道造 『貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士4』

現代日本から男女の貞操観念が真逆の異世界へ転生し、その世界では珍しい男騎士となった辺境領主ファウスト。彼は自らの命をかけたゲッシュによって、「遊牧騎馬民族国家」対策へ王国を動かすことに成功した。
これでようやく故郷のポリドロ領へ帰れると思ったのも束の間、リーゼンロッテ女王から5年前の「王配暗殺事件」の調査を命じられてしまうファウスト
「解決は求めない。諦めるための最後の調査を」
――そう乞われ引き受けたファウストだったが、女王はただファウストを引き留めて貞操を奪いたいだけで……!?
貞操が逆転した世界で“誉れ”を貫く男騎士の英雄戦記、悲しき真実を暴く第四幕!!

王都での用事も終わり、領地に戻るつもりであったファウストに待っていたのは女王じきじきの命令でした。
リーゼンロッテ女王の王配であり、王女姉妹の父であるロベルトが5年前に不審死を遂げた原因を探れという。
その裏には一人寝の寂しさを抱えたリーゼンロッテ女王がファウストに横恋慕。同じくファウストに惚れ込んでいる長女アナスタシアと婚約者である次女ヴァリエールが王都にいない留守に距離をつめて童貞を奪ってやろうと企んだというもの。

もっとも、女王の王配が不審な死を遂げたとあれば、当時は大々的な捜査が行われたと思われるわけで、5年も経って今になって新たな証拠が見つかるのか疑問に思うのは当然です。
しかし、ファウストには女王には借りがあったので、内心渋々ながらも真面目に調査に臨みます。素人の自分で新たな発見ができるのだろうかと思いつつ。

一方、国の諜報機関を担うヴェスパーマン家の跡継ぎマリーナは苦しい立場に追い込まれていました。
5年前に起きたロベルトの死の原因は判明できず、最近ではヴィレンドルフの侵攻を予知できなかったために信頼を損なっていたからです。
そんな時にファウストが調査を任じられたと聞き、なんとか繋がりを持てないかと考えます。それには家を破門されて、ヴァリエールの親衛隊隊長に収まっていた姉ザビーネを頼るしかないのでした。

貞操逆転世界らしく、本業では有能なのに男性が絡むと一気に馬鹿になる女性たちは相変らずです。朴訥なファウストは変わらずの人気ぶり。とても二子の母親とは思えないリーゼンロッテ女王のアタックにたじたじ。
ただ、今回は戦も派手な立ち回りなく、一見地味に思える内容です。連載していた時も長引く展開に退屈に感じた人。充分面白いと感じた人。賛否両論だった記憶があります。
こうやって一つの巻にまとまって続けて読むのが可能となると、リーゼンロッテ女王を中心に、新たな登場人物も含めて深い描写があって、意外と楽しめたなというのが率直な感想です。
なかでもロマもしくはジプシー。現実でも中世以降の政治的問題でもあった放浪民族を取り上げたというのがネット小説原作としては珍しいかもです。それだけ著者の歴史的知識と洞察の深さを感じられました。