緊張感の中、小人族はもちろんのこと、新たに仲間となりそうな灰猿族の期待を背負って戦うカイ。
こういった、戦いの中で試行錯誤の末に新たな能力を得て成長していく展開というのは熱いです。
内なる谷の神様とのコミュニケーションには相変わらず苦労しているというか、カイがより高みに近づけば言葉がわかるようになるのか…。
ともあれ、長い戦いの末に悪神を討ち果たすことができた上に、谷と灰猿族との同盟も成って万々歳でした。
狼の神獣がweb版には無かった要素だと思いますが、さらに瀕死となって親にも捨てられた小狼を放っておけずに谷に連れて帰ることに。
小狼に乳をあげるために起こった一騒動は若いカイの無知が伺えて、ほのぼのというか、笑えるというか。
そういえばラグ村の家出姫のこと、すっかり忘れていました。
カイによって村に送り届けられた場面は普通ならばフラグが立ってもおかしくないくらいなのですが、すでに押しかけの二人(小人族と鹿人族の少女)に加えてエルサ(昏睡中)と白姫様ことジョゼもいるから、彼女の出番はなさそうかな。


後半というか、一応メインとしては辺土領主が一堂に会する大祭「冬至の宴」となります(合わせて辺土伯の第六公子への白姫様の嫁入りも兼ねている)。
辺土全体が大雪に埋もれて亜人種族からの襲来もなくなる季節。
それゆえに通常ならば移動も困難なのですが、一種の超人である加護持ちなら強行軍によって短時間での移動が可能。ついでに”なりかけ”(殻付き)とみなされているカイも荷物持ちとして同行することになりました。
加護持ちの辺土領主たちは揃いも揃って脳筋ばかり。早速カイは騒動に巻き込まれて、紋を表さずに加護持ちを退けたことから目を付けられてしまいます。
迂闊と言えるかもしれないけど、そのくらい見せ場があってもいいでしょう。
嫁入りに絡んだ辺土伯と第一公子との確執やら、繋がりのある中央貴族の暗躍やら、きな臭い動きがあって、白姫様の受難をカイが救う過程で八翅族*1であるネヴィンとの出会いがあります。
白姫様の受難に関してはweb版とは内容が変わっていて、こちらの方がふさわしいように思えました。
なお、ネヴィンとはその時の利害によって戦いもするし協力もするという、カイにとって始めて同格に近い存在ゆえにインパクトがありましたし、八翅族が辿ってきた悲しい歴史に独特な世界観を見せられましたね。
そして、冬至の宴が進むに連れて、怒涛の展開を見せていきます。
嫁入りどころか、悪神への人身御供とされてしまった白姫様をカイが救いに行く場面は燃えました。
最初は嫌な役どころに見えた中央貴族の姫もなぜかヒロインしていましたし(笑)
ここまでくると、カイの戦いぶりに安定感が出てきて、思い通りにいきそうにに見えましたが、独自の狙いで動いていた権僧都やら第一公子やらの思惑と混沌とした状況の中で思わぬ出来事の連続。
辺土における人族の将来に不安を思わせるような結末となりました。
客観的に見れば、カイには谷を中心として仲間を集めたり亜人との結びつきを強めていった方がよさそうな気がしますが、出身地であるラグ村を切り捨てることができないあたりが縛りとなっていますね。
そのあたりがカイらしさでもあるのですが。

*1:はるか昔に人族に敗北、土地を譲り渡して城塞の奥に隠れ住んでいた

赤城山(黒檜山、駒ヶ岳)登山

毎年ゴールデンウィークの前半に軽い登山というかハイキングに行っているのですが、今年は仲間の一人が群馬県赤城山に行ってみたいということで、山の日である昨日行ってきました。
私自身、赤城山は記憶も定かで無い小学生の頃に行ったきりで、大人になってからは初めてでした。
正確には赤城山という名の山はなくて、カルデラとなったいくつもの峰を含めた山域の呼称らしく、その裾野は前橋市の市街地も含むほどに広大です。
群馬県赤城山ポータルサイト


赤城山に登るにはJR両毛線前橋駅を降りてからバスに乗るのですが、休日のみ運行している赤城ビジターセンター行きの急行バスに乗りました。*1
裾野の一部である長い坂を経て、赤城山の懐に入ると急勾配のカーブをくねくねと登っていきます。
休日だからか、車だけでなく、自転車に乗っている人も多かったです。
予定よりも少しオーバーして1時間15分くらいで終点より前の赤城山広場のバス停で降りました。
目の前には赤城山を象徴する大沼が広がっています。
その日も関東の平地では35度くらいの猛暑日だったのですが、大沼周辺は10度くらい低かったでしょうか。
高原のように空気が爽やかで涼しかったです。


