9期・77冊目 『南海蒼空戦記1 極東封鎖領域』

南海蒼空戦記 - 極東封鎖海域 (C・NOVELS)

南海蒼空戦記 - 極東封鎖海域 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)
欧州で始まった第二次大戦より4年。中立を保つ日本はドイツから流出したクルト・タンク、エルンスト・ハインケルらの頭脳を得て、軍用機の開発に注力していた。さらに、広島を襲った地震により海軍が建造中だった「大和」の廃艦が決定。連合艦隊はこれを機に航空主兵に舵を切ることに。一方、陸軍は、大戦の混乱に乗じて蘭印の保護国化に成功した。日本の領土的野心を懸念する米軍の挑発行為が激化し、南洋の緊張が高まる中、遂にB25の奇襲で戦端の火蓋が切られる。日本軍は零戦を中心とした戦闘機でこれを迎え撃つ!

横山信義氏の新シリーズです。
確か史実ではベルサイユ条約で厳しい軍備制限を課せられたドイツがそれを維持するため、革命で弱体化した軍を鍛えたいソ連との利害が一致して、ソ連領の奥地で密かに訓練を行っていたとか(ラパッロ条約 (1922年))。
本作ではソ連の代わりに日本がなっているわけです。
クルト・タンク、エルンスト・ハインケルらの有名人物を始め、迫害されていたユダヤ系も含めてドイツ人技術者が航空技術発展に大いに寄与したのですが、本国からの帰国命令に従わなかったり、帰国後に再度来日したりと結果的に日本が技術者らを引き抜いた形になったために日独関係は冷却。
そのために日本は三国同盟もなく、イギリスとは外交関係を保ち、第二次世界大戦(概ね史実通り進んだが、ソ連によりウラル山脈まで占領に成功、西部戦線の立て直しできたので英米との戦いは膠着状態)にて中立を守ることになったというのです。
しかし満州国の権益やオランダ敗北後の蘭印の保護国化を巡ってアメリカとの関係は悪化。
日本から口火を切らせることで戦争を始めたいアメリカは様々な挑発行為を働くも日本は自重。
そこで宣戦布告とほぼ同時によるマリアナ方面での奇襲航空攻撃の挙に出たのです。


またしても新たな形での太平洋戦争を描いたシミュレーション戦記であります。
まだ始まったばかりですが、本シリーズの特徴と言えること。

  • ドイツ系技術者集団が核となる航空中央研究所(航空中研)が設立されて日本の航空機開発に多大な貢献を行った。海軍の零戦や陸軍の隼・二式戦(鍾馗)あたりは史実通りだが、海軍でドイツのFw190を思わせる機体が開発されたり、今後日本機の弱点である高高度性能を克服した機が開発される可能性がある。
  • 航空中研のドイツ系技術者による技術指導は航空機だけでなく電探や空中電話、対空砲などにも及び、それに地味だが部品規格の標準化が進められて、工業全般の底上げに役に立ったというのが今後航空戦を描く上で結構大きくなりそう。
  • 奇襲による先制攻撃を受けただけに初戦は米軍優勢。そこから日本軍がどう反撃していくのかに期待。苦しめられたB17、B25に対する切り札が終盤に出たが今後どれくらい活躍するだろう?
  • 1巻で登場した大鷹クラスの商船改造軽空母を除き、GF主力の機動部隊は二個艦隊あるとのこと以外詳細不明だが、戦時体制に入っている米軍相手にどれだけ活躍できるかちょっと不安。


『絶海戦線』と同様、航空主兵を描いていますが、氏の長期(と予想される)シリーズで戦艦大和が建造されない世界は珍しいかもしれない。*1
『絶海戦線』1巻のレビューはこちら
かと言って米軍は大鑑巨砲主義に偏らず、ほぼ史実通りの編成であり、昭和18年の時点ではかなり戦時体制に移行していて初っ端から苦しい状況なので予断を許さない展開が予想されます。
例によって世界状況も不明な点が多くて判断材料に困るところ。
そういう意味で現時点ではちょっと先が読めないシリーズですね。日本の技術力の底上げがどれだけ反映されているかという点に期待です。

*1:『群龍の海』シリーズ全5巻でも極端な航空主兵だったので大和は建造されなかったが