3期・13冊目 『雪中の奇跡』

雪中の奇跡

雪中の奇跡

出版社からのコメント
個々の戦闘の展開、兵器の運用に焦点をおいて描かれた冬戦争の全貌。
1939年11月、ソ連邦は人口わずか370万の小国フィンランドへの攻撃を開始しました。フィンランドに侵入したソ連軍は戦車、装甲車3000両、航空機2500機を擁し、その延べ兵力は150万にも達しました。各国はソ連邦の無法な侵略に対して抗議の声を上げると同時に、固唾を呑んで孤立無援で戦うフィンランドの壊滅を待っていました。実戦機百機、戦車十数両、旧式な砲兵器材と第一次大戦当時の装備しかない歩兵からなるフィンランド軍の抵抗が潰えるのは時間の問題であろうと思われました。(略)

この本を薦められてから、かなりの月日が経ってしまいましたが、ようやく手に取ることができました。一時期は図書館で借りることも考えましたが、やはり購入して良かったですね。第1次ソ芬戦争の戦史として参考になるので、後で読み返すこともあるだろうし。もっとも単純に読むのに時間かかるというのもありますが。
表紙裏のフィンランド国土の地図、および作中に記載された戦術地図*1、そしてふんだんに使われた写真によってビジュアル的に戦争の実相を感じられます。さらに当時の写真だけでなく、著者が撮影した博物館内などの現地のカラー写真がいいですね。まさに百聞は一見に如かず。
博物館には第一次世界大戦頃に日本が輸出して、実際に使われた重砲や銃なんかが保存されているんですよね。これは貴重なんじゃないかなぁ。


反面、文章はとても読みにくいです。
フィンランド側だけでなくソ連側からも、具体的な部隊名・機種名まで言及された戦闘が記述されていて、とても事細かなのですが、さっきまで北部戦線の第○師団の防戦の記述だったと思えば、いきなりカレリア地峡の別の部隊の話に飛び、突然手記の引用が割り込んできたりと、話の切り替わりが唐突なのですね。「我々」「わたし」「敵」と言った主語が何を指すのがわからなくてとまどうことも。


とにかく、フィンランドにマンネルハイムという偉大な軍人が知ったことで興味を持つようになった冬戦争ですが、実際にこういった本を読んでわかることは、この戦争の真の主役は一人一人に兵士だっということですね。
予備兵力の少なさから不眠不休で陣地に立て篭もってソ連軍の攻勢を防いだフィンランド軍兵士。深い雪の中をスキーで自在に出没して後方撹乱したスキー部隊。
逆にソ連側から見れば、現地の過酷な環境にとうてい耐えられない装備で、戦闘よりも雪や寒気で戦闘継続が困難になる兵士や車両・・・。


戦争後半になると、さしものフィンランドの防御線も綻びが生じ、何よりも弾薬の欠乏が甚だしく、ソ連軍は以前にも増して徹底した物量で攻勢にも勢いが出てくるのです。
そうなると戦争終結のタイミングが重要になっている。かつてロシア軍に籍をおいていたことも影響してか、開戦前から一貫して戦争反対の立場を取っていたマンネルハイム将軍や現場の司令官達は余力を残した段階での講和を主張し、一部の文官は継続を主張する。このあたりが最後の山場ですね。*2
日露戦争の時もそうでしたが、非常に微妙なタイミングで講和が成立し、フィンランドは国土の1/10を割譲することになりましたが*3、下手に抗戦を続けていたら、戦線崩壊して全てを失っていたかもしれないのです。


この戦争の結果、フィンランドソ連への憎悪を強くしてドイツに接近し、ドイツはソ連軍を侮り*4ソ連軍は戦訓を生かして冬季戦の見直しをする。
北欧の小国の必死の防戦が、その後第二次世界大戦に与えた影響は大きかったということで、一つ戦史を学ぶことができました。(そして継続戦争の『流血の夏』へと続く)


ちなみに戦前戦中の北欧3国の外交、そしてタイトル通りに航空戦(開発も含めた)に関しては、以前読んだ『北欧空戦史』の方が詳しいですね。どちらが先でもいいから両方読んだ方が理解は深まると思います。

*1:馴染みの無い地域の話では地図が無いとまったく話がわからないので。それでも村や川の名前まで参照して見るには本格的な地図が必要ですね

*2:日中・太平洋戦争の影響で日本では軍人=好戦的というイメージが定着してしまったけど、実際はそんな単純ではないんですよね

*3:日本の北方領土の返還が具体化すると、こちらの領土問題が再燃するとかしないとか。どうでしょうね。

*4:推測ですが