広い駐車場には車が多く停められていて、大沼周辺の道はランニングしている人が多かったですね。
大沼沿いの道路を少し歩いて、赤城神社を過ぎたあたりでまずは最高峰である黒檜山(くろびさん・1,828m)への登山道を登り始めました。


黒檜山へのルートは約1.1kmで1時間15分の行程なのですが、これが見事に岩場が続く登り道。登りにくいことこの上ない。
道路を歩いている時は良かったけど、登り始めたら、たちまち汗が吹き出てきました。
ちなみに登り始めた時点で10時半くらいだったのですが、すでに降りてくる人とすれ違いましたね。
まぁ、岩場の道は登りよりも下りの方が大変かもしれない。
それでも登り辛いのは変わらなくて、何度も小休憩を取りながら進みました。
↓この時はまだ半分近くまで到達した頃。正面に見えるのはカルデラの真ん中にある地蔵岳(1,674m)。晴れ間は差していたけど、この後すぐにガスが出てきた。

大沼周辺が1,300mくらいあるので、500mほど上がるのですが、岩場続きのせいでなおさらきつく感じました。
延々に続く岩場の登り道を予定よりもオーバーして1時間30分くらいで頂上到着。
終盤の方はさすがに足がきつかったですね。
わりと登山客は多くて、若い人から年配まで広い年齢層だったのですが、さすがに高校生か大学生くらいの若い人のペースには敵いません(笑)


頂上に近づくに連れてガスに覆われるようになり、下界の景色はほとんど見えなかったのが残念でしたね。
その代わりに止まっている時はかなり涼しい風が吹いていましたが。
頂上付近で昼食を摂った後は尾根沿いに駒ヶ岳(1,685m)を目指しました。

いったん下ってから、また登るのですが、黒檜山の登りに比べればさほどきつくはありませんでした。
尾根沿いのルートは谷間からの風も来て涼しかったですし。
駒ヶ岳に到着した時はあたり真っ白なほどガスっていました。

その後は下るのみ。
黒檜山へのルートと比べると、距離が短い代わりに急勾配が続くということもあって、手すり付きの鉄階段の他に木の階段もあって、そういう意味では通りやすい道ではありました。
その代わりに下りは太腿と膝にくるんですけどね。
下りルートは予定の45分より早いくらいに到着。
帰りは赤城ビジターセンターからのバスで前橋駅まで行きました。
赤城山周辺は駐車場が整備されているので、一番近いうちの車で来るという案もあったのですが、妻が仕事で使うために電車とバスを利用しました。
車の方が待ち時間がなくてスムーズだったかもしれませんが、その代わりに帰りの運転が辛かったでしょうね(足が)。
名の知れた山のわりには(バスを使えば)トータルで登山自体は約3時間半ということで気軽に登れる山でした。
赤城山の名前の由来である紅葉の時期に来ても良さそうですね。
山域のほとんどは広葉樹林なので、10月上旬には山頂部から紅葉が始まって、下旬には麓まで山全体が真っ赤に色づくそうです。

*1:平日は乗り継ぎが必要。

山本弘 『まだ見ぬ冬の悲しみも』

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

内容(「BOOK」データベースより)

時間的同一性交換によって6カ月前の世界へ向かった俺が見たのは、すべてが燃えあがり、あらゆる生命が死滅した終末のパノラマだった―タイムトラベル実験の恐るべき顛末を描いた表題作、謎の異星生命体との危険なコンタクトを果たした詩人の手記にしてSFマガジン読者賞受賞作「メデューサの呪文」、アキバ系科学幻想譚「シュレディンガーのチョコパフェ」ほか、全6篇を収録する最新作品集。時間、宇宙、言語、超人テーマなど、SFならではのアイデアを現代に蘇らせる、科学と奇想と語りの饗宴。

久しぶりにSFを読みたくなって手に取りました。
前に著者の手による外国SFアンソロジーは読んだことがありますが、本人の作品はかなり久しぶりかもしれないです。
どれもこれも個性溢れる作品でしたね。荒唐無稽な話にリアルっぽくするための物理系のウンチクがくどく感じたりはしましたが。


