9期・72冊目 『十字屋敷のピエロ』

十字屋敷のピエロ (講談社文庫)

十字屋敷のピエロ (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ぼくはピエロの人形だ。人形だから動けない。しゃべることもできない。殺人者は安心してぼくの前で凶行を繰り返す。もし、そのぼくが読者のあなたにだけ、目撃したことを語れるならば…しかもドンデン返しがあって真犯人がいる。前代未聞の仕掛けで推理読者に挑戦する気鋭の乱歩賞作家の新感覚ミステリー。

竹宮産業の創業者一族である竹宮家が住まう屋敷、上から見た形状から通称十字屋敷を舞台に殺人劇が繰り広げられるというストーリーです。
プロローグとして創始者・竹宮幸一郎(故人)の長女にして実質的な後継者だった長女・頼子の突発的な自殺があり、その四十九日で一族が集まった夜に頼子の夫であり会社を継いだ娘婿の竹宮宗彦と秘書の三田理恵子が地下室で殺されるという事件が起きてしまいます。
裏口に犯行の残留物があるなど外部の犯行らしい形跡はあったものの、警察は内部による犯行を疑いました。
そしてついに三女の娘婿で会社の重役である松崎が収賄の証拠を取り戻すために宗彦と格闘とした際に刺してしまったことがわかったのですが、それでも三田理恵子の死などいくつか不審な点が残ったままでした。


幸一郎の孫にあたるヒロインの竹宮水穂は留学先のオーストラリアから一時帰国しただけに第三者に近い目線でこの事件を追っていきます。
とはいえ、従妹の佳織や祖母の静香との仲から内部犯行の可能性に心痛めるのですが。
そして当事者以外にまさに犯行現場を目撃していたピエロ人形視点の情景が綴られているのが特色です。
これが事件を目撃していながらも、床に落とされたり箱を被らされたりして、肝心な場面を見ていないのであまり役に立たないというか、惑わされるのですが(笑)
実は後々わかるのですが、実はピエロ人形が重要な鍵を握っていたということに気付かされます。
不穏な雰囲気が漂う洋館を舞台に不幸を呼ぶピエロ人形ということで、ややオカルト的な雰囲気を醸し出そうとしたのかもしれませんが、あまりそれは感じませんでした(ドラマならば演出次第で視聴者はそう感じたかもしれませんが)。
でもストーリーとしてさすがに惹き込ませるものがありましたね。
終わってみれば、なんだーと思うトリックですが、慌てている人の目は意外と騙されやすいという心理をついた点が巧妙かもしれません。十字屋敷という建物の特色も生かされていましたし。
ただ、最後に佳織が母・頼子に対して呟いたセリフが意味がよくわからなかったです。
竹宮家の人物が犯人を承知していた上で成り行きを見守り(時には庇うために嘘をつき)、そして片をつけようとしたのまではいいのですが、さらに復讐という意味合いまで付けたかったのかなあ?