横山信義 『不屈の海6』

不屈の海6-復活の「大和」 (C・NOVELS)

不屈の海6-復活の「大和」 (C・NOVELS)

内容紹介

日本軍はニューギニアの放棄と引き替えに、米国との海戦に勝利。友軍の救出に成功した。米国は占領したニューギニアを前線基地とし、戦力を結集。フィリピン陥落を目標に定め、日本の息の根を止めんとする。
一方、グアムにも帝国海軍の最強戦力が揃う。その先頭には、奇跡の復活を遂げた戦艦「大和」の姿があった。皇国の存亡を懸けた最終決戦の時。「大和」は自らの借りを返すことができるのか。そして日本軍の仕掛ける、乾坤一擲の秘策とは――?
シリーズ堂々完結!

日本軍の退却後、米軍は西部ニューギニアに大軍を集結させて、フィリピン奪回を目指していました。
ルーズベルト大統領による史上初の四選を賭けた選挙を前にして国民の目にもわかりやすい戦果をあげること。
さらに自国の資源に乏しい日本にとってのウィークポイントを狙った作戦。。
いくら南方資源帯から資源を送ろうにも、途中のフィリピンを押さえられているかぎりは戦力を活かすことができずに立ち枯れていくことが予想されるのです。
唯一不安点があるとしたら、さしもの米軍もこれまでの戦いで将兵の消耗が激しかったため、国力に物を言わせて航空機や艦船を大量に作っても戦力化が追い付かないこと。
主力たる空母の慣熟訓練が間に合わなくて、予定よりも2隻少なかったことです。
それでもエセックス級とインディペンデンスがそれぞれ6隻ずつという巨大艦隊は航空機数で日本と同等か上回ってさえいました。
日本としてはここで負ければそのままずるずると敗戦への道まっしぐら。
勝つのは当然としても、これ以上戦力差が開く前に講和への糸口を得るのが首脳の考えです。
そこで日本軍としては、あえて正面から当たるのでも守りを固めるのでもなく、一計を案じて搦め手から攻めることになったのでした。


実は最終巻と書いてあってびっくりでしたが、濃い密度と迫力ある海戦シーンに溢れた巻であったと言えます。
本シリーズは初っぱなでまさかの戦艦大和が公試運中に奇襲を受けて大破。
戦争中はずっと改修で過ごし、最後になって晴れ舞台をもってきたというのが特徴であり、大和で始まり大和で終わったなという印象でした。
今回は特に史実の日本軍ならば絶対やらないだろうという戦術が多かったのですが、それを言っていたら仮想戦記にはならないので素直に楽しむにかぎります。
ともかく、あえて米軍の補給線を狙った後方への攻撃から始まる一連の作戦はほぼうまくいきかけたところで、ラバウル上陸船団に迫る危機。
旧式戦艦の意地とか艦隊決戦での大和活躍とか見せ場が続きました。
著者の今までのシリーズの中で出番の多い戦艦大和。攻撃防御のスペック的には最強といえども実際の戦いの中では沈没寸前にまで追い込まれたこともありました。
今回は最強戦艦にふさわしい無双ぶりを見せたんじゃなかなって思いますね。
それだけに最後は淋しいながらも納得するしかないのかなって気がします。
残念というか日米休戦前後の様子(特にアメリカ側)がほとんどなくて、孤立無援となったドイツの落日も駆け足であったということでしょうか。
好意的中立で武器生産を担っていたイタリアのムッソリーニが急逝*1したのもドイツにとって不運でした。
ずっとタイミングを窺っていたソ連軍が満を持して攻勢をかけたこともあって、ドイツだけが史実通りに容赦ない亡国の道を進んだということで哀れとしかいいようがありませんでした。
アメリカ、というより傲慢なルーズベルト大統領に対する”ざまぁ”展開があれば少しは溜飲が下げられたのかもしれません。

*1:暗殺の疑いもあった