7期・69冊目 『しぶとい戦国武将伝』

しぶとい戦国武将伝

しぶとい戦国武将伝

内容(「MARC」データベースより)
保身、裏切り、脇役、転身、執念、復活、隠棲…。戦国乱世の真っただ中、是が非でも生き延びるというテーマを最優先させて、死にものぐるいで戦場を駆け巡った男どものあっぱれな生き方死に様。大リストラ時代の福音の書。

数ある戦国武将の中で特に名が知られているのは、信長・秀吉・家康の三傑および彼らと覇権を争った大名を除けば、華々しい活躍や見事な散り際を見せるなどして印象に残りやすい人物(真田幸村本多忠勝九鬼嘉隆直江兼続など)が多いかと思います。*1
本作はそういった華々しい印象は無いけれど、しぶとく戦国時代を生き抜いて家門や領地を守った武将たちが取り上げられています。
その多くは一般人どころか歴史好きにもあまり知られていないような、どちらかというと歴史上の脇役的な人物が多く、個人的にも名前は知っていたけど何をしていた人だっけ?といった人物もいました。
また、敗者として歴史上の表舞台から消え去ったはず・・・なのにちゃっかり生きていて、実は勝者よりも長生きした人物もいたりして。
そういうちょっと変わった視点が興味をそそられたので読んでみた次第です。


紹介されているのは、以下の武将30人。

  • 第一章 生きることを至上命題としたしぶとい奴ら

足利義昭今川氏真荒木村重、山名豊国、尼子義久宇喜多秀家織田信雄六角義治

  • 第二章 逆境に耐え、奇跡の復活を遂げたしぶとい奴ら

藤堂高虎小笠原貞慶立花宗茂、上條政繁、佐野了伯、仙石秀久丹羽長重

  • 第三章 乱世を渡り歩いたしぶとい奴ら

細川幽斎真田信之、藤田信吉、高山右近亀井茲矩、松下加兵衛、有馬豊氏

  • 第四章 名族の血を後世に伝えたしぶとい奴ら

相良頼房、秋田実季、相馬義胤、北条氏規、諏訪頼忠、朽木元綱織田有楽斎

  • 第五章 戦国の最終勝利者となったもっともしぶとい奴

徳川家康


第一章では特に一度や二度の敗戦くらいで命を落とすことなく、時には生き恥を晒しながらも老境まで生を全うしたしぶとい武将が挙げられていますが、簡単に死を選ばず生き残ろうとしたという点ではほぼ全員に共通しているのではないでしょうか。
戦国時代後期の籠城戦では城主一族が自害して部下の命を助けるという習慣*2ができはしましたが、むしろそれまでは助命されて攻め方に降るか、逃げて再起を図る方が多かったとか。
何かあったら責任取って切腹しなければならないという武士道の規範は江戸時代になってから作られたものであり、死と隣り合わせの戦国の世だからこそ武士たちは命を粗末にしなかったことがわかります。
領地を守るために強大な敵と精一杯戦って散るのを潔いと思うのは所詮他人事だからであって、規模は小さくとも一族と部下を預かる小大名、豪族たちにとって、強きに靡くのは生き残るために当然の策であったこと。それはいつの時代でも変わらないのでしょう。
また、戦に強いことだけが武将の取り得ではなく、当時もてはやされた文化である茶や和歌などの技能を武器に第二の人生を歩んだ者(今川氏真織田有楽斎など)や、名門であること自体が存在価値であり、欲を張らずに相応の身分で生き延びた者(相良頼房、秋田実季、諏訪頼忠など)もいたということは歴史の影の部分として意外に気付かなかったりしました。


やはりこの中で印象深いのは一度は窮地に陥りながらも奇跡の復活を遂げた武将たちでしょうか(第二章)。
運も実力のうち、と言いますが、本人の資質や実力に加えてうまい巡り合わせがあったように思えます。
例えば藤堂高虎豊臣秀長という主君に恵まれたことで戦以外の才能を伸ばした結果、徳川政権下でも厚遇されたし、仙石秀久は浪人後に小田原征伐で陣借りして見事にアピールに成功しました。立花宗茂については、一度は敵として戦った島津や加藤などの大名どころか、将軍さえも魅了させたその人格と人脈が身を助けて本領を取り戻すという見事な復活という結果を招きました。
それと戦で名を上げた父・弟の死後、幕府の嫌がらせや子・孫の代の騒動にも負けず、苦労して御家を存続させた真田信之の功績は意外と知られていませんが並々ならぬものであります。
人は華々しいエピソードに目が向きがちですが、その陰に隠れた人物たちのどのような人生があったのかを知るのも歴史の面白さの一つだと思います。

*1:小説・漫画やドラマなどで取り上げられる機会にもよるけど

*2:高松城清水宗治や北庄城の柴田勝家など