3期・2冊目 『冬のオペラ』

冬のオペラ (角川文庫)

冬のオペラ (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
勤め先の二階にある「名探偵・巫弓彦」の事務所。わたし、姫宮あゆみが見かける巫は、ビア・ガーデンのボーイをしながら、コンビニエンス・ストアで働き、新聞配達をしていた。名探偵といえども、事件がないときには働かなければ、食べていけないらしい。そんな彼の記録者に志願したわたしだったが…。真実が見えてしまう名探偵・巫弓彦と記録者であるわたしが出逢う哀しい三つの事件。

敬称でも愛称でもなく職業としての名探偵を名乗っている巫弓彦がイイ。名探偵にふさわしくない極めて日常的(そして現実的)な依頼は全て断ってしまうため、生活のためにアルバイトを掛け持ちする毎日。名探偵を煩わすような難事件はそうそう発生せず、それゆえ探偵も副業に精を出さざるを得ないというあたりが妙にリアル。
偶然に主人公・姫宮あゆみの周りで出没するところあたりはコミカルに感じましたけど、不可解に思える事件の中のちょっとした事実から真実を見抜くあたりはまさに名探偵だと思わせます。


産業スパイ(?)および証拠隠滅の濡れ衣を解く(三角の水)・珍種の蘭泥棒のアリバイを解く(蘭と韋駄天)・冬の京都の密室殺人事件(表題作)と3つの事件が描かれていますが、共通するのは人間の悪意であること。いや、犯罪ったら、たいてい悪意から生まれると相場は決まっているのでしょうが、ここで描かれているのは、被害者や主人公の近くの人物の悪意だったり心の醜さなんですね。
最初の短編「三角の水」にて、姫宮あゆみが受けた悪意というのが、初っ端だけにちょっとショックだったですね。特に北村作品に温かみを期待して読んだ人は尚更かも。でも、ああいう無意識に人を傷つける言葉とか態度って現実に溢れているじゃないですか。
むしろ作品から感じるのは、傷つき悩みながらも健気に生きる人物の清々しい感性であって、読んでいる方としてはつい見守ってあげたくなるのです。著者もそういう思いで書いているのかなぁと。


3編の中で表題作の「冬のオペラ」が最後で長かったせいか、印象深いです。是非とも冬の京都に行ってみたくなりますね。そこで芥子色の服を着た女性を探してみたりなんかしちゃったりして。