7期・6冊目 『悲劇週間』

悲劇週間

悲劇週間

内容(「BOOK」データベースより)
あのころぼくは二十歳だった。詩に情熱を注いでいたぼくは、日本最初の外交官としてメキシコに赴任していた父に呼ばれ、地球の裏側に旅立った。そこには、奇想天外、驚天動地、ぼくにとっての未知なる領城、すなわち恋と詩と革命のめくるめく世界がひろがっていた―。詩人・堀口大學の青春を綴った渾身の1000枚。三島由紀夫賞作家が切り開いた新境地。

落第生だった主人公が詩歌に関心を示し、与謝野晶子への師事、親友となる佐藤春夫との交流といった、後世詩歌・文学界の巨匠と呼ばれる人々がさりげなく出てくるあたりからして興味をそそる内容なんですが、メインは外交官である父の任地に呼ばれてメキシコに滞在してから。
20世紀初頭のメキシコ革命(マデロ大統領の失脚と謀殺)、いわゆる『悲劇の二週間』を舞台に「あのころ、ぼくは二十歳だった」詩人・堀口大學の青春時代を本人になりきって描いた作品となります。


メキシコ革命前夜、マデロ大統領の姪ながら奔放なメキシコ娘フエセラとの恋、仏人家庭教師による語学教育、旧幕軍であった老人を始めとする在メキシコ邦人との交流といった濃密な時間が綴られています。
やがて軍部を始めとする反大統領派の決起、市内では官軍と叛軍との戦乱が拡大していくものの、不可思議なことに八百長の如く、互いは狙いを外して市民と市街にのみ被害を与え続ける。
全てはマデロ大統領を陥れる謀略であったのですが、若さゆえか、それとも愛するフエセラの為か、一途にマデロに肩入れしてその家族の傍にいる主人公。
一つ間違えれば命を落とすであろう騒乱の中で実にアクティブに街中を周る主人公たちの行動には見ていてハラハラするものの、どこか羨ましい気がするのは自分が歳を取ったからでしょうか。


主人公が外交官の子息という立場での見聞、そして内乱によってメキシコ国内だけでなく各国の思惑が入り乱れる渦中においては国家や外交について深い蘊蓄を思わせる文章が多かったです。

「西洋世界は嘘でつくられている」
国益のためなら、嫌いな者とでも握手をするのが外交」

日本が武士道という美徳を残しつつも列強への仲間入りをすべく海外拡張へと突き進んでいたこの時代。
海外を舞台にしているからこそ、日本と日本人について考えさせられます。
有能な外交官であった堀口の父は義と情によって大統領一族を公館に匿い、その熱弁によって革命軍のみならず世界に日本の美徳を認めさせた。
そのあたりは結果として外交的な勝利を治めた父の功績として書かれていますが、情によって動きがちな日本外交はシビアな西洋列強の中ではどうも甘さ目立つことについ思い至ってしまうようですよねぇ。


ともかく題材としても内容としても読み応えあり、堀口大學のみならずメキシコの文化・歴史に疎い自分でもその鮮やかな情景ときめ細やかな詩的表現を充分堪能できた作品でした。