6冊目 高村薫『マークスの山 下』

マークスの山(下) (講談社文庫)
下巻に入ると急激な展開で、先が気になり上巻と違ってさほどストレスを感じることなく読めた気がする。といっても内容的な濃さは変わらず、作品に込められた著者の魂のようなものを感じた。
そしてラストは冬山の峻厳な中に美しい情景が心に浮かぶ。これはこれで綺麗な終わり方だなと思った。
読み終わって、冬山に登ってみたいとも思った(まず無理なことだけど)。


この作品を読むことは、読者にある程度の忍耐を要するが、最後まで読むことによって、主人公・合田雄一郎の忍耐・苦悩を共有することができるのではかなろうか。万能ではない故に、人並みに悩んだりくじけたりすることもあるが、犯人を追い詰めることには並々ならぬ闘志を燃やす合田に読者として魅力を感じる。


不満というか個人的に気になったまま作中では明かされなかった点は、下巻に移ってからの水沢裕之の犯行時の心理描写が無いこと。それと彼にとってマークスの意味付けが、最初のシーンだけでは納得しづらい点。あと一人残された林原が警察からの追求に何の反応を見せなかった(ある意味精神的な異常さが見られた)のは、命を狙われたことと過去の事件が表面に出たことによる良心の呵責によるのだろうか。
以上、詳しく触れられないままラストへ突入していった感があった。