8期・43冊目 『恐怖の誕生パーティ』

恐怖の誕生パーティ (新潮文庫)

恐怖の誕生パーティ (新潮文庫)

幸せな新婚生活を送っているサマンサは来る12月5日に40回目の誕生日を迎える夫・マーティのために盛大な誕生日パーティを企画。
サプライズゲストとして、マーティの旧友や恩師など過去に親交のあった人々を招こうと考えます。
そこで聞いていた出身校や故郷の機関に夫のことを問い合わせるのですが、不思議なことにどこもマーティが在籍した記録が存在しないのです。
しまいには軍隊に夫の認識票を問い合わせると、ベトナムで戦死していたという。
果たして夫のマーティは何者なのか?
過去に何らかの秘密があって別人にすり替わったとでもいうのか?
今まで何の不満もなく信頼を寄せていた夫に対して疑念が湧いてしまうのですが、本人に確かめる勇気もなく、弁護士・精神科医・警察などを訪ねるも明確な解決方法は出ないまま日々は過ぎてゆきます。
一方、毎年決まって12月5日に鳶色の髪の女性が犠牲になる連続殺人事件(通称カレンダー殺人)を追っていた刑事がいて、今年もその日が近づいているのに一向に容疑者が掴めないことに焦りを覚えています。
30年ほど前の12月5日に妻が夫を殺した事件があり、それを目撃した当時の長男(生きていれば40歳くらい)が事件のショックで日付を引き金にして犯行を行っているのでは?という推測が立てられるのですが、該当する人物は見つかりません。


事業家としても成功していて妻への思いやりも欠かさない理想の夫、更に新たな生命を身ごもったことがわかったサマンサはまさに幸せの絶頂にあるはずなのですが、そんな彼女が忍び寄る不安に苛まれていく様が巧みに書かれていますね。
何人かのアドバイス通り、本人に確かめられないかぎりは忘れてしまった方が良いとわかっていても探らずにいられない。そんな揺れる心理状態がよくわかります。
読む方としてはマーティの不可解な行動から事件に関連があることが早々にわかり、やがて警察の動きと共に犯人であることが確定。
ひょんなことで刑事とサマンサが知り合って情報交換の末にマーティへの疑惑が深まってきた後半、互いに疑心暗鬼を抱きつつも仲睦まじき夫婦を演じるあたりは緊迫感たっぷり。
12月5日が近づくに連れてますます過去に囚われるマーティの様子が不気味ですね。
そしてついにやってきたパーティ当日。
赤ん坊ができたことを知らされてマーティが動揺し、最後の最後まで迷った関係で状況は二転三転して目が離せない。
そしてハッピーエンドで収まったかに見えたところで愕然となる事実!
終盤は本当に翻弄され続けましたが、真のサプライズはパーティの後にあったというわけでした。