「奥歯のスイッチを入れろ」
事故により命は取り留めたが両足を失った宇宙飛行士が最新の技術により、記憶を移植したサイボーグ戦士(スーパーソニックソルジャー、略してSSS)として生まれ変わった。
その身体能力は凄まじく、人間の認識するより遥かに高速で動けるのだが、本人の認識が追い付けないために訓練を要した。
そこまでして主人公が生きたいと願ったのは、かつての恋人で科学者となった女性の願いによるものであった。
しかし、同じように改造された敵国のSSS戦士が要人暗殺に使われたことを知ってしまう。
昔流行ったアニメや特撮に登場したサイボーグ戦士とか人造人間もの。*1
それを無駄にリアルに追及していったら、どんな困難が待ち受けているかを描いたと言えましょう。
大事な女性を護りたいという気持ち、同じような能力を持った強大な悪を相手に奮闘するあたりがまさしくヒーローです。
しかし、リアルにしちゃうと、移動するだけで大変ですわ。例えば、衣服がもたなくて全裸になっちゃたりとか…。


「バイオシップ・ハンター」
人類が宇宙に進出して様々な異星人たちと接するようになった時代。
輸送船がバイオシップ(生きている宇宙船)を使う海賊に襲撃される事件が発生。
そこでバイオシップを利用する恐竜進化型型の宇宙人に疑惑がかけられて、とある男が彼らのもとに乗り込んで調査を行うことになった。
異星人とのカルチャーギャップはSFでも定番ですが、異星人たちの性質はもちろんのこと、宇宙船自体が生き物である点に特色があります。
機械的で高度のテクノロジーの塊である地球の宇宙船とは大違いで慣れるのが大変そう。
事件の謎そのものもバイオシップならではといった感じでうまくまとめられていると思いました。


メデューサの呪文」
かつては高度な文明を持っていたのに今では原始的な生活を送る宇宙人とのコミュニケーションに難儀していた学者たちであったが、詩人を連れてこいとの相手の要求により、仕事の傍ら詩を嗜んでいた主人公が呼ばれて…。
カルチャーギャップの一種だけど、それが想像を絶する言葉の力だというのがユニーク。
言葉の力というと日本には言霊があるけど、そんな生易しいものではなく、使いようによっては人類を滅ぼす強力な精神兵器にもなりうるのだという。
直々に教えられた主人公だけど、それを仲間に伝える術を持たなくて、とんでもない事態に発展してしまいます。
自分たちより遥かな高みに位置する脅威など、身をもって体験しないとわからないものでしょう。


「まだ見ぬ冬の悲しみも」
数日間の範囲だが時間旅行が可能になった時代。
テストパイロットとなった主人公には一つの欲望があった。
それにはふられ続けている憧れの彼女との過去をやりなおすこと。
時を超えるという画期的な発明を手にしても、人間の動機というのは変わらないもので。しかし、過去からやってきたもう一人の「俺」が直前になってすり替わろうと襲い掛かってきて…。
タイムトラベルした先が破滅した未来という、ショッキングな内容であったのは確か。
時間に対する考え方も変化していくのだろうけど、こんな結末が納得いくかどうかはわからないまま。
タイムマシンに乗った未来人が来ないのはそこに到達するまでに人類が滅んでいるとか、タイムトラベル事態が破滅をもたらすから戒められているからとか…?


シュレディンガーのチョコパフェ」
とあるノーベル賞候補の天才による発明は世界に対する恨みが籠められていて、因果律を崩壊させる危険なシロモノであった。
互いの趣味を尊重しあって程よい距離感を保ったオタク同士のカップルは著者の理想の一つなんでしょうか。
それはともかく、主人公が懸命に急ぐ中で周囲が加速度的に滅茶苦茶になっていく展開は筒井康隆を彷彿させられましたね。


「闇からの衝動」
病弱な少女は乱暴者の少年への復讐を成し遂げるため、悪魔の力を借りることを思いつく。自宅の地下室の奥には怪しげな円形の蓋があって、その先にはきっと悪魔が棲みついているいるのだと信じて…。
1930年代のアメリカSF*2作品へのオマージュとなっている内容。しかもそれが実在の作家と作品を登場させながら展開するのだから凝りようがすごい。
原典自体は読んでないから知らないけど、きっと影響を受けたと思われる国内の作品は目にしているので、なんとなく雰囲気が伝わってくるのが楽しかったです。

