西澤保彦 『黄金色の祈り』

黄金色の祈り (中公文庫)

黄金色の祈り (中公文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

他人の目を気にし、人をうらやみ、成功することばかり考えている「僕」は、高校卒業後、アメリカの大学に留学するが、いつしか社会から脱落していく。しかし、人生における一発逆転を狙って、ついに小説家デビュー。かつての級友の死を題材に小説を発表するが…作者の実人生を思わせる、青春ミステリ小説。

吹奏楽部に所属していた中学2年生の”僕”は2年になってトランペットのパートを任されるようになったことで奮い立ち、熱心に練習に取り組みます。
それは取り立てて目立つところのない”僕”にとって、とびきりの存在価値でもあるかのように。
そんな中、吹奏楽部では3年女子のアルトサックスが盗まれるという事件が発生。
部長は音楽的才能に溢れるがエキセントリックなところがあって、たびたび問題活動を起こす2年男子(松本。”僕”は”コーちゃん”と呼ぶ)に疑惑を持ちます。
音楽に関する二人の確執に加えて持ち主の女子生徒を巡る三角関係もあるのではないかと想像します。
盗難事件の犯人は見つからいまま、今度は”僕”の使用していたトランペットが盗まれるという事件が起こります。
しかし、今回はなぜかプールの近くに放置されていたのが見つかって、無事戻ってきました。
やはり同一犯なのか? その理由は? なぜ犯人はプール付近に置いておいたのか?
”僕”は一つ上の教子先輩と事件について推理しますが、結局はわからないまま月日は流れます。
やがて先輩たちが引退して、新たに部長を決める際、なんでも機用にこなし、後輩に対しても面倒見が良いつもりでいた”僕”には誰も票を投じることがなくてショックを受けるのでした。


中学校で相次いだ楽器の盗難事件の謎を追いつつ、主人公の挫折と逃避を繰り返しながらの人生を追っていく青春ミステリと銘打った物語です。
プロフィールからすると、著者自身が作家になるまでの半生をなぞっているかのように描かれているかのようです。
同級生がどういうわけか使われなくなっていた旧校舎の屋根裏で死亡していた謎解きもあって、ミステリ要素も大きいですが、真犯人については評価が分かれるところではないでしょうか。*1
精神的に傷つくのを恐れて「自分が評価されないのは〇〇が悪いのだ」と自己欺瞞に走り、他人の瑕疵を眺めて自身を過大評価、それでいながら追いつきようがない他者の才能を妬みつつ、自分が”主役”になれそうな別の分野へと手を出す。
情けないっていったら情けないとは言えましょうが、ごく平凡な少年にとって思春期とはそんなもの。我が身を振り返ってみれば、そんな風に挫折を経験したり、逃げ出してしまう気持ちを理解できちゃうんですよね。
思い描くような”主役”になれなかった青春を描いたという点では、非常に心を抉られる内容であったのは確かです。
”僕”が一番気にしていた他人の目。中でも才能と容姿に恵まれて一番羨んでいたはずの”コーちゃん”が”僕”をどう見ていたかを最後になって明かされてショックを受けるのが無情でありました。


蛇足として、私はハードカバーの単行本を読んだのですが、表紙が内容に全然そぐわないです。
あれだとコメディかと思ってしまいます。
文庫版の表紙の方が雰囲気が出ていて良いですね。

*1:amazonのレビューを見ると、ミステリとしては反則との意見も