12期・52冊目 『白い殺戮者』

白い殺戮者 (徳間文庫)

白い殺戮者 (徳間文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

ライターの大坪卓也は、北海道北士別町の通史執筆の依頼を受けた。酷寒だがいたって平和な町で、四十年前に起きた猟銃乱射事件だけが、「オンネベツの血の祝言」と呼ばれ、人々に語り継がれていた。気温が零下二十度をまわったある夜、一人の老人が凍死した。気温が下がるにつれ、死者は続いた。二週間で七人―不審に感じた卓也は、ある日犬を追いかける龍巻状の吹雪を目撃する。超自然パニックノベル。

やり手の町長による活性化事業によって好景気に沸く北海道北士別では町制百年事業の一環として、通史編纂事業を行うこととなり、その取材と執筆依頼を受けたライターの大坪卓也が冬場の町にやってきたところから始まります。
北海道北東部にある町では冬場最大で氷点下20度にまで下がることがあり、卓也が来る直前に凍死事件があったばかり。
まずは取材から始めた卓也ですが、町の人々の口は重く、そして夜の飲み屋では都会者の自分が歓迎されていないことを悟ります。
そんな中でも親しくなった女性と過ごして、彼女を送っていく道中で猛吹雪に見舞われて、途中で難儀している子供を見かけるも、女連れであることを負い目に感じて放置。
その後、その子が凍死したことを知ります。
さらに変わり者の老人の元に取材に出かけた帰り際に老人の飼い犬が竜巻のような雪に覆われるさまを目撃。
後で飼い犬と老人もろとも凍死したことを知って愕然とします。
それは意思を持った吹雪による惨劇の始まりだったのでした。


大雪によって何時間も電車は止まり、酷い日には氷点下20度にまで下がることや、猛吹雪によって閉ざされる街。止むと同時に電話線や電線の復旧作業にあたる職員たち。
うかつに手で触ると貼りついてしまうので、決して素手で車のドアを開けようとしてはいけない。
そして毎日のように行われる道路の除雪作業。
真冬の気温としては下がってもせいぜい氷点下数度、雪は滅多に降らない場所で生まれ育った身としては、北海道の北士別町(架空の町)で描かれる日常はまさに厳しい自然の中での営みをまざまざと見せつけられます。
そんな中で雪がまるで生き物のように動物を襲うという怪現象が発生し、たまたま取材で訪れていた主人公は偶然ながら巻き込まれてしまい、その解明に勤しむことになるという流れです。
古くはアイヌの間で伝わる「アイヌ・ライケ・ウパシ(魔の雪)」と呼ばれる怪現象は徐々に勢力を増していき、主人公は自らの体験を警察や町長に訴えるのですが、想像力豊かな作家の妄想として、はなから信じてはくれない。そうこうする内に被害が増えていき・・・。


何か過去にこじらせたらしく最初から最後の方まで覇気が見られない主人公は取材の合間にすることと言ったら、遅くまで飲み歩くか、女をひっかけて寝泊りしていたり。
ただでさえ田舎で歓迎されないよそ者なのに、嫌われてもしょうがないかなと(笑)
人を襲う魔の雪の脅威とか、最後の戦いでの盛り上がりとか、充分読ませる内容ではあります。
ただ、冒頭で「オンネベツの血の祝言」が何か繋がりがあるかと思えばそうでなかったり、「アイヌ・ライケ・ウパシ(魔の雪)」の詳細(昔から定期的に発生している?)とか、いろいろと曖昧なまま終わってしまったのが残念でしたね。
パニックノベルと銘打った割には町全体として描写も少ない。
町長による過去の悪事に関しては、メスが入ることは示唆されましたが、「アイヌ・ライケ・ウパシ(魔の雪)」をきっかけとして、町長を始めとして町全体にどう影響を与えていったかを描いてほしかった気がします。