13期・44冊目 『ゼウス―人類最悪の敵』

ゼウス―人類最悪の敵 (ノン・ノベル)

ゼウス―人類最悪の敵 (ノン・ノベル)

内容(「BOOK」データベースより)

北海道で妊娠女性の胎内から奇怪な生物が出現、山中へ逃げた。数カ月後、それは羆のような巨体と驚異の運動能力を持つ超獣と化して、民家を襲った。そして同様の事件が世界各地で起きた。やがて“ゼウス”と名づけられた化物は次々に増殖、大群となって都市部へと侵入した。地獄と化した北海道。ついに警察・自衛隊・住民を巻き込むゼウス殲滅戦に突入したが、惨事はさらに拡大した…。いったいゼウスとは何物か?人類はこの最悪の敵を斃せるか…。俊英が満を持して放つ驚愕の超弩級サスペンス。

以前、パニック小説まとめ記事を作った際に日記を書き始めた前から読んだ本でなにかあったかなと探していたのですが、後から思い出したのが本作。
ということで、もう十数年前に購入して読んだ本を再読しました。


北海道西部の四市市の中学校で野外スケッチに出かけた美術部の生徒及び引率の女性教師が行方不明となります。
数日後に発見された女性教師は妊娠しており、担ぎ込まれた病院でその胎内から胎児とは違う蛇のような小動物が飛び出して、医師を傷つけながら逃亡するという事件が発生。
それが全ての始まりでした。
死亡する前に女性教師はUFOに攫われて人体実験を受けたと供述していましたが、当局は犯人によって偽の記憶を刷り込まれたのではないかと推測。
消息を絶った地点を掘り返して調べると、生徒たちの遺骨、そして未知の卵が発見されたのでした。
やがて時が経ち、雪解けが始まる頃に原野を車とそん色ないスピードで疾走する獣が発見されます。
それは羆並みに大型で、一瞬にして二階に飛び上って壁を登れるほどの瞬発力や高い身体能力、両手のかぎ爪を振るって人を殺し、何発も銃を撃ち込まなければ倒せないほどに頑丈な外骨格を持つ驚異的な生物。
それが何体も四市市に出現して人を襲い始めたのでした。
死亡するとなぜか身体が融解して消えてしまうのですが、苦労して捕獲した個体を分析したところ、サルに近い脳を持ち、学習能力を有するという。
ただでさえ個体としての戦闘能力が突出しているのに、群として知恵を使うようになったら手に負えなくなる。
自衛隊の懸命な防衛作戦でも対処しきれず*1、札幌や小樽といった都市でも被害が広がる中、ゼウスと名付けられた獣の研究やこれを野に放った犯人捜しも続けられるのでした。


このゼウスと名付けられた人と似て非なる生物が持つ獰猛な性質に加えて驚異的な戦闘能力。これだけでも人類にとっておおいなる脅威なのですが、さらに既存の生物を母体とするところ。
つまり本能として食欲以外に排卵期の雌を襲って繁殖を行おうとする。そこには人間も含まれるというのがエグイ。
それゆえに女子供を率先して逃がそうとするも、バスが渋滞で進まないところをゼウスの群に襲い掛かられてしまうという悲劇が繰り返されます。
ゼウスは北海道だけでなく、東北の山地でも発生、そのまま南下する避難民を襲い、徐々に関東に近づいていく。
日本だけでなく、アメリカでも同じような事件が起こっており、このまま人類はゼウスに滅ぼされてしまうのか・・・。


舞台となった四市市の中学3年生・鎌田亮と韮沢明海を中心に生徒たちだけで避難するグループ。元自衛隊レンジャーで現役復帰して札幌で防衛に従事する亮の父。
この親子を軸に対ゼウス作戦が描かれていきます。
ゼウスが増加するにつれて市民が受ける被害が雪だるま式に膨れ上がっていき、避難民が大挙して南下するにつれて人間同士の争いも頻発。
そのパニックの内容はかなり衝撃的であるにも関わらず、冷静に対処する研究者や自衛隊幹部目線が多いので、あまり凄惨さを感じませんね。
著者特有の淡々とした文章も関係しているのでしょう。
そんな中で女子が圧倒的に多い中学生グループを率いる亮たちの避難行(時にゼウスとも戦い)がいかにもサバイバルといった感じで先行きが気になってしまいました。*2
主軸となる鎌田親子以外には、四市市の市議である明海の父が逃げ出した市長の代わりに音頭を取り、住民と力を合わせて市街地を要塞化して自足自給体制を築いていくのが素晴らしかったですね。
ゼウスが宇宙人や正体不明の生物とかじゃなくて、人が作ったものとして具体的な対応策をひねり出す過程も良かった。同時に犯人グループの異常さまで浮かび上がってしまったけど。
その反面、政府の対応がわかりにくかったり、本土の民間の様子はほとんど省略された点がパニック小説としてちょっと物足りなく思いました。

*1:自衛隊の弱みである弾薬の少なさが徐々に露呈する

*2:移動は父の縁故にも助けられたのでかなりラッキーではあったが。