7期・16冊目 『陣星、翔ける』

陣星、翔ける

陣星、翔ける

内容(「BOOK」データベースより)
将軍足利義輝より百万石に値すると激賞された、天下無双の武人、魔羅賀平助。刃渡り四尺の大太刀と傘鎗という武器を携える彼を、人は「陣借り平助」と呼ぶ。桶狭間川中島など天下に聞こえる戦いで第一の大手柄を挙げたという強者だが、白米が大好物で女子には弱い。愛馬・丹楓とともに諸国放浪を続け、多くの大名たちに請われても仕えず、気が向いたときにだけ劣勢の陣に味方していた。そして、近江、信濃駿河と行く先々で待ち受ける戦国の罠。最強の男・平助、陣の行く末は。

常に劣勢の側に手助けをし、桶狭間川中島など数々の戦で武名をとどろかせてきた天下無双の武人・魔羅賀平助またの名を陣借り平助のシリーズ第三弾となります。
今回の収録作品は以下の通り。


1.鵺と麝香と鬼丸と
近江の渓流において2,3歳の幼子に出会った平助。そしてその子を追っていた三好狗神党との戦いになる。
狗神党とは三好氏の影の組織という設定で、三好3人衆が擁立する足利義栄(義輝の従兄弟)との対抗上、故・足利義輝の弟・覚慶(後の義昭)およびその保護者でもある細川藤孝を敵視している状況。
そして幼子の正体は細川藤孝の嫡子・熊千代。覚慶擁立に奔走する細川藤孝の妨害のために誘拐を企てていたところであった。
熊千代を無事保護した平助は自身の用事(託されていた名刀・鬼丸を返す)もあって、藤孝の正室・麝香の誘いを受け、藤孝・覚慶らのところへ向かう。


2.死者への陣借り
温泉に入ってくつろいでいた平助とは別に草を食んでいた丹楓のところに二人の娘が来て、着物を脱いで血を塗りつけるという不可解な行動に出る。
そして彼女らを追っていた警護の武家衆と何も知らずに戻ってきた平助が出くわし、誤解されて一触即発という事態に。
娘の一人は織田信長の姪で、この度同盟の証として武田家の跡取り・勝頼のもとへ嫁入りをする途上にあったとのこと。
このお転婆娘の行動がとんでもない騒動を巻き起こすことに。


3.女弁慶と女大名
前回の話の最後で南へ向かった平助は遠江駿河の国境を流れる大井川にて、大事そうに荷を抱えた若者が数人の男に囲まれているところに遭遇しこれを助ける。
若者は今川氏の武将・飯尾氏の元へ向かう途上で同行を誘われるが、桶狭間の件で面倒を恐れた平助は一人龍雲寺という寺に向かうが…。
男に代わって御家を守ろうとした二人の女傑に平助が振りまわされた話ともいえそう。


4.勝鬨姫始末
伊豆で温泉に浸かっていた平助は、男たちに追われていた歩き巫女を助ける。
しかし彼らは里見の忍びの一味であり、姦計にかかった平助は別に人質にしていた「たいら姫」と引き換えに旧知の間柄である北条綱成を殺すように強要される。
シリーズ第1弾に登場する勝鬨姫こと紗那姫と平助とのその後が明かされる話。


5.木阿弥の夢
平助にとって家族とも言える人々の住む堺に戻るべく河内に入ったところ、山中で山賊に襲われていた荷駄の一行に遭いこれを助ける。
一行の主は木阿弥という盲人であり、恩人である筒井家に全財産である一千貫を戦費として献上するということであった。
平助との出会いを喜んだ木阿弥は、献上するはずだった一千貫で、筒井家への陣借りを願う。松永久秀によって大和国の大部分を奪われた筒井家では若き当主・順慶のもとで復仇戦を挑もうとしていたところであった。




相変わらず戦には滅法強いが敵味方に関わらず女子供には弱いのが魔羅賀平助。
今回も女性絡みのエピソードが多い、っていうかそればかりですな。
ただ単に強いばかりでなく懐が広く心優しき平助は女性にもてるのですが、高名な陣借り者の習いで、寄せられるのは好意ばかりとは言えないわけでたびたび揉め事にも巻き込まれる。
そこで戦国時代という背景からして一筋縄でいかない女性の強さが目立つのです。
例えば「女弁慶と女大名」に登場の寿桂尼*1と飯尾連竜の妻・お田鶴の方*2など。それに架空人物ではありますが、「勝鬨姫始末」の紗那姫に里見のくのいちとか。
それに加えて、本作では腐れ縁とも言えるほど関わってくる狗神党の女幹部・鵺(ぬえ)が登場しますね。
立場上、鵺は何度も平助の命を狙うわけですが、軽くかわされるわけで。
でも時には協力関係にあったり(「木阿弥の夢」)、逆に平助の危機を救うことも(「女弁慶と女大名」)。「魔羅賀平助の命を奪うのはこの私だけ」なんてツンデレ気質がありありと見られます(笑)


今回も史実で記されるような戦場での活躍は少なく、正式な陣借りは「木阿弥の夢」における筒井氏と松永氏との大和争奪戦くらい。
だけど、有名武将が知られざるところで平助と縁を結ぶエピソードがこのシリーズの醍醐味であるとも言えますね。

*1:今川氏親、義元の母にして氏真の代まで政務を補佐した

*2:夫・連竜が謀殺された後、曳馬城にて籠城戦を指揮した