*1:今でも仮面ライダーがそれに近いか

*2:クトゥルフ神話的なダークファンタジーと言えるかも

まふまふ 『陶都物語2』

陶都物語 二 ~赤き炎の中に~ (HJ NOVELS)

陶都物語 二 ~赤き炎の中に~ (HJ NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

現代の日本から幕末の日本・美濃国へと転生したオレ(草太)。前世から引き継いだ知識を活かし、この時代には存在しない「白磁」を作り出すことに成功した草太は、これを金の卵とすべく商都・名古屋へ向う。海千山千の大商人を相手に、見た目は子供・中身はおっさんの最初の野望は成るのか…。南へ西へ、奔走する不遇主人公はその途上で無宿人の少女を拾い上げるのだが…。幕末の著名人も続々登場する転生サクセスストーリー、待望の第2巻!

1巻が発売されたのが2017年でしたが、売れ行きが良くなかったのか*1、2巻が発売されることなく、原作の更新も止まってしまって非常に残念な思いを抱いていました。
それが同作者による『神統記(テオゴニア)』が書籍化されたこともあってか、2年越しに2巻が刊行されて、原作を読んでいた者として喜ばしいかぎりです。


さて、大地震の倒壊にも関わらず、奇跡的に無事だったボーンチャイナの皿をもって、陶磁器事業を復興を目指す草太。
何をするにもかかるのは元手(お金)であり、既存の美濃焼と同じ販売ルートを選ぶのを良しとせず、大都会である名古屋を目指します。
そこで口八丁手八丁を駆使して大商人から100両の融資をせしめたり、現代知識を有効活用して本格的な株式事業の発足まで漕ぎつけたまでは良かったものの、前途は多難です。
それはボーンチャイナたる原材料として骨灰の調達*2ももちろんながら、値打ちある売り物とするには絵付けが不可欠となるために優れた絵師を雇う必要があること。
そのためには文化の中心地である京まで足を運んで、直接スカウトすることを考えたのですが、まず美濃から京まで歩いて行くまでが6歳児の体には難題であったわけです。
そこで普段使う草鞋とは別に牛の皮を使ったサンダルを自作してみたものの、今度は靴擦れに悩まされるという場面があったり、現代知識も万能じゃありません。
ともかく、草太自身の地元とはいえ、約150年前のまったく様相の異なる風景の中を歩いて状況する描写がのどかで良いですね。草太の内心は今後のことを考えると焦る一方なのですが。
道中では死んだ夜鷹の子で乞食同然の孤児”お幸”に懐かれて、博打で商売道具をスってしまった富山の薬売りに執着されて、さらに大津で足止めしていた際には妙に頭の切れる役人に関心を持たれてしまい…そんな出会いがあって、思わぬ道連れを増やした末に二週間かかってようやく到着。
しかし、業界のしがらみやら地方を見下す風潮が強い中では絵師の引き抜きなど、いくら現代知識をもってしても、とっかかりさえ掴めないのでした。


かなりのボリュームの2巻ですが、それでもまだ陶磁器作りの準備段階、そのとっかかり程度と言えましょう。
ひとことで言えば、いくら現代知識があろうが、実際はチートなどできないものだということ。
6歳児という点が時にメリットになることもあるけど、基本的に足を使うしかないこの時代では移動にも苦労していますね。
身分制度など、草太が持つ現代の感覚と当時の常識がぶつかり合う様も面白い。当時に生きる人々のリアルが感じられます。
時に迂遠に思うこともあるけど、Web発の小説の中では時代考証を含めて、大変丁寧に書かれているように感じました。
何よりも歴史ものとしての醍醐味としては、史実の有名人物と出会い、物事が転がりだすように進んでいくところでしょう。
本作ではストーリーが進むほどに有名人物が続出しますが、ここで幕府のあの人と縁を結んだことが後にどういった化学変化を起こすのか期待が膨らみますね。
それと、京の中で人探しを手伝ってくれた老詩人は名前だけしか知りませんでしたが、主人公と同じ美濃出身だったのですね。
次の巻で人と材料が揃って、完成まで漕ぎつけそうですかね。非常に楽しみです。というか、3巻はあまり間を置かずに出して欲しいなぁ。

*1:昨今流行りの転生ものと歴史もののどっちつかずな感じだった

*2:肉食文化が無いので、寿命や怪我などで牛馬が死ぬタイミングを待つしかない